第一章 第10話 旅立ち
教会では、騒動の犠牲者を弔う祈りが続けられていた。
雷貫砲で次を撃てるか怪しかったが、威嚇効果は抜群だった。しかし、間違いなく再侵攻が来るだろう。同じ献槍隊か、別の献槍隊か、いずれにしてもアルスタッドがまた巻き込まれてしまう。
マガスとヴィルは、ヴィルの両親はもちろん、多数の犠牲者を弔うために祈った。そして、あらゆる人達が二人に話しかけられるよう、教会の近くに立っていた。
マガスとヴィルは、力を持っていることと、それを使ったことを説明するよう努めた。また、アルスタッドへの再侵攻の可能性を減らすためにも、二人でアルスタッドを離れることも伝えるようにした。
当然ながら、罵る人も無言で厳しい眼差しを向ける人もいた。
「お前がこの町に来たのが元凶だろ? 逃げるのか? 町を戻す責任はどうするんだ? 犠牲者に対する責任は? どんな補償ができるんだ?」
暴言や感情をぶつけられるのも辛いが、稀に責めるカタルシスが目的と思われる人もいて、問題の本質とは異なる部分が削がれているようで辛かった。
ただ、多くの人が二人の決断について肯定的な反応を示してくれたし、責める人を嗜め慰めてくれたので、必要以上に場が荒れることはなかった。
「俺も傍で同じことをしたいんだが、良いか?」
カールがやって来た。
「俺も二人と同じことをやってきたも同然だ。止めることだってできたはずだからな」
「いや、でも、雷の魔法とは直接の関係は……」
「いいんだよ。俺が好きでやったんだ。俺がやってきたことを説明させてくれ」
こうやって半ば強引に入り込んできたが、必要以上に話に干渉することは避けてくれているようだった。おそらく、カールが前面に出ると、人々の意識がそちらに向いてしまって、二人が意図していることを阻害するとの判断なのだろう。
中等学校の女子生徒、メリーも立ち寄ってきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 私がぶつかったばっかりに!」
いきなり号泣する。メリーは、最初に悪漢にぶつかってしまったのだが、三人には事情がよくわからない。それでも、ヴィルが優しく抱きしめた。
「辛かったね……」
「うわーん! 助けてくれたケンも死んじゃって! 他の人も!」
ヴィルは何を言われても泣かないよう努めていたのだが、この時ばかりは静かに涙を流してしまった。そしてそのまま、その子が泣き止むまで抱擁を続けた。
孤児院の一団が来た時、就学前の小さな子供がヴィルに話しかけてきた。
「ヴィルおねえちゃんは、何も悪いことしてないよね?」
涙目の第一声がこれで、言葉に詰まる。
「そうよ、ヴィルおねえちゃんは悪いことなんてしていないわ」
いつの間にか警備を交代していたレナが近寄って来た。子供がきょとんとしているが、レナは続ける。
「ヴィルおねえちゃんはね、皆のために頑張ってくれたのよ」
膝を曲げ腰を落として、レナが子供の頭を撫でる。すると子供の表情が笑顔になり、ヴィルへと近付く。ヴィルもレナ同様に姿勢を低くすると、子供が抱きついてきた。
「そうだよね! ヴィルおねえちゃん大好き!」
心の中で何かが洗い流される。
一方のレナを見ると、孤児院の年が上の子達とは顔見知りのような振る舞いをしている。すると、レナがマガスに説明してくれた。
「私も兄貴も戦災孤児でね、孤児院の育ちなの。進学も色々支援を手配してもらって、二人とも王都で戦闘術の学校に行って、アルスタッドに戻って来たのよ」
そう言えば、司祭館の時にレナが兄貴と呼ぶ人物が居た気がする。
「後でまた話をさせてもらうから。それじゃ」
レナはそう言い残して離れ、孤児院の皆もそのうち去っていった。
木々が風に揺らぐ中、弔いの祈りは続けられていく。
*****
日が落ちると、教会に鎮魂の灯が満ちるも、人影はまばらになってきた。
マガスとヴィルがアルスタッドを出ることについて話をしていると、カールが同行すると言ってきた。
「ここまで来て、俺が手伝わない理由が必要か?」
軽口のように聞こえるが、表情はいたって真面目だ。
「見た目としても用心棒が必要になるはずだ。力仕事だって任せてくれ。昔は大剣を振り回したりしてたし、加熱も少しはできるぜ」
「カールさん……もちろん、それはそれでありがたいですけど……」
「そもそも雷貫砲は俺が製造したんだ。今後のこともあるし、足を突っ込んだからには責任を取らせてくれ。俺なりのケジメをつけたい」
そして少し口調が変わる。
「コレットさん達には色々世話になったんだ。敵討ちに意味があるとは思わないし、何をすれば良いのかもわからないが、弔いになると思ってる。それに、マガスもヴィルも放っておけねえ」
「鍛冶屋のほうは大丈夫なのですか?」
マガスが心配そうに聞くと、カールが口調を戻して答えた。
「工房の作業場も滅茶苦茶にされて炉も壊れちまったし、しばらくは仕事にならねえんだよ。なあに、オヤジさんと工房の皆には、もう壊されないようにしてくるから修理頼むって言っておくよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「カールさん、お願いします」
マガスもヴィルも礼を言う。感謝してもしきれない。ありきたりな表現だが、それこそカールに対してはよく似合う言い方だと思った。
そこへ一人の青年とレナがやってきた。
「もう何度か顔を合わせているが、俺はジョン・マルセスで、こっちが妹の、レナは知っているみたいだな」
ジョンが自己紹介をすると、二人は早速本題に入った。
「俺達二人も同行させてくれ。カールさんのような腕っぷしはないが、戦力になるし大人との交渉とかでも役に立てると思うぜ」
「私は兄貴みたいにオールマイティじゃないし、魔法も加熱のほうに偏りがちだけど、戦力以外でも、ヴィルにとっても皆にとっても助けになると思うよ」
後で知ったことだが、ジョンは警備隊で若きリーダーの一人として頼りにされており、レナは、去年警備隊へ入隊したばかりだが、将来の精鋭になると目されているという。
「俺達兄妹はアルスタッドと町の皆に感謝している。アルスタッドを離れるマガスとヴィルを守ることは、アルスタッドにとって重要なことだと思う。だから一緒について行きたいんだ」
二人が言うには、警備隊との調整は既につけてあるらしい。隊長が一瞬だけ渋い顔をしたが、自分達の道は自分達で進め、と檄を飛ばしてくれたとのことだ。
マガスとヴィルはカール、ジョン、レナに深い感謝を示すと共に改めて同行をお願いした。そして、ジョンに一行のリーダーを依頼すると、快諾してもらえた。
また、荷物運びの便宜にと、孤児院から一頭のロバを譲り受けた。各地で駄獣の交換拠点が運営されており、駄獣を適宜交換しながら街道を進んで行くという運輸システムがある。最初の一頭を提供してもらえることは非常に有難かった。
皆は孤児院に大いに感謝し、ヴィルの家から中程度の大きさの荷車を一つ引いていくことにした。
こうして、一行は鎮魂と復興の空気が漂うアルスタッドを旅立つのであった。




