第二章 第13話 巡り合わせ
ようやく暑さが和らぎ始めた頃、義勇軍「慈愛の導き」と接触することができた。
ジョンの痕跡を残す作戦が功を奏したのか、諜報担当員が各種の調整をしてくれていたようだ。義勇軍は20人ほどで構成され、外見は統一感に欠け、お世辞にも軍という感じではなかったが、強い意志を持つ者が放つ独特の雰囲気を誰もが纏っていた。
その中でも、ひと際目につく隊長の名をシリル・バーグマンといった。年齢はカールと同じくらいだろうか、やや細身で長身、凛として伸びた背筋に柔らかな物腰が不思議と似合う。
「ようこそ、我らが慈愛の導きへ。お噂はかねがね伺っております」
静かでも通る声、そして想像以上の丁寧な対応にジョンが緊張しながら対応する。
「いえいえ、滅相もございません。こちらこそ、お目にかかれて光栄です」
ジョンはアルスタッドでの出来事、その後の経緯、そして接触した目的を話した。
「なるほど、そのようなことがあったのですね」
「ええ、正直なところ、我々の身の安全と周辺への影響という、自分達の都合を第一に動いてきました。そして、この先、どうすれば良いのかも思案中といったところです」
「ふむ。おそらく匿ってくれ、という訳ではないですよね? かといって、こちらの状況や方針もわからず、積極的に合流されたいとも言い難い、といったところでしょうか」
シリルは、状況をスムーズに把握してくれている。
「まさにその通りです。そこまでご理解して頂けるとは、大変助かります」
「そうですね。まずは周辺も含めた、我々の状況をご説明いたしましょう」
慈愛の導きが掴んでいる情報によると、王都ファスダルグ近辺は統率の取れた献槍隊だが、地方はかなり酷いらしい。
「中央教団は短期決戦でなんとかする、できる、と考えていたのかもしれませんね。でもご存知の通り、少なくともここら一帯の献槍隊は賊そのもので、市民生活は侵害されています」
慈愛の導きは、そのような状態から市民を守るために結成された義勇軍とのことだ。中央教団の是非はともかく、悪漢に野放しで好き放題させることは見過ごせない、とシリルは主張した。
「我々はメーデルシア様の教えを名に冠しておりますが、信仰を行動原理とすることはご法度にしています。もちろん、どのように信仰するかは個人の自由です。しかしながら、信仰を掲げてしまうと中央教団の二の轍を踏むことになりかねません」
シリルが一息おいて、再び静かに強く言った。
「我々は不条理な搾取や略奪を許したくない、ただそれだけなのです」
ひとつの組織を束ねる者の風格が、そこにはあった。おそらく、シリルの人望がこの義勇軍を支えるものの一つなのだろう。
ジョンは軽く深呼吸をして居を正した。
「我々は中央教団に追われる身です。もし我々が慈愛の導きに加わることになれば、中央教団が大手を振って排除する口実になってしまいます。そうなっても大丈夫でしょうか?」
シリルが涼しい顔で返す。
「申し上げましたよね? 不条理な搾取や略奪を許したくない、と。あなた方がそれに賛同して頂けるなら、拒む理由は何もありません」
こうして義勇軍「慈愛の導き」に参入することとなった。
*****
五人での雷貫砲の運用形態が既にできていたので、義勇軍には小隊としてそのまま編入させてみることになった。
カールを起点としてジョンとレナが支える体制の前衛、ヴィルが罠や一撃必殺の後衛、そしてマガスが両方を適宜補佐する中衛、このような体制が既に整っている。そこに、状況に応じて義勇軍でも補佐や連携をするという形だ。
これにより、単一ユニットとしてうまく機能し、雷貫砲を決め手にする従来からのパターンがそのまま活用できた。
それと同時に、各種の洗練化を進めていく。雷貫砲の発射トリガーをヴィルが担うことも多くなってきた。次第にヴィルが出力源の全てとなり、マガスが雷撃と磁線の両方で調整制御する体制に移っていく。
こうすることで、発射同期もヴィルの強い作用にマガスが反応することで実現できるようになり、仕組みを単純化することができた。
*****
義勇軍の進行中、盗賊団が発見された。
慈愛の導きは、各種の情報収集をしながら移動し、献槍隊の不穏な動きを知ればそこに駆けつけるようにしている。今は、次の情報を求めて移動しているところだ。
日が落ちて、街道沿いでキャンプをしているところで、斥候役の二人から報告が来た。
「シリル隊長、ここから北西方向、距離約400、献槍隊だった盗賊団がいました」
デレンク・ドルセの言葉に、シリルは違和感を覚えた。献槍隊だった盗賊団、とは何か。
間髪入れずにもう一人、タイランス・パークライトが注意する。
「おい、デレク、きちんと報告するんだ」
デレクとタイルと呼ばれる二人、ジョンと同じくらいの年齢である。シリルが穏やかに促す。
「詳しく聞きましょうか」
デレクが、気まずそうにタイルに目配せをする。そして、居を正して説明を始めた。
「北西方向、距離約400、森の中に盗賊団と思われる集団が居ました。確認できた人数は七人。我々と同様に、移動中のキャンプと思われます」
「なるほど。では、献槍隊との関連はどう判断しましたか?」
デレクが一息ついて答える。
「献槍隊のシンボルは、見つけられませんでした。でも、アイツらは献槍隊だったヤツらです」
「ふむ……その根拠を教えてください」
デレクは熱くなりやすい性格のためか、冷静さを維持しているものの、気が早っているようで要領を得ない。シリルの控えめな口調に申し訳なく感じて、タイルが口を挟む。
「横から申し訳ありません。ポスリンカを襲った献槍隊だと考えられます。記憶頼りになってしまいますが、顔も含めて色々と見覚えありました」
「そうです! タイルが見間違う訳がっ!」
いきなり怒気を滲ませるデレクを、タイルが冷静に制する。
「個人的に忘れられない顔が一人居ました」
合点がいったとばかりに、シリルが頷く。
「あの時の献槍隊、という訳ですか……」
慈愛の導きが今の半分くらいの規模の頃、ポスリンカという小さな町が献槍隊に襲われていた。デレクとタイル、そしてタイルの妹レータは、そこに居た。そして、義勇軍が献槍隊を退けたのだ。
デレクとタイルの顔に浮かんでいるのは、怒りか郷愁か。
赤い炎が、揺らめきながら二人を照らす。




