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力とその一閃  作者: 遠井 椎人
第二章

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第二章 第11話 信仰とは

 ジョンは、リーダーとして非常に頼れる存在であった。


 作戦参謀、戦術指南、戦闘術指南などという戦闘での役割に留まらず、一行としてどのように進むべきかも示してくれた。


 ジョンが警備隊で得た情報によると、アルスタッドに来た献槍隊に限らず、近辺の献槍隊は盗賊もどきばかりらしいとのことだった。それで各地の治安が悪化し、「慈愛の導き」という義勇軍が編制されているとの情報もある。


 今後の方針として、まずその義勇軍との接触を目標に定めた。また、敢えて雷撃等を使う一団の存在の痕跡を残しながら進むこととした。


 これは、一行の保全、献槍隊の誘引、慈愛の導きへの存在感を示すなどから、総合的に判断した結果によるものだ。もちろん、集中的に追われたり、慈愛の導きから拒絶されるリスクもある。それでも、これが今の最善策だと考えた。


 そうして歩を進めていくと、嫌でも周辺の現状を知ることになった。行く先々の教団の関連施設では、盗賊もどきがのさばっている。アルスタッドに来た頭目とは違って、教会を我が物顔で占拠する者もいた。施設に居る教団側の人間も、暴力支配を受けている状況だった。


 一行はそれに対処しながら、慈愛の導きと接触するために進む。街道沿いの侘しい教会を経て、更に進んで行く。


*****


 古びた小さな教会のある、小高い丘に到着した。


 そこからほど近くの低地に小ぢんまりとした村があり、更にその向こうに川が流れている。


 用心して一旦止まりジョンが言った。


「かつては教会を中心とした村だったが、開墾が進むにつれて村が低地のほうへ移行して、教会だけが丘に残っている、といったところだろうな」


 皆がその見立てに頷く。


「とりあえず、俺とレナで様子を見てくるから待っていてくれ」


 ジョンとレナが探りを入れるというのはいつものことだ。誰かと直接的な接触があるとしても、治安悪化で住処を出て放浪せざるをえない兄妹という体にすれば、怪しまれることもほとんどない。


 程なくして、二人は隠れる様子もなく戻ってくる。


 そして五人でそのまま教会へ行くと、神父と思しき人物によって中へと案内された。雑然と散らかった礼拝堂には、他に二人の年配の男がいた。


「ようこそいらっしゃいました。私はこちらで神父を務めている者です。ご自由におかけ下さい」


 神父に促されて皆が座る。


「丁度、今後について話をしていたところです」


「そんなもんじゃねえよ、単に愚痴ってただけだ」


 男の一人が、自嘲気味に怒気を孕ませながら言い捨てた。どうやら二人は村の者のようだ。


 神父の話によると、村はジョンの見立て通りの歴史だったようだ。先の言い捨てた男は苛立ちを隠すこともない様子で、またもう一人は時々相槌を打つという状況で、神父の話が続く。


 ある時、献槍隊を名乗る悪漢達が訪れ教会を占拠した。異端にあたるものが特に何も無いのに、脅すように村から搾取だけしようとしてくる。しかしながら、悪漢達が満足するようなものは村にはないので、偉そうに食事を要求する程度だった。


 あとはもう、気分に応じて畑を荒らしたりするなど、ちょっとした無法を働いたりすることがずっと続いた。村は少しずつ荒れていき疲弊していく。


 しかも、最近になって、異端の雷が近くにいるとの話が流れてきて、悪漢達は去って行ったというのだ。


「異端の雷が危険だから出て行くだと? お前らは異端を倒す献槍隊じゃないのかよ!?」


 男がまた怒りをあらわにする。


 ジョンが簡単にこちらの事情を説明した。アルスタッドで起きたこと、義勇軍との接触を図っていること、敢えて痕跡を残していること。そして、村に対して慰めの意を表すと共に、早々に去ることを伝えた。


 すると神父が口を開く。


「とても強い力をお持ちと伺っています。もしよろしければ、どうか、この教会を壊してもらえませんか?」


 その場に居た誰もが驚いた。


 確かに、メーデルシア信仰においては、女神像は単なる象徴にすぎないし、女神そのものに等しい物質的な権威というものはない。だから、教会もあくまでも信仰のための建物にすぎず、壊したからといって信仰を蔑ろにすることにはならないだろう。しかしながら、この教会は村にとって様々な意味を持っているはずだ。


「村の歴史の証のような教会をなくすことに、抵抗がない訳ではありません。でも、教会がなければ同じことは起きないでしょうし、村の皆も嫌な記憶から解放されると思います」


 神父が一息つき、片手を胸に当て、言葉を続ける。


「そして、心機一転、皆でもう一度立ち直るよう努めます。いつかは村の近くに教会を建てたいと思っています。メーデルシア様も慈愛で支え導いてくださるはずです」


「いや、そんなことをして本当に大丈夫ですか?」


 穏やかでも確かな決意を感じさせる神父の言葉に狼狽えながら、ジョンが聞き返す。すると、それまで口数の少なかったほうの男が神父に続いた。


「私も、神父様の意見に賛成します。よろしくお願いします」


 苛立つ男も更に続く。


「けっ、そんなに上手く行くかよ……でも神父の話に乗ってもいいぜ……」


 その場はそこでまとまり、村まで移動して神父が教会を破壊する旨を伝えた。


 賛意を口にする者、無言で同意する者、不満そうな表情をする者、様々な反応があった。しかしながら、間もなくして賛成という形で一致した。


 そうして、マガスとヴィルが雷貫砲で教会を撃つこととなった。


*****


 轟音と共に礼拝堂が砕け、鐘塔が崩れながら倒れていく。


 かつて村が始まった丘に、わずかな余韻だけが静かに響いた。


 その後、一行のロバと村のラバを交換することを持ち掛けられた。


「ラバですので子を持つこともできませんし、やはり気性が荒いところもあります。でも、村一番の働き者です。きっとあなた方のお役に立つと思います」


 予期せぬ提案にジョンも少し驚いた。


「こちらとしては、ロバの負担やこれからの道中を考えれば願ってもないことですが、そのようなラバこそ、村には必要なのではないですか? せめて、埋め合わせ分を何かで負担させてください」


「いえ何も要りません。交換こそがこちらの望みです。村の次への一歩の象徴のひとつとして、何か残して頂きたいのです」


「そうですか、わかりました。実は、このロバは孤児院から譲り受けたものです。粘り強く頑張ってくれますので、皆さんと村の再興の道を歩んでくれると思います」


「ああ、そうなのですね。きっと慈愛に導かれて強く生きてきたのでしょう。これも何かのお導きかもしれません。我々もここから立ち直っていきたいと思います。本当にありがとうございます」


 力による破壊が心を開放することもあるのだ、そう感じながら村を去った。

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