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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第三章

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第三章 第24話 隘路

 平原をグレンツェス川が横切り、クヴェレン橋という大きな橋が架かっている。


「敵兵に直撃するように雷貫砲を撃て、ということですか?」


 ジョンが王国軍の中尉に聞き返した。


「自由に解釈してもらって構わないよ」


 飄々とした雰囲気の中尉が、意にも介さないように答えた。


 見るからに掴みどころのなさそうな男だが、この場の王国軍人としては最上位の階級で、現場指揮を執っている。作戦の話をするために、ジョンが一人で呼び出されていたのだ。


「もう一度言おうか。君たち砲撃小隊の力で、あの重装歩兵の部隊に一穴を開けて欲しい。これが、私の依頼事項だよ」


 クヴェレン橋の前に、献槍隊の重装歩兵が構えており、今の部隊編成では正面から衝突するのは厳しい。かといって、クヴェレン橋以外でグレンツェス川を渡河するのは、現実的にはかなり厳しい。


「君たちが正規の王国軍所属であれば、単に命令するだけなんだけどね。連帯している私兵団ということなので、こうして依頼するという形をとっているのさ」


「そのご配慮には、痛み入ります」


 ジョンはそう言ってみたものの、即座には応諾できずにいた。


「国境付近での衝突なら、敵の密集地帯に大砲を打ち込むことは、よくあることさ。砲撃小隊に力を使ってもらうのも、ちゃんと上の許可を取ってある」


 中尉が、ジョンの内心を察するかのように言った。


「私兵団の責任者として抗議してもらっても構わないし、臣民の一人として私を糾弾してもらっても構わない」


 中尉が、改めてジョンを見つめ直す。


「私は、私の職責において、最適だと判断することを遂行しないといけないんだよね」


 軽い口調ではあるが、責任ある者としての発言であることは間違いない。


「損耗と橋梁破壊のリスクを背負っての衝突、時間をかけての大幅な迂回、後方襲撃のリスクと時間を天秤に掛けた渡河敢行、みたいな議論をお望みかい?」


「いえ、決してそういう訳では……」


 状況は理解している。


「重装歩兵の部隊に隙間があけば、あとは、こちらで何とかするよ。連中もこちらの手の内を知っているだろうけど、おそらく、向こうは向こうで他に手が無いんだろうね」


 理不尽な組織の論理なんかではない。至って筋の通った話だ。可能な限りリソースを温存して、迅速に王都ファスダルグに到着する、それが終結への最善手なのだ。


 ジョンは、軽く息を吸って姿勢を整えた。


「わかりました。その作戦行動を引き受けさせてもらいます」


「理解が早くて助かるよ」


 相変わらずの口調で中尉がそう言うと、全体の作戦会議が始まった。


*****


 ジョンが、マガスを始めとする四人に、作戦の概要を説明した。


「今回は、おそらく後方から雷貫砲を撃つだけだ」


 どこか胸を締め付けるような沈黙となるが、既に覚悟があったのか、誰も拒否感を示すことはなかった。


 最初に口を開いたのは、カールだった。


「まあ、王国軍と一緒になってから、直接やり合うことは何度もあったからな。それが少し形が変わっただけだな。ていうか、今回、もしかして俺は出番無しになるのか?」


「きっとそうなりますね。王国軍の最前列は、重装歩兵と衝突するかしないかという距離まで近付きますが、我々は後方に位置していますからね」


 カールの疑問にジョンが答える。するとマガスが確認するように言う。


「距離や効果を考えると、小さい雷貫砲で十分そうですね。何回も使っているし、これで使い潰すつもりで撃ちましょう」


 次はレナが聞く。


「今のヴィルの力には耐えられない、なんてことはないの?」


「大丈夫です。私が威力をバッチリ調整します」


 ヴィルが胸を叩いて、やや得意げに答える。


「あら、頼もしいわね」


 皆が軽やかに笑う。


 誰もが支え合っている、ジョンにはそう思えて、安堵にも似た感情が沁みた。


*****


 時折小雨がぱらつく中、クヴェレン橋の前に陣取る献槍隊と王国軍が対峙した。


 ひとつのまとまった陣形となっている献槍隊と同様、王国軍も似たような隊列を組んでいる。むしろ少し細めている感じだ。そして、中央にはいかにも分割線となるような隙間があり、それに応じた人員配置が見える。


 ジリジリと王国軍が歩を進めるものの、献槍隊は警戒した構えを続けるだけで動かない。


 王国軍の行動をわかりやすくし、しかも時間をかけることで、献槍隊に後退の機会を与えているのか? ジョンは後方から見ながらそう思った。


 やがて、両軍が一触即発とも言える距離感にまで接近した。すると、王国軍が中央に花道でも作るかのように、隙間を空けた移動を行う。


 ジョンの位置から、既に準備の整った雷貫砲から、献槍隊の重装歩兵団が見えた。警戒してか、中央に盾を集めているようだ。


 王国軍の動きも隊列もあからさますぎる。


 何を仕掛けてくるか、献槍隊もわかっているはずだ。


 両軍とも、こんな儀式めいたことをやるくらいなら、もっと他にやれることはないのか?


 ジョンも色々考えてしまうが、それは詮無きことだ。組織的に予定されている作戦行動は、迅速に予定通り進めるのが鉄則だ。戦闘術の座学でだって繰り返される。個人が余計な事を挟んでも、無意味な惨事を引き起こすだけだ。


 連絡旗が示された。実行の合図だ。ジョンが口を開く。


「マガス、ヴィル、頼、いや……」


 本人だけが意識できる程度の刹那の逡巡。こういうところが自分は駄目なんだ、そう思いながら打ち消すように強く言う。


「撃て」


 一閃が、王国軍の開かれた道を通り、献槍隊の中に新たに道を開く。


 搔き分けるとか、押し退けるとか、そんなものではなかった。強引な突貫だ。微細な雨粒はもとより、何であっても進行の妨げにはならない。


 そして、無慈悲に蹴散らされてできた通路へ向かって、即座に突撃行動が行われた。混沌とした激戦が始まったが、決着はすぐについた。


 そこに残ったものは、小雨では洗い流すことはできなかった。

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