プロローグ
その日、俺、西田伊月は1人で下校していた。
仲が良くて方面が同じヤツらが部活やら委員会やら
でたまたま一緒に帰れなかった。ただ1人で下校する
のを誰かに見られるのは少し恥ずかしい。
周りの人間がさほど俺のことを気にしていないと
知っていながらも、一瞬でも「あの人はボッチ
なんだな」と思われるのはプライドが許さなかった。
故に、少し遠回りをして帰っていた。
歩き慣れない道を歩いていたが、なんとなく、
どの道をゆけば家に着くかは知っていた。
しかし、途中である道が目に入る。この道を
まっすぐ行ってすぐ曲がれば、大幅な近道になる
のではないかと考えた。そう考えると同時、過去に
似たような場面で迷子になったことも思い出した。
その時、どうしてかは分からないけれど、目を
瞑った。深く考えるためかもしれない。使命感の
ようなものがあった。俺は今、目を瞑る必要が
あると。
目を瞑ってしばらくすると、目を開くタイミングを
見失ってしまった。今、開けばいいのだろうが、
それでは少し気持ちが悪い。10数えることにした。
10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…
0と一緒に目を開く。眩しい。感じたのは、
それだけだった。ただ、どこか気持ち悪さが
あった。それは、マイルールに従っていないだとか
そういった落ち着かなさではない。単に体調が
優れないと説明すれば済むかもしれないが、
それ以上の意味があるように感じられた。
結局近道をする勇気は出ず、記憶にある道で
下校した。
家の扉に手を掛けるが、鍵がかかっている。
そうか、今日は親が買い物に行っているのだった。
バッグから朝入れた鍵を取り出す。
鍵を開け、玄関に入り、靴を脱ぐ。
「ただいまー」
家に誰かいるわけではないけれど、
そう言ってみた。最近お気に入りの歌を小声で
歌いながら、自室の電気をつける。
チカチカと何度か点滅した後に、電気がついた。
そういえば、今度電球を交換してもらうんだったか。
そんなことを考えながら扉を閉める。
扉を閉めようと動かすと、人がいた。人というか、
俺だ。俺がいた。
向こうの俺は怯えきった表情をしている。なんと
不細工なんだろう。そんな俺を落ち着かせるために、
俺は俺に最大限の笑顔で接する。冷静なわけでは
ないが、自分よりも取り乱している人間を見ると、
人は不思議と落ち着くものだ。
向こうも落ち着くために深呼吸をする。
深呼吸がおわり、少し間を置いて、俺たちは
同時に、同じ言葉を発した。
『マジ?』




