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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第三章

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第三章 第28話 前夜

 制圧作戦の前夜、マガスがカール、ジョン、レナの三人を集めた。


「明日の制圧作戦ではこの雷貫砲を使います」


「今までで一番大きいヤツだな。これを使うのか?」


 カールが、少し驚いたように尋ねる。


 製造したものの、比較的安全な場所から一度撃って以来、可搬性の問題から整備後は、事実上お蔵入りとなっていたからだ。


「ええ、黙示の門を確実に破壊するには、これとヴィルの全力が必要です」


 ジョンが制止するように聞く。


「待ってくれ、マガス。制圧作戦の状況からすると、俺達だけでは運べない。どうやって運ぶつもりなんだ?」


「前部の支台に、簡易構造のものを使うことにします」


 脇に置いてある、棒の束とでも言うべきものを指す。衝立の支えにでも使うのか、という程度のものにしか見えない。


 カールが顎に手を当て、雷貫砲全体を眺めながら言う。


「ふむ、それなら運べるだろうが……」


「いや、そんな華奢な棒みたいな支台で撃てるのか?」


「大丈夫です。僕も支えます」


 ジョンの質問にマガスが答えながら、前部の支台接続部で支える身振りをした。


 三人が絶句する。


 人間が支台をやろうものなら、どういう結果になるか容易に想像がつくからだ。


 カールが、気付いたように慌てて言う。


「いやいや、そういうのは俺の担当だろう?」


「いえ、その場で制御の調整が必要なので、僕でなければ無理です」


「ちょっと待ってよ、マガス」


 レナが詰め寄る。


「本気なの? 冗談でもやめてよ」


 マガスは、技術論で冗談を混ぜて話すようなことはしない。そんなことは、誰もがわかっている。


「そうだ、マガス、説明してくれ。今や五人が揃わないと、雷貫砲は運用できない。独断専行、とまでは言わないが……まずは、説明してくれ」


 ジョンが、戸惑いながらも改めて問い質す。


「黙示の門を確実に破壊するためです。いや、もちろん、あれだけの大きさなので、全てを壊すのは無理です。正確には、入口の扉を完全に開く、といったところでしょうか」


 マガスがそう言うと、レナが聞き返す。


「今使っているものでは難しいの?」


「雷貫砲が壊れる出力で撃っても、扉を半壊にできるかどうか、といったところかな」


 マガスがそう答え、三人に向けて説明を続けた。


「王国軍がそういう結果になるように意図的に調整している、と僕は考えています」


 発射場所をもう少し近くにしても、リスクは何も変わらないように見える。それなのに、指定された発射場所は少し遠い。そもそも、戦術的観点からすると、扉の半壊を狙うことに意義があるとは思えない。


 私兵団ということで、何らかの配慮がなされている可能性はあるか、いや、クヴェレン橋以来、そんなものを感じたことはない。それどころか、むしろ遠慮なんて無いように思える。


「移動にしたって疑問点があります。相変わらず、王国軍は我々とは別行動という体ですが、今回は護衛のような配置になっています。」


 しかも、五人を三つのグループに分け、発射場所で合流することになっている。一見すると、リスク低減のように見えなくもない。


「手厚い、というよりも、監視と抑制を意図しているように思えます」


 カールとレナがその意味を噛みしめ、何も言えずにいるところで、ジョンはマガスに同意した。


「皆に言うべきかどうか迷っていたが、実は、俺もマガスと同じことを考えていた。フェスガングの砦の時と同じようなことはさせない、という思惑があるんじゃないかとさえ思っている」


 すると、カールが確認するように尋ねる。


「王国軍がそうまでするのは、何か思い当たる理由があるのか?」


 ジョンが、少し逡巡してから口を開く。


「とりあえず、なぜこの雷貫砲を使うかという話はおいておくとして、あくまでも俺個人の考えを言うとこうです」


 動乱が終われば、異端という世間的な足枷を気にする必要はなくなる。むしろ、動乱に絡めて、善悪という観点を操作することすらできる。そして、雷の魔法と雷貫砲は強力であるため、政治的にも軍事的にもどう扱うかは非常に重要だ。


「今の中央教団のように、力で何かを成し遂げようとする組織に渡ってしまうのだけは、何としても避けないといけない。現状からしたら、王国軍が管理するのが安全で効率も良い、と考えるのは当然のことだと思う」


 全容を把握できていない中途半端な状況で、各種の情報が開示されてしまうことになると、様々なところが理論や技術の存在を知ることになる。そうなると、何がどこまで脅威になるのか、どう備えるべきか、負荷が非常に大きくなってしまう。


「あまり事を大きくしないようにして、王国軍がスムーズに雷魔法と技術を接収できるようにする、というのは合理的ではある」


 ジョンの説明に、カールが頷く。


「なるほど。今回は控えめな破壊に抑えて、世間から注目を集めないようにしよう、ってことなのか」


「まあ、それで上手く接収できる流れになるのかは、わかりませんけどね」


 ジョンがそう言って肩をすくめた。すると、マガスが続く。


「王国軍が、雷貫砲とそれに関わるものを押さえようとすると、僕ら五人は実質的に拘束されることになると思います」


 その言葉で、急に緊張感が漂い始める。


「非人道的な扱いを受けるとは思いませんが、今までよりずっと高度な軍事利用に向けて、研究開発に関与することになります」


 既に実例があるのだから、理論、製造、運用といったものは、おそらく、それほど時間をかけずに着実に確立されていくはずだ。雷撃や磁線も、魔法として基礎が確立されていけば、適性のある者がそのうち見つかるだろう。


「ただ、膨大な魔力量と高出力を兼ね備える者は、そうそう現れることはないでしょう」


 軍事研究開発において、希少性の高い資源と見做された人間が、どのような生活と人生を送ることになるのか。そこに、人間性が介在すると思う者などいないだろう。

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