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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第三章

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第三章 第23話 関所を越えて

 その日は、とてもよく晴れていた。


「ふう」


 マガスは腰を下ろして一息つく。


 王国軍は補給と休息のために、関所に一時滞在することになった。そして、砦の修復作業も並行して進められているという状況だ。


 修復作業から解放され、青空を仰いだ。


(シリルさんでも、あんなことを感じるんだな……)


 純粋に雷貫砲の力に愉悦を感じていたとの話は、意外に思う一方で、マガスにも共感できるものでもあった。


 雷貫砲が兵器であることは、紛れもない事実だ。その使い方については、慎重でなければならない。そうでなければ、悪漢と同じになってしまう。


 その一方で、好奇心めいた感情が引き起こされることも否定できない。ヴィルの雷撃技能の向上に伴い、雷貫砲の威力が大きくなっている。おそらく、いずれ雷貫砲の構造やマガスの磁線制御が、その威力に耐えられなくなるだろう。


 先日の砦の門の破壊も、想定を上回る威力であった。不謹慎なのは重々承知しているが、高揚感にも似た何かが湧いてくる。


 もちろん、抑制できているし、暴走していないつもりではある。油断してはならない、とも考えているつもりだ。でも、そんな気持ち程度のもので良いのだろうか?


 理性的な好奇心と言えば聞こえが良いが、単なる正当化に過ぎないのではないか?


 ああ……また、堂々巡りになってしまう。


 視界に広がる空には、ほとんど雲が見えない。


 そして、ヴィルにも似て非なる苦悩があるように思える。


 暴力的なものへの本能的忌避感は、おそらくマガスよりヴィルのほうが強い。両親の惨事直後でも、マガスを強く引き止めたことからもわかる。それは、自分自身だけでなく、マガスも含めて抑制しなければならない、という義務感めいた重圧になっているのではないだろうか。


 そうした一方で、魔法に関する成長はヴィルの自己肯定感に繋がっているように見える。雷貫砲に限らず、うまく魔法を活用できた時、ヴィルは無邪気な喜びの表情を見せてくれる。自身の成長はもとより、他の皆への貢献という観点でも、達成感から悦に入るのは当然のことだろう。


 ただ、マガスが好奇心とのバランスに苦心しているように、ヴィルもある種の満足感との兼ね合いに苦慮しているのだと思う。


 根底では、こんなことは早く終結して欲しいと願っているのに、何かがままらないのだ。


 ヴィルの負担を思うと、雷貫砲を高威力の兵器として考えてしまうことや、出力向上に伴う限界を考えてしまうこと、などに対して罪悪感を覚えてしまう。


 また、シリルだって、自身の信念に基づく地位を賭けてまで、自分達が進めるようにしてくれたのだ。その期待に応えるべきなのだ。


 そうであるにも関わらず、何とも個人的なことで躓いている、そう思ってしまう。


 仰ぎ見た空は、ただただ青いだけだった。


 風がそよぐと、独特な森の香りが微かに感じられる。


「マガス、ここに居た」


 レナが声をかけてきた。心なしか、少しだけ柔らかな表情に見える。


「ちょっと時間いい? 私とヴィルで雷導索の連携を試しているんだけどさ、兄貴じゃ雷撃の感覚がわからないし、ヴィルは説明が苦手だから、少し見てくれない?」


 なぜかはわからないが、その一声で心が少し軽くなった気がする。マガスが腰を上げて臀部の砂埃を払った。


「わかった、行くよ」


 晴れた空は、やはり青い。


*****


 王都ファスダルグに近付くにつれ、王国軍の小隊が合流していき少しずつ統率されていく。


 それに伴い、王国軍と献槍隊の衝突が激化していき、もう隠さず衝突するようになってきた。表向きはともかく、現場としては王都ファスダルグへ進軍している、とも言うべき感覚になっている。


 王国軍が雷貫砲を要所に配置するので、それを守るように動き、必要に応じて撃つという対応を続ける。ただし、王国軍は建前上は直接関わらない。砲撃小隊と呼ぶのも、雷貫砲という言葉自体も控えるためだろう。作戦中であっても直接運搬を手伝うことはないし、保守や製造にも関わらない。辛うじて、汎用的な部品については頼めば供給してくれることもある。


 それを仕方ないことと割り切るべきか、許し難い体制として憤るべきか、そんなことはわからない。結論を出したところで意味があるとは思えないのだ。


 誰もが、進むことを一番に考えていた。


*****


 金属を主体とする防具や魔法武器に対して雷撃は非常に相性が良かった。抗魔作用で直接雷撃をかけることができなくても、外的に伝播させることが容易だからだ。誘雷球や雷導索を中心とした防衛戦略は、非常に効果的に機能した。


 こうした戦術に対応するために、絶縁技術が発達することになる。そして、皮肉にも天然の雷による負傷事故を減らす知見にもなっていく。先々では絶縁部の貫通も考慮した雷撃武器も実用化されていくことになる。


 そして、雷貫砲そのものに寿命の課題が出てきた。威力の向上に伴って、発熱と衝撃が大きくなるからだ。砲身はもとより、支台にも相応の強度が必要になってきた。


 そこで、安直に冷却の補助をやってみたら、意外と効果が高かった。しかも、砲身の傷みが軽減されるだけでなく、砲撃の威力も高くなっているようだった。色々と試してみたら、やはり冷却は一石二鳥の効果があることが確定し、常用していくことになった。


 最初はジョンだけが冷却していたが、不得手なレナにも冷却してもらうようになる。冷却も相当大変な様子ではあったが、確実に武器の寿命を伸ばし威力を上げてくれた。


 そして、雷貫砲は次第に可搬性が大きな課題になってくる。威力に応じて大きくならざるをえない上に、冷却をする必要もある。もとから手持ちでの発射が困難なので、小型化を狙っても得られるものはほぼないと考えられる。


 戦場への持ち込みも、発射準備も、ひとつひとつが各種のリスクを伴う。構成の都合から、抗魔作用を施せる箇所が限定的なのも運用を難しくさせている。戦場で雷貫砲に魔法を作用することは、現実的に難しいとはいえ予防策は必要になる。


 敵も撃たせまいとするための行動をとってくる。実際に、撃たないで終わる状況も出てきた。戦略兵器を目指す方向もあるが、それこそ敵も死に物狂いで阻止せんと向かってくることが予想される。


 雷貫砲を撃つことを目的とせず、存在を誇示して敵の動きを牽制することもできるだろう。ただ、そんなことを考えるより、強力に撃って作戦を手早く終わらせるほうが、双方の犠牲が少ないのではないだろうか。


 王国軍は、王都ファスダルグへと進んでいく。

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