第二章 第17話 齟齬があるもの
作業を終えたデレクとタイルが、縛り上げられた盗賊団の近くにやって来た。
二人は、ざっと盗賊団の全員を見回すと、すぐにそのうちの一人へと近寄っていった。
項垂れていたその男は、近付く気配に気付いたのか、顔を上げた。しかし、デレクもタイルも、何も言わずに男を見つめている。
男が不思議そうに、そして、微塵も覇気を感じさせない口調で聞いてきた。
「何だ? 前の時に俺にやられたのか? 仕返しでもしに来たのか?」
デレクが冷静に聞き返す。
「喧嘩腰でくるのかと思っていたが、もう観念しているのか?」
男がため息をつく。
「そりゃ、逃げる機会があれば逃げるつもりだが、この状況で逃げらるかよ。親分同士で、もう決着もついたみたいだしな」
諦めているだけという様子に、デレクは少し苛つきを感じた。
「だが、反省しているようには見えないな」
「反省? あぁ、そういうのはないな」
悪びれる様子がないというより、そんなことを言われるとは思っていなかった、という様子だ。
「強いヤツが弱いヤツをいいように扱う。そうしてきたし、そうされてきた。ただ、それだけだ」
何かがズレている感じがして、漠然とした不快感に襲われる。
「俺達が強いからお前達を好き放題やる、とでも言いたいのか?」
「さあな。でも、お前らに刺したり切ったりされても、そんなもんだとしか思わねぇよ」
デレクが内心苛立っているのが、見て取れる。タイルは、デレクを制するように前に出た。
「俺の顔に、見覚えはあるか?」
「残念だが、男の顔なんて興味ねぇな」
盗賊の男が静かに答える。
「ポスリンカで、お前は俺を縛って、更に妹に暴行を働いた」
「うん……あぁ、あの時の男なのか」
男はそう言ったが、おそらく、タイルのことはあまりよく覚えていないのだろう。しかし、レイのことは記憶にあるようだ。
「あの女は、弱々しい感じの割には抵抗が強くて、楽しい思いをさせてもらったな。ここ最近では一番良かった。冥土の土産というヤツかもな」
「このっ!」
淡々と話す男に、デレクが怒りを露にするが、タイルが止めるかのように腕を出す。もっとも、デレクも口調だけは荒かったが、実際に何か行動を起こそうとした訳ではなかった。
「大丈夫だ、落ち着いてる」
デレクは、胸元に手を当てる素振りをしながら、タイルの背中にそう言った。
二人のやり取りを見て、盗賊の男が口を開く。
「俺が憎くないのか? 変わったヤツだな」
「当然憎いに決まっている」
男の言葉を軽く流して、タイルが続ける。
「でも、仕返しをしても仕方がない。それに、お前達は裁きを受けることになる」
男が自嘲気味に笑うが、タイルはそのまま続けた。
「その前に、一度は話をしてみれば、妹への弔いにも繋がると思ったが、どうやら違っていたようだ」
「弔い? あの女、死んだのか」
余計なことを言ってしまったかもしれない、タイルがそう思った次の瞬間、男の口から言葉が漏れる。
「そりゃ、もったいない」
もったいないとは、どういう意味だ? この男は、何を言っているんだ? 抗魔作用を突き破って、誰かが頭の中を加熱しているのか?
ザシュッ!
剣が突き刺さる。
突然の出来事に辺りが静まり返った。タイルが、盗賊の男の前の地面に剣を突き立てたのだ。
これまで落ち着き払っていた盗賊の男も、思わず驚いた表情をする。しかしながら、怯える様子はなくタイルを見上げながら言った。
「いきなりやられると、流石にビビるな」
タイルは静かに剣を抜き、片手で高々と振り上げた。そして、男を見下ろし呟くように言う。
「メーデルシア様……」
その言葉はレイへの鎮魂か、導きの懇願か、それとも、自身のための祈りか。わからないまま、剣を握る手に力が入る。
パシィ!
剣が振り下ろされる前に、今度は頬をはたく音が響く。
デレクが、タイルの頬を平手ではたいたのだ。タイルは、ゆっくりと剣を持つ腕を下ろし、そのまま剣を手から離した。
剣が地面に落ちる音、そしてデレクの言葉。
「そうじゃないだろ、タイル」
少しだけ間があって、タイルが静かに答える。
「あぁ、そうだな……ありがとう……デレク」
タイルは、落とした剣を拾って収めた。
「俺は、何かを追いかけていたのかな……しかも、どこにも無い気がする……」
剣の柄に手を置いたまま、肩を落とす。
「解決できないものを、解決できると思って突き進んでいたのかもしれない。出直しが必要だな……」
「ややこしく考えるな。また、一緒にやろうぜ」
タイルは無言で頷き、盗賊の男に言った。
「違いすぎて気付いた気がする。お前と話せたことは良かったよ」
「何だかわからねぇが、スッキリされるのも癪に障るな」
そうして、デレクとタイルは、捕縛されている盗賊団から静かに離れていった。




