第二章 第16話 同じようなもの
七人の盗賊団が崖の上から街道を見下ろしていた。
「ざっと30人、それより少ないか。25人くらいか?」
親分と思しき人物が、街道を進む集団を見定めている。実入りが大きそうなら、崖下へ急襲して強奪するし、そうでなければ何もせずやり過ごす。
崖下へ降りたら、上まで戻るのにかなりの手間がかかる。しかし逆に言えば、崖下から何かを仕掛けるのは難しく、ここを起点にするだけで、ほぼ先手を取れるのだ。
「私兵隊か傭兵団、いや、義勇軍といったところだろうな。ご苦労なこった」
「手を出すには、ちょっと数が多いですかね」
「ちょっとじゃねぇな。余程の力量差がない限り、降りたら負けるし上からだけでは勝てねぇだろう。武器や防具はあっても、金目のものは期待できねぇだろうし」
親分がため息をつく。
「あーあ、つくづく献槍隊は美味しかったな。でも、あんな正義の手合いに、突っ込んでこられるとは、思いもしなかったぜ。しかも、一度逃げ出したら、教団からも切り捨てられるしよぉ」
そう言って、崖の淵から身を引こうとしたところで止まる。
「ありゃ、よく見ると、ポスリンカだったかで突っかかってた連中か? そうだとしたら、結構増えたな」
「しかも、女も居やがる!」
手下の一人が興奮気味に言う。
「お前は、本当にそればっかりだな。まあいい。同じ連中かどうかはわからんが、腹いせに攻撃だけはしてみるか? どうせ、こっちはすぐ逃げられるしよ」
崖の下に降りなければ、少なくとも負けることはないだろう。崖を登るリスクの高さは明らかなので、登ってくることはないだろう。たとえ、登ってきたとしても、妨害も退却も容易だ。
あの集団だって、こっちが降りようともせず簡単な攻撃をしていたら、すぐに逃げてしまうだろう。単なる嫌がらせにしかならないが、気晴らしくらいにはなる。
自分もそうだが、手下どももたまに戯事に興じるのも悪い気はしないだろう。親分はそう考え、少し攻撃してみることにした。
盗賊団は、許可が出ると、各々で弓矢や熱鉄球銃を構えて攻撃を始めた。
*****
想像していた通り、義勇軍と思しき一団は、こちらへ攻撃しあぐねている。
とは言うものの、盗賊団からの攻撃も効いているようにも思えない。それでも、少しくらい慌てている様子を見ることができて、ちょっとは楽しめたかもしれない。
「そろそろ、ずらかるぞ」
これ以上続けても仕方ないだろうと思い、手下どもに退却の指示を出す。そして、寄り集まったところで異変が起きた。
ドン! ゴゴゴ……
下の方で何かが小さく光ったと思った次の瞬間、衝撃音が足元に響き渡り地面が揺れる。
「何だ!? 地震か?」
ドン! ゴッ、ゴッ、ザッ!!
足元が崩れ始めたところで、再び衝撃音が響く。そして、盗賊団もろとも崖下へと、表層が滑り落ちていく。
「大砲か爆弾でも持ってやがったのか!?」
そのまま、崖下へと滑落してしまう。土に埋もれかけた状態となり、逃げるどころか動くのもままならない。とはいえ、やられる訳にはいかないので、何とか態勢を整えようとする。
そこへ、少年ともいえるような若い男が、崩れた地面を器用に渡るように走ってきて、何やら紐のようなものを絡めてくる。
ビリッ!
その行為に疑問を持つ暇もなく、体全体に痛みが走って痺れる。視界に、チカチカした稲妻のような明滅が広がる。
これは、もしかして噂に聞く雷の魔法なのか?
続けざまに、複数人に取り押さえられたかと思ったら、縛られ取り押さえられてしまった。
*****
辺りには、土の匂いが漂っていた。
義勇軍の半分ほどが、崩れた崖の周辺を整えている。そして、残りの人員が、捕まえた盗賊団を逃がさないよう警戒して構えており、シリルが尋問をしていた。
いや、正確には、盗賊団が何かを訴えている、と言うべきだろうか。
「お願いだ、見逃してくれ。つい、出来心でやっちまっただけなんだ」
一通り喋った後に、シリルが、いつものように、穏やかに丁寧に聞いた。
「あなた方は、献槍隊なのですか?」
「おお、そうだ! 教団にそそのかされて、色々やらされて、こうなったんだ!」
シリルは、ため息にも似た一息をつき、こう言った。
「献槍隊なのに、赤いシンボルがありませんね? 確か、ポスリンカの時は付けてましたよね?」
「ちっ……やっぱりあの時の連中か。こうなっちまったもんは仕方ねぇ。好きにしやがれ」
ポスリンカに居た盗賊団であることを、あっさり認めた。シリルは更に尋ねてみた。
「献槍隊はどうしたのですか?」
「俺達は教団に金で雇われたようなもんだ。お互いに話が合わなければそれで終わりさ」
概ね予想はしていたが、やはり、中央教団にも献槍隊の選別のようなものはあるようだ。役に立たないと判断された者は、元のごろつきに戻ることになるのだろう。
「なるほど、そういうことですか。それでは、一番近い町であなた方を引き渡すようにしましょう」
「俺達は、数も減ってケチな盗賊集団になってるってのに、お前達は、すっかり大きく強くなってるんだな」
今更何を言っても変わらないと思ったのか、どうでもいいことを皮肉のように言ってくる。
「おい! 調子に乗るなよ!」
シリルの側に居た警備役が威圧するが、シリルがそれを制した。
「お蔭様で、同志に恵まれて活動できていますよ」
「へぇ、なるほどね……俺達とお前達で、やってることに大して違いは無いと思っていたが……見解の相違というヤツだな……」
盗賊団の親分は、煽りや挑発のような含みを全く感じさせず、至って素直な口調でそう言った。
理不尽な暴力と同列にされることは、甚だ遺憾ではあるものの、観点や価値観の違いからすると、両者が同じ結論に至ることはないだろう。そのため、シリルは何も返すことをしなかった。
崩れた崖のほうに目線を移すと、作業がもう終わるところだった。




