第二章 第18話 進む道
翌朝は、澄み切った青空で始まった。
出立の準備に取り掛かる頃、シリルが全体連絡を始めた。
「デレンク・ドルセとタイランス・パークライトの両名は、慈愛の導きから離脱しました。既に行動を別にしています」
言われてみれば、二人の姿が見えない。
「タイルさんは、信仰に基づいて不用意な行動をしてしまったこと、デレクさんは、それを力尽くで止めに入ったこと、を理由に挙げていました」
少しざわめく。その内容に偽りはないと言えなくもないが、あの時の状況を正確に示したものとは言い難いからだ。
「それから、二人から皆さんへの伝言です。素人同然だった自分達と行動してくれてありがとう。迷惑をかけるように離脱することを陳謝したい。そして、本当にありがとう。そう言っていました」
デレクがたどたどしく言うのを、タイルが指摘しながら修正する、誰もがそんな様子を想像した。
「皆さんには、言いたいことが色々あるかもしれません。ご希望なら、個別に伺います。私個人としては、二人が自らの意志で、次の道を選んだのだと信じています」
シリルはそう言って全体連絡を締めた。そして、各々が作業に取り掛かる。
「流石のシリル隊長だな」
カールが感心しながら言った。
「タイルとデレクの進む道に幸あらんことを。俺達も頑張らねぇとな」
独り言なのか、自身も含めた周囲への鼓舞なのか。カール本人も何かを意識したものではなかったのかもしれないが、耳にした者は心の中で頷く。
「二人にとって、ここでの活動は違う道だった、ということなのかな?」
ヴィルが、呟くようにマガスに聞いた。
「どうだろう。献槍隊から守るという行動で、無意識に何かが変わると期待していたのかもしれない。ポスリンカやレイさんの被害に対して、何か報われて欲しいという気持ちがあったとかね」
当人達に聞かないと本心はわからない。だから、マガスは予想できる範囲で答えてみた。
「あー、なるほど。実際の盗賊はあんな感じで、守るくらいじゃ変わらない、と思っちゃったとか?」
「そんな感じだけど、気力を失った訳じゃなくて、もっと違うほうを見よう、と前向きになったんだと思う。そして、それが慈愛の導きとの活動とは違っていた、そんなところじゃないかな」
マガスは、そう言ってラバの荷袋を締めてから続けた。
「シリルさんは、簡潔にまとめて説明をしたけど、実際には三人で色々話をしたんだと思う。それで、何か新しいものに気付いて結論を出した。僕はそう思いたいな」
「そうだね。今頃、二人でまた何かやり合いながら、歩いているんだろうね」
晴天のもと、義勇軍は次の町への進行を始めた。
*****
盗賊団を引き渡してから数日が経った。
別の少し大きめの町から献槍隊を追放することに成功し、義勇軍は郊外にキャンプを設置していた。
補給がてら休息をとっていると、しばらくして献槍隊の急襲が来た。
「始めからこういう作戦だったのかもしれません。準備のできた者から、戦線を整えてください!」
シリルが急いで各所に指示を出す。一行も急ぎ対応を始めるが、ジョンが町に入っていて不在になっている。マガスとヴィルが手持ちを確認する。
「雷粒レインの弾は、まだ半分残っている! ヴィル! 雷導索はある?」
「あるよ! 護身くらいなら大丈夫!」
状況からして、雷貫砲を準備するのは厳しい。
「私が少し出るから、二人は守りに徹して!」
レナが指示を出す。マガスは、磁線銃を構えながら雷導索を広げ始めた。
ふと見ると、カールがすぐ近くで大剣を構えている。状況からすれば、カールは戦線作りに回ったほうが良い。
そのように防衛的な動きをしてしまうことは、誰しも仕方ないと思うことだった。というのも、一行の誰にとっても、ヴィルに対する無意識の保護意識がどうしてもあるからだ。特にカールにその傾向が強い。
おそらく、近所の年上のあんちゃんという昔の記憶が、無意識に作用しているのだろう。ヴィルも薄々感じていて、それがカールに制限をかけているようで心苦しい。でも何と伝えれば良いかわからない。
そんな中、レナが一喝する。
「カールさん! ここはヴィルを信じて前に出て!」
「う!? あ!」
戸惑うカールに、レナが更にけしかける。
「いいから!!」
「わかった! 行くぜ!」
一瞬戸惑ったものの、カールは駆け出して前線へと向かった。
その後、一行も義勇軍も何とか凌ぎ切り、献槍隊を撤退させることができた。ジョンも途中から戻ってきており、今度こそ休むことができた。
騒乱後の静けさと各所での安堵が混じる空気の中、レナがカールに諭すように優しく言った。
「守りが弱いのは確かですが、他の人と比べてヴィルを低く見すぎです。いつまでコレットさんとこのお嬢ちゃんだと思っているんですか?」
カールも真剣な表情で謝罪する。
「確かにその通りだった。皆、そしてヴィル、すまなかった」
ちょっと重くなった雰囲気を、ジョンがぱんぱんと軽く手を叩いて和らげていく。
「レナは本当によくやってくれた。カールさんも、これからも守護神としてお願いします」
皆の胸にえもいえぬ余韻が、じんわりと広がっていく。
ヴィルが少し畏まった様子で言う。
「カールさんは、強くて、頼りになって、おセンチで、本当にお願いします!」
ヴィルは気恥ずかしそうにしており、おそらく敬意を払ったものと思われた。
しかしながら、カールは何とも言い難い無表情となり、ジョンとレナはそれを哀れむように見ていた。




