付録2 各種設定
ヴァイサーヴァルト王国の世界において、魔法とは、現実科学の観点からすれば熱エネルギーを移動させるものである。直接的に火や氷を扱うのではなくあくまでも熱エネルギーを扱う。周辺のエネルギーを凝縮するように集めて加熱し、そこにあるエネルギーを周辺に分散して冷却する。周辺からごく微量の質量欠損によるエネルギーが取り込まれている。
また、熱エネルギー移動の作用点に対して、熱操作のエネルギーの一部を転化して物理的な力を作用させることもできる。一般相対性理論における場を歪ませて物理的な力にしている。ただし、あくまでも熱操作の一部を転化しているものであるため、物理的な力のみ作用させることはできない。
この魔法は、人間が持つ魔力によって操作が行われる。正確には生命活動によって生み出される根源的なエネルギーが魔力で、それにより魔法が発現することになる。操作するエネルギーの量に応じた量の魔力が消費される。一度にどれほどのエネルギーを扱えるか、総量としてどれほどの魔力が使えるか、これらは個人の技量(獲得技能や先天的適性)に依存する。強い魔法効果を生むには大きな魔力だけでなく技術も必要になる。魔力が完全にゼロという人間はいないが、魔法を使うのは苦手という人達はいる。運動に対する得手不得手と似たようなものである。
生命にはその根源的なエネルギーによる干渉から自己防衛する反応がある。この生命の自己防衛により、魔力干渉を拒否することになるが、これを抗魔作用と呼ぶ。つまり生命には抗魔作用が備わっているため直接的な魔法作用を受けない。また物体に人工的な抗魔作用を施す技術もある(仕組みの詳細は未定義)。
抗魔作用は、あくまでも魔法に対するものなので、人体のすぐ傍で魔法で空気を高温にしてそれに触れさせると火傷させるということは可能である。
ただし、戦闘のように対峙する相手に損傷を与える目的でそのような手法を使うことは、様々な観点から効率的ではない。戦闘での実用性からすると、攻撃は鉄球を加熱させて高速に衝突させる、火薬を爆発させる(着火装置は不要)などになる。冷却は水を運用して氷を使う、冷却した金属粉を擦り当てるなどとなる。
一方で防具などはもとより、柄、持ち手、支台などには抗魔作用を施すことが多い。その一方で、銃の形態のものには冷却による連射性向上や、加熱による威力向上もあるため、どこまで抗魔作用を施すかは設計次第である。
エンチャントに特化したような魔導士が、従来的設定の魔導士と同等の位置付けになるだろう。武器運用とエンチャントを完全に分担することもあるが、状況に応じて分担したり単独でエンチャントしながら武器運用をしたりと、複合的な運用をすることが多くなっている。一言で言えば魔法武器使いということになるが、様々なバリエーションがある。単身で自身の剣を自在に操る魔法剣の使い手が、ひとつの花形とされる風潮はある。
人工的な抗魔作用を応用することで魔法の作用そのものを密封することができる。開封することで魔法の作用が発動する仕掛けとなる。ただし、設置トラップくらいでしか実用性が無いため研究も利用も停滞しているというのが実情である。
まず、密封するための準備と作業のコストが非常に高い。そして、外側が全て抗魔作用が施されているという構造のため、開封には物理的な力を直接かける必要がある。つまり、何らかの仕掛けを別途準備することになる。意図しない開封を避けるために強固にすると仕掛けが大掛かりになり、開封を容易にすると偶発的な開封が起きやすくなってしまう。更に、こうした手間の割に冷気や熱気を出すという単純なことしかできない。
榴弾のような用途もあるかもしれないが、単純な爆弾を投げるほうが何倍も費用対効果が高い。コスト度外視で威力を重視するような構成も、言及すらされなくなって久しい。脱出経路で追手を牽制するトラップとして使われることもあるが、それでも趣味の世界といった感が強い。
医療分野では魔法は道具のひとつに過ぎない。抗魔作用で人体を直接加熱、冷却できないからである。医療器具に対して加熱と冷却を行う。外科的な処置だけでなく、抑えめの加熱や冷却を長時間患部に当てるという治療もある。
焼灼術や火傷の冷却といった応急処置にも魔法はよく使われる。魔法武器にはそうした用途を想定した構造を持つものもある。
戦闘の舞台から引退して魔法医療士になるというキャリアパスも珍しくない。
金属と言えば鉄という具合に普及している。鉄は豊富に存在して固いため武器としての有用性が高い。融点が高いので加工技術が必要だが、それで魔法支援の炉が発展している。そうして、鉄の使用が生活にも広く浸透している。
銅が主流の時代もあったが、炉の発展により取って代わられて久しい。ただし銅の重さや展延性という利点もあるため、銅も相応に利用されている。
教育機関では学問と魔法を学ぶ。中等学校まではどこの町や村にもあり、学問も魔法も雑多に学ぶ。高等学校からは細分化され専門化された方向に進む。分野としては、一般的な学問、いくつかに分化した応用魔法、研究魔法、戦闘術などがある。
応用魔法は戦闘寄りのものであったり、医療であったり、生活支援的であったり、多岐にわたる。職能訓練に重きを置いた高等学校もある。医療は魔法無しでも成り立つし、魔法支援の分担もあるので、魔法適正が低くても進むものもいる。
町のパン屋や商人といった人はだいたい学問や生活支援魔法を学んでいる。学問高等学校はだいたいどの町にもある。村は規模によるが、だいたいは近隣の町の学問高等学校に通う。学問高等学校でも簡単な魔法の指導はある(体育みたいなイメージ)。
魔法高等学校は現実社会の大学の学部のような分化とまとまりと先のグレードがある。そうしたことから魔法高等学校は大き目の町にある。レベルが高くなると王都ファスダルグや大都市の王立アカデミーという形態になる。
