第三章 第20話 分岐点
義勇軍は、王国軍の小隊に連れられて移動した。
エストブラン地方の町のひとつバンクレート、そこで補給と今後の調整を行うことになったのだ。また、王国軍のもう一つの小隊との合流待ちの意味もあるという。
その一方で、王国軍と義勇軍との連帯の話が進められていた。
現在、王国軍は各地の部隊を大きく動かすことができないでいる。第一に王都ファスダルグの統括本部が押さえられていること、第二に近隣諸国に対して手薄な面を晒せないこと、この二つが主な理由になっている。
しかしながら、王都ファスダルグの状況には対処が必要なため、いくつかの小隊が王都に向かって集まる動きをしている。義勇軍の窮地を救った王国軍も、そうした動きで王都ファスダルグに向かう途中の小隊だったのだ。
あの献槍隊は、エストブランを維持するための部隊だった可能性があるという。王国軍はもとより、悪漢集団の献槍隊までも近付けないよう、統制的な目的を持っていたと考えられるそうだ。そうすると、義勇軍をもっと前から探知していたのかもしれない。
ともあれ、数日の滞在ということになった。マガス達にとって久しぶりの落ち着いた休息となる。装飾品を名産とする町でのひと時は、マガス達だけでなく義勇軍全体としても、寛ぎの小休止となった。
献槍隊と競り合う日々とも、故郷での日常の日々とも、いずれとも微妙に異なる時間と空間がそこにはあった。職人との触れ合いも、適度に好奇心をくすぐり、良い経験となった。
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そして、つかの間の休息にも、終止符が打たれる時が来た。
バンクレートに、別の王国軍の小隊が到着したのだ。そして、小隊長とシリルとの話し合いが行われ、連帯して王都に向かうことも、現実的な選択肢のひとつとなった。ただし、連帯とは言うものの、実質的に王国軍の指揮下に入ることになる。これは、慈愛の導きにとって非常に大きな岐路となる。
シリルとジョンの二人で改めて話をした後、六人でのブリーフィングが開かれた。まず、ジョンが経緯を簡単に説明する。
「慈愛の導きとして、王国軍と連帯するかどうかとは別に、我々五人としてどうするかを話し合うことにした」
次に、シリルが代わるように話をする。
「正直なところ、慈愛の導きとしてもどうなるかわかりません。賛否が分かれているように感じます」
シリルにしては、珍しく弱気な印象を受ける言い方だ。
「難しい問題です。だから、王国軍として連帯して王都を目指すかどうか、皆さんとして、独立した結論を出して欲しいのです」
「この進め方で問題ないか?」
シリルに続いて、ジョンが皆に確認を促す。誰も異論を挟まない。
「それでは、後は皆さんで話し合ってください」
そう言って、シリルはその場から離れていった。
そして、ここ数日の穏やかな生活ムードが、まるで夢であったかのように重い空気に包まれる。
先日の献槍隊と遭遇するまでは、悪辣な輩との対面だった。しかしながら、あの時は、信念が少し違うだけで同じ人間がそこにいた。思えば、教会を始めとした教団側の人達だって、武器を向け合うような相手ではなかった。
あの戦闘の時、王国軍も献槍隊も職業軍人として動いていた。悪意で言えば、盗賊もどきのほうが強烈だった。しかし、盗賊もどきには、芯のようなものを感じることはなかったように思う。陳腐な表現になるが、恐ろしさの質が全く別物としか言いようがなかった。
自分達は、本当に王国軍と同じ場所に身を投じることができるのだろうか?
沈黙を破ったのは、カールだった。
「俺は行きたいと考えている。シリル隊長のほうに入れてもらってでも、行きたい。難しいことはわからねえし、甘ちゃんだったとも思う。今更ながら、戦闘は怖い。やんちゃ坊主のぶつかり合いとは、全然レベルが違った」
カールが、握りこぶしを軽くテーブルに叩きつける。
「けれど、アルスタッドがあんなことになった原因を放っておけねえ。異端騒動の一端は俺の責任だしな。一発かまして、工房の皆に凱旋揚げて帰りたい」
ジョンが静かに立ち上がり、軽く深呼吸をしてから言った。
「俺もカールさんと同じだ。行くつもりだ。王国軍は中央教団と対峙するつもりだ。俺もそこに加わって、この騒動に決着を付ける一助になってこそ、アルスタッドへの恩返しになるんだと思う」
そして、レナに向かって言う。
「ただし、レナはヴィルと一緒に残れ。もし慈愛の導きから残る人達が居るなら、そこに入れてもらえ」
「は!? 何言ってるの兄貴?」
「危険すぎる。いつになるかはわからなけど、終わるまでヴィルと守り合いながらやり過ごせ」
「いや、私だってアルスタッド愛は兄貴に負けないよ。私も一緒に行くに決まって、いる……」
ふとレナの勢いが止まる。ジョンの言うことはもっともだし、ヴィルを守りたい気持ちもある。ただ、ヴィルが、そしてマガスがどうしたいかも重要だと気付いたからだ。
レナが二人に視線を向けると、再び静まり返る。
程なくしてマガスが口を開く。
「正直に言うと、どうするのが一番良いと、自信をもって言うことができない。それに、軍事的な戦闘行為というものが、あんなにも厳しいものだとは、思ってもみなかった」
掌を胸の前までゆっくり上げてきて、そのまま拳を握る。
「でも、なぜか僕が持つことになったこの力、これを終結のために使いたい。それが暴力だと言われたら、何と反論したら良いのかわからない。でも、終わらせるために、必要な力なんだと思いたい」
そして、静かにヴィルが口を開いた。
「私もね、わかんないの。殴って殴り返してまた殴られて、みたいなのが本当にいいのかなーって思ってた。お父さんとお母さんの敵討ちを、やってるだけなのかなーって思ったりもしてた」
一旦目を伏せて、少し間をおいて前を見つめる。
「でもね、今のままでもいいなんてことはないよね。同じことの繰り返しではなく、前に進むために力を使う必要があるんだと思う」
そこまで言って、言葉に詰まる。
すると、マガスが真正面から、ヴィルの方を向いて言う。
「僕の力だけでは足りない。君がいないと力として足りない。君の力どころか、君自身をも血に染めることになってしまう。それでも、僕のエゴでしかないけれど、ヴィルも一緒に来て欲しい」
その言葉を聞いて、ヴィルが意を決したように拳を握りしめる。
「私が撃つよ。私のこんな力で、終わらせられるなら使いたい。手伝って。私が撃つよ」
二人が無言で視線を交わし合う。
レナが、からかうような表情でジョンを肘で突くと、ジョンは気まずそうに頭をかいた。
マガスが皆のほうを向いて言う。
「皆も一緒に来てくれると、とても嬉しいし助かります。お願いします」
一瞬の間、そしてカールが両手をぱあんと叩く
「オーケー、決まりだ。行くぞ」




