第三章 第29話 軌道の選択
「雷貫砲をどう撃つか、しか選択肢の余地はありません」
何とも表しがたい雰囲気の中、マガスが続ける。
「王国軍も、わざわざ色々な調整をしてでも撃たせるということは、門への攻撃を必要としているからでしょう。皆としても、終結を早めるために撃つことに異論はないはずです」
そして、マガスがまとめるように言った。
「黙示の門を確実に破壊し、僕らの力を公知のものとすると同時に、動乱の終結に弾みをつける。これが僕の狙いです」
レナが、念のためという程度に弱々しく口を開く。
「動乱の後に、力の存在を示すというのは……」
しかし、ジョンが静かに否定した。
「それは無理だろう。まず、実演がなかったら狂言扱いされる。そして、その頃は王国軍の管理下だろうから、実演自体が難しい。強行しようものならテロリスト扱いされるだけだ」
皆の口が重い。
マガスが穏やかな口調で言った。
「正直に言えば、何をすればどうなるかはわかりません。王国軍の思惑通りに行動したら、雷の魔法も雷管砲も平和の力になっていくかもしれません。黙示の門を破壊して力の存在を示したら、隣国が複数の雷管砲で攻めてくることになるかもしれません」
マガスが軽く一息つく。
「でも、少しでも、皆の未来に可能性があるほうを選びたいのです」
何をどう言えば良いのか。誰もが迷っているところで、カールがマガスに聞いた。
「マガスはそれで良いのか? 自分が支台でヴィルが全力で良いのか?」
「はい」
「そうか……」
短く迷いの無いやりとり。
次に、レナが確認するように聞く。
「ここにヴィルがいないってことは、伝えないつもり、なのよね?」
「ヴィルに伝えると、雷撃の出力が落ちてしまうと判断したから。それに……あー、いや」
マガスの勢いに陰りが見えた。レナは、少しでも押してみようと続ける。
「それはわかるけど、ヴィルには酷ではないの? 一番の当事者なのに、意見も言えず選択もできずに、結果だけが突き付けられることになるんでしょう?」
マガスが口を開く前に、レナは言葉を繋いだ。
「何かあったら、ヴィルはずっと責任を感じ続けることになるんだよ?」
すると、マガスは呟くように言った。誰にも聞こえないような声量で。苦虫を嚙み潰したような表情で。
「その荷の代わりに、来る日も来る日も言われるがままに雷撃を放つ……」
「え……何?」
うまく聞き取れず、レナが聞き返すと、マガスは表情を戻して今度はきっぱりと答えた。
「ヴィルに限らず、どんな結果であっても、皆には次に進む強さがある。これまでだってそうだった。だから、明らかな思惑に甘んじるより、何か可能性がある方へ進む道があるなら、そちらを選ぶべきだと思う」
王国軍の想定通りに事が運ぶとどうなるのか。マガスの意思の通りに実行するとどうなるのか。誰もが最悪の想定を口に出せず、レナもマガスの決意を崩せない。
それでも、レナは引き下がらない。
「ヴィルがさ、マギーはズルいんだよねって……嬉しそうに言ってたんだよ?」
悔しさと悲しみを堪えたような表情でレナが力無く呟く。
「こういうこと……じゃないよね?」
しかし、まるで意にも介さないように、マガスがジョンにも向けて言った。
「砲身が大きい分、冷却は今まで以上に力を入れてください。僕は、弾道の精度が確定するまで、何としてでも磁線を維持します」
レナの目に涙が滲んでいる。
ジョンが前に出て、まず、レナに優しく言った。
「レナ、今から重要なことを言うから、まずは正せ」
レナが目元を拭うのを確認すると、ジョンが整えた調子で続ける。
「ジョン・マルセスの名の下に命令する。制圧作戦では、王国軍と連帯して行動し、この雷貫砲を使う」
その言葉で皆が姿勢を正す。
「発射地点までの移動は、王国軍からの依頼に応じる。カーライル・ハマーとマグシオン・クァエは連帯し、砲身と前部支台を運搬しながら、発射地点を目指す。ジョン・マルセスとリナータ・マルセスは連帯し、後部支台を運搬しながら、発射地点を目指す。ヴィオネール・コレットは単独で発射地点を目指す。移動中は、各自の判断において、付近の王国軍と適宜調整する」
そこまで一気に言って一息つく。
「発射地点では到着した人員で、雷貫砲の組み立て作業を行う。組み立てが終了したら、発射体制に移るものとする。カーライル・ハマーは護衛行動に移る。マグシオン・クァエは前部支台の補助を担当する。ジョン・マルセスとリナータ・マルセスは砲身冷却を担当する。ヴィオネール・コレットは発射の雷撃を担当する」
最後に、居を正すようにした後に言った。
「なお、発射体制における全ての指揮はマグシオン・クァエが行う」
ジョンが、これほどまでに形式張った言い方をするのは初めてだ。命令とは言ったが、決意表明なのかもしれない。
「オーケー、俺は全力で砲身を運ぶぜ」
カールの言葉は、いつも通りのものだったはずだ。でも、何か特別な気持ちが含まれているのか、どこか遠くで響いたように感じられた。