王立アカデミーともなると高等学校、上級学校、研究所という先々のグレードが揃っている。もっとも、全ての王立アカデミーで全てのグレードがある訳ではない。もちろん学問も似たような感じで高レベルの機関もある。
教育に関する地域格差はどうしても生じている。ただし、魔法の比重が小さい方向の高等学校への進学支援の制度は充実している。特に技能系に関しては、高等学校のみ王都ファスダルグや大都市へと進学し、卒業後に地方に戻るというケースもそれほど珍しいことではない。
一方、魔法の比重が大きい方向の場合、非常に優れた一部の者がより高度なほうへ進むという傾向がある。卓越した魔法の技能や才能を見越して教育機関のほうからスカウトするということも稀にある。
魔法の比重が高くない領域を重点的に支えることで格差を抑えようとしているのに、魔法の純度の高い領域内では大きな格差があるという皮肉な社会構造となってしまっている。
国内では一神教が信仰されている。女神メーデルシアが慈愛で人を支え導きを示してくれる、というシンプルな教義を旨としている。信仰に魔法は絡むが支配的なものではなく、魔法は女神様が我々に与えてくれたもの、とされている。女神様は誰であっても、魔法が不得手でも、等しく支え導きを示してくれる、という教えがちゃんとある。
他の信仰は基本的にないものの、メーデルシア信仰の程度は個人差がある。ほとんどの人が緩い信仰で道徳感の一部という感じである。
女神像に祈りを捧げるというのはあるが、像は模倣した象徴に過ぎないとされている。聖体や御神体のような神そのものに等しいといった、権威に繋がるような物質的なものは無い。
もちろん、女神像を粗雑に扱うことには抵抗感や罪悪感はある。ただし、人の写真を焼いたり切り刻む時の抵抗感や罪悪感と似たようなものに過ぎない。
天恵たる魔法を暴力的に使ってはならない、と、天恵だからこそ突破に使うべき、という思想対立もあるが一部の過激な人達によるもので一般的ではない。
王族のファスダルギーネ家の中でも信仰の程度に差はあれど、政教分離が成立している。ただし、王都ファスダルグには中央教団という大きな組織が文字通り王宮の横にある。メーデルシアの象徴と緩やかな信仰が長年積み重なった結果のようなものである。
中央教団には階層的な下部組織があるものの実質的には巨大な組織グループを構成している。王都ファスダルグや大都市から離れるにつれて末端組織のようになっていく。社会構造として、教団組織への特別扱いが皆無ではないが、その程度が低く信仰の緩やかさのためか、社会としては許容範囲とされている。
街道が整備され駄獣を使った運輸システムが機能している。駄獣の基本はウマ・ロバ・ラバで、レンタル事業が一般生活の中でも展開されている。
荷車だけを所有して駄獣をレンタルするというスタイルも一般的である。都市や町の中という閉域だけでなく、各地にレンタルの拠点が点在する。
駄獣に荷車を牽引させて引いて隣町に行くというのも生活の一環としてある。拠点で駄獣を交換しながら長距離を移動したりもする(駄獣の負荷軽減)。
社会的に駄獣そのものも流通対象となっている。そのため事業としての拠点でなくとも、駄獣を交換することもよくある(特に地方や教会)。ただし、ウマは世話も扱いも技術やコストが必要なのでロバ・ラバと取り扱いが枠として異なることが多い。
レンタル事業として広域ギルドや商会が運営していることも多い。配置数調整のための運搬業務も発生し、商機であったり情報交換や小物運輸の基盤ともされる。大都市近辺では王国が認可や規制をし、インフラとしての最低限の秩序維持をしていることもある。地方では町や村が連帯していることもあるし、個々人の善意でそれとなく成り立っていることもある。
魔法による熱作用の発展のためか、雷や磁石を分析しようという動きがなかった。よって電磁気としては雷と磁石くらいしか認知されていない。
雷は自然現象のひとつであり、電気という概念も言葉もない。これにより「静電気」という言葉もなく「小雷」と呼ばれている。小雷もかつては異端の力として難癖を付けられることもあった。
磁石についてもあまり強い関心がなく方位磁石くらいしか実用品がない。
「電」という文字を使う時は明らかにメタ表現がであるように細心の注意を払う。
実はこの世界では熱力学的作用と電磁気学的作用を起こすのが魔法だったということになる。
過去にも電磁気学的作用に関する適性のある者が他にもいた可能性もある。軽く電流を流してしまったり、磁力で金属を少し動かしてしまったり、ということもあったかもしれない。しかしながら、熱作用の発展のためか深く追究されずに見過ごされてきた。
電界と磁界に対してどれくらい感じ取れるかは、能力や適性として個人差がある。
抗魔作用は電磁気学的作用にも干渉する。つまり体内にある電位や磁位を直接的に操作することはできないし、体内の電子を直接動かすようなことはできない。
もっとも、人体の付近で電位差を構築して電子を動かせば、そのまま人体に当てることは可能である。高出力であれば熱力学的作用よりも直接的な攻撃方法にはなるものの、空中放電であるため制御は難しくなる。熱力学的作用と比較すると操作感覚が複雑だからである。もちろん磁界作用で制御できなくもない。この辺りは物理的な武器を工夫することになる、というのは熱力学的作用と同じである。
熱力学的作用と同様に電磁気学的作用に使うエネルギーの一部を物理的な力の作用に転化することはできる。ただし熱作用よりも転化効率が悪い。
また、適性さえあれば熱力学的作用と電磁気的作用を一人で使うことはできる。もっとも、同時使用が実用的かどうかはまた別の話である。




