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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第三章

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第三章 第22話 砦の攻略

 王都ファスダルグに向かって進行していく。


 次の作戦は、フェスガングの関所と砦がターゲットとなる。献槍隊がこれらを占拠しているのだ。王都ファスダルグへ進行するには、多くの小隊が通過することになるため、非常に重要な拠点となる。


 しかし、攻略は難航することが予想された。ただでさえ充分な隊構成ではない上に、周辺の崖と森が天然の防壁になっているのだ。王国軍も一度では崩せないことを覚悟している様子が伺えた。


 最初の作戦に向けて、王国軍が各種の考案をしている中、シリルが雷貫分隊のメンバーを秘密裏に集めた。


「実を言うと、私は王国軍からあなた方の監視と抑制をするよう、圧力をかけられています。もっとも、直接的に言及はせず、何とも回りくどい表現で圧をかけてきますがね」


 ジョンでも知らなかった話に皆が驚く。


「このままでは、あなた方は飼い殺しになってしまいます。王国軍としては、雷貫砲を表立って使いたくないのでしょう。ですが、みなさんの信念と決意が、無駄になるようなことは耐え難いですし、国内の危機的状況が無用に長引くだけだと考えています」


 シリルは、付近の状況と関連する作戦行動について説明した。


 砦を見通せる丘があるが、道が設けられておらず、辿り着くには険しい地形となっている。実は、フェスガング近辺で育った者がシリル隊にいて、周辺の地形に非常に詳しい。


 そのため、シリル隊ならその丘まで到達することができる。その丘を抑えれば、砦攻略を有利に進める可能性がある。そのように主張し、丘へ先行するという役割をシリル隊が買って出て、見事にその任を担うことになった。


 このように前置きして、シリルは懲罰覚悟で雷貫砲を決め手とする行動を敢行したいと提案してきた。


「この作戦行動にみなさんも隠密で同行し、丘から雷貫砲で砦の門を破壊して欲しいのです」


 確かに、疾風迅雷よろしく、急襲して雷貫砲で門を破壊できれば、有用性を強く示すことができるだろう。


「もちろん、威力故に雷貫砲を封印されるリスクもあります。しかしながら、雷貫砲の有用性が認められれば、その力は必要とされるはずです」


 口調が少し強くなる。


「おそらく、関所から先はより激しい戦いが待っています。どんなに綺麗ごとを並べても、間違いなく強い力が必要です。私はそのために、あなた達と協力したいのです」


 リスクも孕んだ提案の内容に、流石にジョンも息を呑む。誰もが言葉を発することが出来ずにいると、シリルが少し違ったトーンで再び話し始めた。


「私のような立場の者が、こんなことを言ってはいけないと思っているのですが、初めて雷貫砲を見た時は、興奮して震えました。その威力に驚嘆して、こんな凄いものがあるのかと感心しました」


 照れ隠しなのか、自嘲なのか、どちらともとりにくい様子でシリルが頭を掻く。


「年甲斐もなく、強い力に期待と喜びを感じてしまいました。大見栄切って理念を掲げて慈愛の導きを率いていましたが、私はこんな男なのです。そんな男にその力が必要なのだと、言われても戸惑われるかもしれません」


 一息ついた後、いつものトーンに戻る。


「それに、あなた方の、特にマガスさんとヴィルさんにかかる負担たるや、想像に難くありません。いや、私なんかが想像するのも、おこがましいものかもしれません。また、先に申し上げた通り、どのようにも転ぶリスクがあります」


 シリルとしては、珍しく話の途中で居を正す。


「だから、この急襲行動を断って頂いても構いません。ただし、この話に乗って頂けるなら、私は全力で遂行するつもりです」


 シリルの声が、強く静かに通った。


*****


 砦の攻略作戦が始まった。


 攻略とはいうものの、献槍隊の出方を探りつつ周囲の情報を得る、もし侵攻が可能なら状況に応じて対応する、という小手調べの前哨戦という感の強いものだ。


 シリル隊は、雷貫分隊と共に砦を見通せる丘を目指していた。本来雷貫分隊が配置されるべき場所には、偽装した五人を置いている。周辺の地形も相まって、近くの王国軍の兵士を欺くのも難しくはなかった。


 道なき道を渾身の力を振り絞って進む。


 時折、遠くから鳴る金属音や打撃音が耳を掠める。


 そうやって進んで行くと、ようやく、開けた場所が見えた。そこに出る直前で、シリルが全体を制止する。


「止まってください。ここに出たら砦の門が見える、ということで間違いないですか?」


 案内役をしていた隊員に確認する。


「はい、そうです。ここまでの道中も記憶通りでしたから、ここに出たら門まで見えるはずです」


 シリルが、雷貫分隊に向かって言う。


「敵も、大なり小なりこの場所を警戒している可能性があります。敵の射程範囲内かどうかはわかりませんが、こちらが認知されてしまうと、他の行動に影響を与える動きをしかねません。ここで可能な限りの準備をして出たらすぐに撃つ、という進め方でお願いします」


 皆が頷き、雷貫砲の組み立てを急ぐ。ジョンが作業を進めながら言う。


「シリルさん。設置や方向の調整は、我々だけでやったほうが効率が良いでしょう。なので、他の人達には先に陽動で出てもらって、その後すぐに設置して発射する、というのがが最善の策だと思います」


「なるほど、わかりました。そうしましょう」


 そして組み立てが完了し、ジョンがシリルにその旨を伝える。


 シリルの合図と共に隊員が飛び出し、続けて雷貫砲が設置される。


 案の定、砦の防壁の上では、こちらに対して警戒して何か動き始めている様子が見てとれる。しかしながら、既に、ヴィルから魔力の迸りを感じられるほどの準備が整っていた。


 次の瞬間、砦の門へ一閃が走る。


 轟音が、崖で反響しながら、フェスガングの森にこだました。


*****


 予期せぬ門の破壊は、想像以上の効果があった。


 献槍隊の統率は乱れ、それに乗じて王国軍が攻め込み、間もなく砦を無力化して関所を制圧した。開幕直後の小競り合いで多少の負傷者が出たが、それを除けば王国軍は無傷そのものだった。


 雷貫砲によって最小限のコストで関所を奪還した、そう言っても過言ではなかった。


 ただし、シリル隊の動きは、作戦に対する逸脱行動であり規律違反とされた。そして、シリル隊は砦の防衛任務を割り当てられ、王都進行から外れることとなった。実質的な左遷である。


 その一方で、雷貫分隊はシリル隊とは切り離された。王国軍からは砲撃小隊と呼ばれ、一点突破で進む作戦行動の際には、要として配置されるようになっていく。


 こうして、防戦しながら必要な時に撃破を狙う、という運用が確立されていった。

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