第三章 第27話 思い巡らせて
戦況が最終局面へと近付いていく。
王国軍は、中央教団本部目前まで進行してきた。王都ファスダルグは、都市として小康状態は保っており、小競り合いとも言える小さな衝突が発生することもあるようだ。
郊外にテント群で居を構える臨時統括作戦本部では、制圧に向けた作戦と関連事項について話が進められていた。
中央教団本部は、王都の全てを制御下に置いてはいないものの、周辺をある程度は支配できていると言っても良かった。そのため、王国軍が完全に制圧するためには、それなりの損耗を覚悟する必要があると思われた。
とはいうものの、時間をかけた持久戦に持ち込んで、兵糧攻めも不可能ではなさそうだ。
「王宮の非常時の蓄えも取り込んでいるとはいえ、長くは持たんだろう。ただ、ここまでの凶行に及んだ連中が、追い込まれて何をするかわからん。そうしたリスクを考えたら、理性があるうちに制圧を敢行すべきだ」
「もっともだな。実質的に内戦として、既に他国に認知されてしまっている以上、国境付近のバランスを考慮すれば、長引かせるのは得策ではない。本格的に寒くなる前に、決着をつけたほうが良いだろう」
「示威行動は必要だ。動乱後の国内再興においても、絶大な効果を発揮するはずだ。あと、中央教団を完全悪にせず、一部の暴走という形にすることも重要だ。これは、国王陛下の意向でもある」
「穏健派を『救う』ことも重要だな」
「そうであれば、中央教団幹部の制圧に集中したほうが、迅速に進められる」
「陛下や大臣より優先させるか……」
「万が一のことがあっても、女王陛下なら、暫定王位として手腕もカリスマも充分だ。むしろ、物語として映える」
「流石に不敬は慎め」
「あの御二方なら、これを不敬とは言わんだろう。王国のために、あらゆる事態を覚悟して臨まれておられる。両陛下の卓越ぶりは、近年の歴代君主の中でも突出している。今回の動乱で、それが陰るのは実に口惜しい。おっと失礼、不敬には注意する」
「さて、最大の分岐点は、要塞化している黙示の門の突破だ」
「不開・不動・不沈の黙示の門、とはよく言ったものだな。周囲の複数の建物も含め、数年かけて建造されて、それらが今や全てが連なる要塞だ。なんとも忌々しい」
「荘厳な宗教施設と評されつつも、城壁のようにも見えると言われてはいたが……まさか、そのままに機能するとはな」
「雷貫砲で黙示の門を破壊して、精鋭の魔法剣士隊を中心に制圧、という流れが最良の脚本だな。おっと、雷貫砲じゃなくて大砲なり砲撃なりと言わんといかんのか」
「雷貫砲で完全に破壊されるのはまずい。雷の魔法もいつかは広まるものだと思うが、少なくとも動乱直後は押さえておく必要がある。円滑に進めるには、抑制された評価に留めておいたほうが良い」
「各種の情報からすると、高出力には耐えられないようなので、自壊する距離や状況になるよう作戦を調整しよう」
「うまく使えば、魔法剣士隊の注目度を高められる。再興の中で、終結のきっかけとして雷貫砲を出しながら接収し、決め手として魔法剣士隊を華やかに扱う。これで国内の各種士気は高まるだろう。対外的にも、間接的な牽制になる」
「もし、雷貫砲が予想以上に高く評価されるのであれば、フェスガングの砦での軍規違反を端緒として、激突がエスカレートしたきっかけになってしまった、とでもしておけば黒いイメージが勝手に付いてくれるだろう。このこと自体は嘘ではないからな。ただ、黙示の門の破壊が少なかったら面倒にはならないか?」
「場合によっては、撤退も考えておく必要はある。ただ、かなりの損耗を覚悟すれば、魔法剣士隊に派手にやってもらうこともできるだろう。念のために少し厚めに準備はしておくか」
「いずれにしても、魔法剣士隊の評価を華やかにできる、と考えることにしよう」
「そうそう、魔法剣士隊の中から既に英雄候補も何人かは選んである。何なら、義勇軍の隊長とかも絡めたら民の心にも響くだろう」
