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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第三章

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第三章 第30話 力と

 制圧作戦は、開幕から総力戦の様相を呈していた。


 誰が見ても明らかなのか、情報が漏れていたのか、それとも敢えて漏らされたのか、雷貫砲が黙示の門を狙うための場所取り合戦が激しい。


 マガスが前部支台を背負い、カールが砲身を背負いながら、同じ王国軍小隊に護衛されながら進む。


「マガスは魔力温存の護衛対象なのに、俺は全力の護衛側なのかよっ!」


 カールが、どこか満足気に愚痴りながら大剣を振るう。


 そうした混戦の中、カールが姿勢を崩してしまい献槍隊の槍が迫る。


(やべっ! しくじった!)


 ガキン! ゴゥン!


 負傷を覚悟した次の瞬間、金属音と打撃音が続けて響く。


 身構えて上げた手を下ろすと、そこにはカールを見下ろすように、ジムが立っていた。


「隊長さんともあろうお方が、雷貫砲の手伝いなんかして大丈夫なんですかい?」


 尻もち状態で軽口を叩くカールに、ジムが手を差し出す。


「ジージーが、隊に必要で優秀な人材をスカウトしに来ただけさ」


 ジムの手を借りて、カールが立ち上がる。


「町の鍛冶屋に何言ってるんすかね、この人は」


「この戦争が終わったらってヤツさ。さあ行くぞ」


 一方、ジョンとレナが、後部支台を手分けして運んでいる。こちらも王国軍小隊が同行しているが、やはり多少の戦闘行為は避けられない。


「レナ! もう少し魔力を温存しろ!」


「わかってる! でも無理!」


 レナがシンプルな熱鉄球銃を手に、近付く献槍隊を牽制する。


 そしてヴィル。手厚い保護とでも言わんばかりの強い護衛体制だった。


(うひゃー、攻撃がきっつい。でもこれなら雷導索も出番はないかもね)


 制圧作戦全体から見れば、雷貫砲の発射は最初の取っ掛かりに過ぎない。しかしながら、王国軍にとっても最重要行動であり、各人が着実に歩を進めていた。


*****


 発射地点の小高い場所は、そこだけ人がいない状態になっていた。


 まるで、都市の谷間にある空き地のようだ。王国軍が、遠巻きに戦線を作り、場所を確保しているからだ。


 マガス、カール、ジョン、レナの四人がほぼ同時に到着する。四人は即座に雷貫砲の組み立てを開始した。


 無言で作業が進み、黙示の門に向けた設置が終わる。


 マガスが、冷気対策の外套を被り、華奢な前部支台を補助するかのように砲身を支え、微調整をする。


 そして、静かに口を開く。


「大丈夫です。よろしくお願いします」


 激しい戦場のはずなのに、一瞬の静寂が訪れる。


「オーケー、俺はジージーの加勢に戻る」


 カールが、そう言って場を離れようとしたが、一旦足を止めて言い放つ。


「皆、頼んだぜ」


 鍛冶屋の大男が、雄叫びを上げながら戦線へと戻っていった。


「リナ、全力で冷却するぞ」


「兄貴も私に合わせて手抜きでもしたら、絶対に許さないから」


 戦災孤児だった兄妹が、いつものような掛け合いをしながら冷却を始めた。


 少し離れた戦線の喧騒と、空気が冷えていく音が混じり合い、まるで耳鳴りでも起きているような感じがした。


*****


 程なくしてヴィルが到着した。


 これまでにないほどの、溢れんばかりの魔力を感じさせながら、準備の整った雷貫砲へ駆け寄ってくる。


「ごめんなさい! 遅くなりまし、た……」


 今まで見たことのない設置状況に、ヴィルが一瞬戸惑った。


 それを見越したかのように、すかさずマガスが叫ぶ。


「ヴィル! 全力で撃て!!」


 その声を聞き、ヴィルは躊躇なく持てる限りの力で一撃を放った。


 全てを終結させる強烈な一閃、そして轟音が響き渡る。


 王都ファスダルグ全域で、空気と地面の震えを感じることができるほどだった。地震とも落雷とも異なる、誰もが感じたことのない衝撃だった。


 そして、その中でマガスの命も終わりを迎える。


*****


 黙示の門破壊後の制圧行動が進行している。


 喧噪を遠くに感じながら、自壊した雷貫砲を前に、ヴィルは割座して自問自答する。


 本当にこれで良かったのか?


 力で力をねじ伏せて何を解決したのか?


 事の発端は、自分の存在ではないのか?


 好奇心や感情の誘惑に、負けたせいではないか?


 ずっと逃げ回って、力を使わないという道はなかったのか?


 多くの犠牲は、本当に必要だったのか?


 マガスの命だけでも、と思う自分は許されるのか?


 本当に本当にこれで良かったのか?


 答えなんかどこにもない。


 少女は、少年の亡骸であるはずのものを胸に、ただただ涙するだけだった。

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