エピローグ
門の崩壊をきっかけに、教団は総崩れとなり完全に制圧された。
華やかともいえる制圧劇の裏で、元義勇軍で構成される小隊によって、国王が無事に保護されていた。
その小隊には、ある四人が現場で遅れて合流していた。隊長に統制されながら、四人が複数の球体や金属索を駆使し、瞬く間に敵兵を無力化していき、残りの人員が捕縛等で制圧していった。こうして、小隊は迅速な動きで、国王の元まで辿り着いたのだ。
そして、その四人の中にいた戦災孤児だった兄妹は、国王が保護されるや否や、新しい力に関する全ての情報を国王に捧げたいと申し出た。国王もまた、それを社会のために使うと宣言して応諾した。非公式な出来事だが、これが王国史における重大な一歩だった、とされている。
兄妹は、動乱後に王家の支援を受けながら、電界作用と磁界作用の魔法、および、それらの応用技術を各方面へ広く伝える活動を行った。非常に若いとされた二人だが、兄はどんな場面でも毅然と対応し、妹はそれを支えるように調整役として立ち回った。
自分達が関わった新しい魔法と関連技術、兄妹はそれらが一方的な暴力に独占されない社会を目指した。形になったと確信できるまでに数年を要した。
その後、兄妹は故郷とする町へと帰っていった。警備隊の職に再び就き、広く周辺地域と連携し、平和と治安のために活動を続けたという。
四人の中にいた鍛冶屋の大男は、兄妹の活動の一環として、研究機関において魔法に関連する製造技術を伝えた。理論に拘らないのに精密な製造ができることに対して、アカデミーの研究員も、他の職人も舌を巻いたという。
大男は、兄妹より少し早く役割を終えた。王国軍のある隊長が熱心にスカウトしていたが、いつも大笑いで断っていたという話も聞く。故郷の町へ戻ると、元の工房で再び働き始めた。親方から、他の誰よりも厳しく指導されていたが、最有力の後継者候補であるとも言われていたという。
そして、最後の一人である少女は、尋常ならざる魔力量と強大な雷魔法により、大いに注目を集めた。しかしながら、兄妹の活動が始まるとすぐに妊娠が発覚する。
王家の配慮により、出産と新生児養育のためにと、一年程公の場から姿を消すことになった。
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時は流れ、乳飲み子の世話もある中で、少女は公の場に戻って来た。
いや、少女と呼ぶのは少し違和感があったかもしれない。確かに、年齢としても、あどけなさの残る表情にしても、まだ少女と呼ぶことに差し支えはないものではあった。しかしながら、誰もが圧倒される芯の強さを時折見せることがあったのだ。
少女は、魔法研究に対して積極的に協力し、また、兄妹の活動に帯同することも多かった。これが、雷魔法理論の確立と実践に多大な貢献をすることになった。
そして、兄妹が王都を去った後、国王直属の雷撃隊が組織され、少女が初代隊長を務めることとなった。当然ながら、いくらなんでも若すぎるとの批判もあった。だが、親しみやすくも厳しさを忘れず、前線で活躍しながらも後進の育成に注力する、そういう姿勢とその成果が高く評価され、当初の批判はすぐに払拭された。
更に、雷撃隊そのものを戦略兵器としつつ要衝を的確に制圧するという基本方針は、後世にも引き継がれていき、初代隊長による最大の功績とも言われることになる。周辺諸国からは、激甚雷禍と呼ばれて恐れられたが、雷撃隊により多数の死傷者が出たという記録は存在しない。
少女が佐官や将官へと昇進していくという未来を誰もが疑わない中、十年も経たずに退役してしまう。伝説の未婚の一児の母として名が残った。父について、決して多くを語らず未婚を通したという。
その子は、電界作用の適性に加えて、磁界作用の適性も併せ持っていた。しかし、雷撃隊にも応用技術にも見向きもせず、アカデミーでひたすら魔法研究に明け暮れていた。
ついには、電磁気作用の魔法の基礎理論を体系化し、各種の応用への道を拓いた。そして、必ずしも発光を伴わないことを承知で光魔法と名付けた。
世間では「新しい魔法の開拓って、ずっと式を書いてるだけでやれるものなの?」と言われ続けていたという。
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更にその子の子(少女の孫)は、光魔法に対する非凡な資質を見せるも、野放図に遊び回り幼少より周囲をよく困らせたという。祖母からも修練を勧められるも怠りがちな一方、親の研究を横目で見て光速突破に興味を持つ。
そして時は流れ、祖母は人より早かったが安らかにこの世を去り、幾重にも連なる偶然により孫に機会が訪れた。
土地の物理形状、地下鉱物配置が形成する磁場、天候からくる電気的状態、全てが揃うのはまさに今夜しかないという状況になった。
勝手に設置した仕掛けだっていつ取り払われるかわからない。
孫の手には、祖母から形見としてもらった髪飾りがお守り代わりとして握られている。結局アカデミーを飛び出してしまったことを祖母に咎められるかもしれない、それだけは懸念事項だった。
何はともあれ、タイミングが合うのを祈るしかない。
高エネルギー体を高速で衝突させれば収束して超高密度エネルギーになり、それが光速突破に繋がる、と考えている。机上の理論としても脇が甘いだろうし、そもそもまとめきれていないが今はやる。
半径20m程度の円の中心に立ち、円周上の一点に向けて弾を撃つ。
即座にその点から円周に沿って粒子を逆方向に二つ放つ。
粒子は真反対ではギリギリすれ違う。
そして出発点で粒子がぶつかると同時に弾もそこに加わる。
奇跡的な偶然があらゆるタイミングを揃える。
現実科学のブラックホールとも言える巨大な質量エネルギーが発生した。
周囲数メートルを飲み込み、孫もギリギリで助かったものの手にあった髪飾りは飲み込まれてしまった。
髪飾りはあえなく粉々に砕け散った。
しかし、現実科学の相対性理論を超越したその空間では、髪飾りの粉砕が作用してわずかな一筋が分化した。それは光速を突破して時間経過を追い越す。ブラックホールは瞬時に収縮して消滅したがその一筋は進む。
光魔法に挑む才能に富む努力家の若者と、後に伝説となる雷撃隊の隊長を経由して、あの少年まで届いた。
あえて現実科学でいうなら時空を超える電波ともいえる一筋。
それが少年の電界作用と磁界作用を開花させた、かもしれない。




