第二章 第14話 沈殿物
熱くなりやすい男と冷静沈着な男、対照的な二人が報告を終え、隊長の前から下がっていく。
「近くに居るんだから、討伐するべきだろ」
熱を冷ましきれないデレク、タイルがそれを嗜める。
「俺達は、敵討ちをするためにここに居る訳じゃない。隊長の判断は間違っていない」
「それは! そうだけど……タイルのことを考えると……」
「ほとんどの人が、多かれ少なかれ似たような事情を抱えているんだ。そういう意味でも、特別扱いみたいなことはするべきじゃ、おっと」
話に集中してしまい、つい人にぶつかりそうになる。
「すみませ、ん……つい」
「あ、大丈夫ですよ」
危なげなく避けたレナが何ともなく返すものの、タイルが少し戸惑っている。
「いえ、レナさん……」
レナも少し違和感を覚えるものの、すぐ隣に居たカールが二人に話しかける。
「どうした、お二人さん? あんまり、隊長を困らせるような真似すんなよ」
「別に困らせている訳じゃないですよ! ただ、色々とあって……」
デレクが少しむきになって言い返したが、言い淀んでしまう。
「何か悩んでいるなら話してみるか? スッキリするかもしれないぞ。まあ、人に話して逆に自分を抉ってしまうこともあるから、無理にとは言わないけどな」
カールとしては、いつもの調子で言ってみただけなのだが、意外にもタイルが積極的に出てきた。
「良かったら、話を聞いてください」
*****
いつもの五人にデレクとタイルを加え、七人で卓を囲む状況になった。
「俺達二人は、ポスリンカという小さな町、村と言っても良いくらいの町の出身で、幼馴染です」
タイルが淡々と話し始めた。
ある日、赤いシンボルを掲げた十人程度の盗賊団が、献槍隊を名乗ってやってきた。警備隊もない町で、デレクとタイルを含めて、誰もが戦闘術とは無縁で、暴力的威圧には逆らえなかった。
そこに、当時は同じく十人程度だった慈愛の導きが訪れてくれて、激しい戦闘の末に何とか献槍隊を追い払ってくれた。義勇軍も数日の休息を経て、出立の運びとなった時に二人も参加した。
「俺達二人は戦い方すら知らなかった。でも、シリル隊長や皆は、俺達に色々教えてくれて、こうして何とか手伝えるようになってきたのです」
そしてつい先程、斥候として探索中にその時の盗賊団を見つけたとのことだ。
「献槍隊の赤いシンボルは見えませんでした。シリル隊長にやられたから辞めたのか、信仰を捨てたのかは知りません。でも結局、当時としてもあいつ等は単なる盗賊なんです」
タイルが一息ついた。デレクが、何かを言いたそうな眼差しをタイルに向けているようだが、タイルは、それを敢えて無視しているように見える。
「デレクには討伐したいという気持ちがあるようですが、俺は、敵討ちをしても仕方がないし、それは慈愛の導きがやるべきことではない、と思っています」
レナが努めて穏やかに聞いてみた。
「あの、シンボルも無くて、キャンプの明かりがあるとはいえ日没後で、遠目から同じ盗賊だとわかるものなのですか?」
タイルが、それを聞いて深呼吸をした。そして、意を決したように話し始めた。
「俺にはレータという妹がいました。レイは力も意志もあまり強くなく、小さい頃からよくからかわれていました。盗賊の一人がレイに目を付け、俺を縛り上げて目の前でレイを暴行しました」
タイルは淡々と続けるが、聞く者の鼓動を強くする。頭に響く心音は自分のものか、それとも誰か大きな心音を出しているのか。
「その後すぐに盗賊との激戦が始まったので、レイが殺されるようなことはありませんでした」
タイルは、そう言って少しだけ止まってから、観念したように続ける。
「でも追い払って一段落した直後、レイは自分で命を絶ちました」
自嘲するかのようなため息。
「女々しいとは思っていますが、名前も知らないあの男の顔が、忘れられないのです」
無音。それがなぜか耳をつんざく。
ようやくレナが口を開いた。
「ごめんなさい……余計なことを聞いてしまいました……」
「いえ、良いんです。吐き出したら、何か変わるかもしれないと思って、聞いてもらいましたので……こちらこそ、重い気分にしてしまってごめんなさい」
タイルが陳謝の姿勢を示す。すると、自身を抑えるようにしながら、デレクが言った。
「敵討ちが無意味だというのはわかる、わかるよ! でもあの時は、慈愛の導きだって沢山傷ついたんだ。我儘だけど……レイの為に討っても良いじゃないか」
「やめろ、デレク」
「だって、あの『ごめんなさい、お兄ちゃん』って書き置き」
「やめろ!」
タイルが声でデレクを止める。
「言っても仕方ないんだよ。レナさんとレイは名前が似ている。でも、レイは弱くて、少しでもレナさんのようであったらと、兄として少しでも強くなれるよう手を貸してあげていたらと、そんなことを考えてしまう」
タイルは、一気に捲し立てた後に頭をかきむしった。
「自分でも、滅茶苦茶で支離滅裂なのはわかってる。こんなのも意味が無いんだよ」
タイルがデレクのほうを向く。
「お前は、自分の感情を正当化するために、俺を使っているだけじゃないのか?」
デレクも驚き、また静まり返る。
タイルが、はっと気付き急いで陳謝した。
「すみません。滅茶苦茶なことを言いました。特にレナさん、言い掛かりのようなことを言ってしまい、大変申し訳ありません」
そう言うと、タイルは急ぎ足でその場を去っていった。