「シルフ? シリなんとか? 正確には元隊長か? 砲撃小隊の編制のきっかけになったって話なんだろう? その部隊も前線付近に呼んでおこう。華の彩りくらいにはなる。あと、砲撃小隊の設置作業の護衛にはジージーも使おう。ヤツのカリスマなら現場の士気も上がるし、雷貫砲への賛美を霞ませることもできる」
「大変だろうが、戦力的にジージーには、魔法剣士隊の裏方もやってもらわないといかん」
「魔法剣士隊より持ち上がらず、軍内外から不満も上がらず、勲章の調整はちょっと難しいかもしれんな。倒れてもらうと、美談として強すぎるからそこは注意が要る。ヤツは、間違いなく余人をもって代えがたい軍人だが、今じゃない」
「義勇軍のほうは、前線付近に置くだけで良いだろう。戦力や影響からしたら、こっちはジージーみたいな調整は不要だ」
「国王救出の名目くらい付けておくか。成果がなくとも、話の種くらいにはなる」
「雷貫砲の連中も、撃ち終わったらそこに合流させよう。どうせ大したこともできないだろうし、監視の手間が減る」
「まとまっていたほうが、良い方にも悪い方にも扱えそうだ。まあ、合流も出来ないかもな」
「概ね決まりだな。ただ、準備に少し時間がかかりそうだ」
「士気が高まるなら、正規軍も含めて多少の遠出は許してやるか。ただし、監視は緩めない。中継地での確認はやらせて、移動は把握しておく」
「作戦までの間、中央教団の兵站を、さりげなく締め付けるようにしよう。多少の小競り合いで、少しは緊張を維持するもの双方にとって必要だ」
このように話がまとめられていった結果、中央教団の消耗や各種の準備のバランスを考慮すると、二週間程度の時間が必要になるとの結論が出た。
決戦に向けて、緊張感の消えない休息とも言える期間となった。
*****
制圧作戦まであと数日、日没が近いキャンプ地にマガスが戻ってきた。
ヴィルが不機嫌そうな表情で問い詰めて来る。
「時間あるからって何日もどこに行ってたの? 籠もって鍛錬か何か?」
「いや、その、ビリーに会いに……」
「ビリーって、バンクレートの? エストブランまで行ってきたの!? 何しに?」
「いや、ちょっとやりたいことがあって……」
強めの口調に対してマガスが弱々しく答える。ヴィルは思わず呟いた。
「何かの準備かもしれないけど……こういう時くらい、サービスしてよ……」
「うん? 何?」
「何でもない! でっ! 何してたの?」
責めてきたりボソボソ言ったりと、起伏のギャップに戸惑いながらも、マガスが今度はしっかり答える。
「どうしても自分で何か入れたかったのと、ビリーが絶対に刻印を付けるって言い張って、若手は審査も順番待ちも大変らしくて時間かかって」
「え? 何の話?」
意味がわからずヴィルが戸惑って聞き返すと、マガスが小物を差し出してきた。
「これ、誕生日プレゼント。おめでとう」
柔らかい雰囲気の中にも荘厳な印象が見え隠れする髪飾り、小さくあしらわれたエンボスのポットが夕日を浴びてキラリと光る。
「こんな状況で緊張感が無いって言われるかもしれないし、僕のエゴでしかないけど、大切な人をどうしても祝いたかったから」
ヴィルが、何も言わずに髪飾りをゆっくり手に取る。
無言のまま、髪飾りとマガスの顔を交互に見る。
すると、ボロボロと涙が零れ落ちる。そのままわんわん泣き始めた。
「え? あ? ご、ごめん!」
「違うの! そうじゃないの! とても嬉しいの!」
しゃくりをあげながら続ける。
「私頭良くないから、うまく言えないけど、嬉しいの!!」
ヴィルが全力とも言える勢いで抱きついてくる。マガスは狼狽えながらも抱き留めた。思わず、誤魔化すように口にする。
「ははは、流石に避雷針はつけなかったよ」
「マギー、ばかー、うわーん」
沈む夕日が、二人の影を長く作る。
*****
「マギーって、よく見ると青い目をしてるよね。ふふふ」




