魔物を討伐した後
地面に崩れ落ちたドラゴンは、その場で息絶えていた。
あたりには土煙が立ち込めていたが、しばらくして村人やハンターたちが駆けつけ、恐る恐る様子を確かめていた。
「ドラゴンが一瞬にして倒されたぞ!」
「いったい誰がこんな大胆なことを……。我々が束になって攻撃してもびくともしなかったのに。」
「向こうの塔の上で、誰かが魔法を放っていたのを見た。一体何者なんだ?」
村人もハンターたちも、ドラゴンに致命傷を与えた人物は誰なのかと、その話題で持ちきりだった。
そこへ、様子を確かめようと塔から降りてきていた私たちも合流した。
「やりましたね! 今回は一発で仕留められましたよ。」
私は、前回の魔物討伐のときよりもずっとスムーズに事が運び、思わず胸が高鳴った。
ドラゴンは農村の民家付近へ落下したが、幸い村人は全員避難が避難を済ませていたため、いくつかの建物が倒壊した以外に大きな被害はないようだった。
「まさか……あなたが、あのドラゴンを仕留めた攻撃士様で?」
「はい、私がやりましたよ。」
当然のように私が名乗りでると、周囲の人々は更にざわめき立った。
「まさか……!」
「あの塔の上から、一発でドラゴンを仕留めたというのですか?」
「信じられない……どうやったんだ?」
村人やハンター達は、眼の前にいるひ弱そうな貴族の令嬢が、他でもない討伐した本人だと言うので、にわかには信じがたい様子だった。そばで聞いていたユリウスが助け舟を出す。
「当然だ。このドラコンはここにいるフェンネルが一撃で討伐した。
内側から核を破壊する魔法を発動したんだ。ここにいるエドワード当主も、そばで見ていただろう?」
ユリウスが静かに言い添えると、エドワードも静かに深く頷いた。
この地を治める領主自身がそう証言した以上、誰も疑う者はいなかった。
「なんということでしょう……。 ドラゴンを一撃で倒せる攻撃士様が、まだいらしたとは。」
「攻撃士様は今や数が減ったと聞いておりましたが……まさか、これほどの方が……」
ようやく周りの人々に自分の力を認めてもらえ、私はほっと胸を撫で下ろした。
その一方で、まったく面白くなさそうに唇を噛みしめていたのは、エルミールだった。
(嘘……でしょう!? あり得ない……お姉様が本当にドラゴンを討伐してしまうなんて……)
エルミールは、姉である私の力を完全に過小評価していた。
なのに、あんなにもあっけなく討伐してしまうなんて――どうやって?
(……まずいわ。)
この噂が広まれば、私は国中の評判になる。そうなれば、自分の企みは水の泡だ。
私を陥れる作戦がすべて台無しになってしまう。
(このままでは終われないわ…。絶対に。)
エルミールは静かに決意を固め、次の行動へと踏み出そうとしていた。
* * *
エルミールの予想した通り、翌日にはドラゴンを討伐した公爵家の令嬢の噂は瞬く間に国中に広がっていいた。遠い北の地でも同様に噂はかけぬけており、町中がお祭り騒ぎになっていた。
私は外を出歩くたびに、人々からもてはやされて歓迎されて取り囲まれるので、最近では少し疲れが出てきている。流石にみんな大げさだなあ、と思いながら、ほどぼりが覚めるまでを過ごしていた。
「フェンネル、国王陛下が君の攻撃士としての噂を耳にして、近々謁見したいとおっしゃった。」
「こ、国王陛下がですか!?」
急な申し入れに、私は飛び上がってしまった。まさか陛下の耳にまで入っているとは。
「とても名誉なことではないか?私も、婚約者として鼻が高いよ。」
そう言ってユリウスは喜んでいるが、隣で私は急に緊張してしまった。
「とても光栄ではありますが、私はそういった場に不慣れなので、少し緊張してしまいます・・。」
「かしこまる必要はないよ。陛下には何度かお会いしたことがあるが、とても温厚で心優しいお方だ。
心配はいらない。」
ユリウスはそう言って安心させてくれた。
「それに、国王陛下にはもう一つ私からご報告に伺いたいと思っていたところだったんだ。」
「?」
「私たちは婚約して、もうしばらく経つ。そこで陛下に立会人となっていただき、正式に婚礼を挙げたいんだ。……もし、君が了承してくれるなら、だが。」
「こ、婚礼……」
その言葉に、私は一気に頬が赤面するのを感じた。
確かに、ユリウスから正式に婚約者として認められてはいるが、結婚はまだしていない。
「は、はい……。私も、これからもユリウス様と共にいたいと思います。」
言った途端、自分でもわかるほど顔が真っ赤になってしまう。
「そう言ってくれて嬉しいよ。他でもない陛下が立会人となってくれるのであれば、これ以上心強いことはない。そのまま、叔母様や親族へも挨拶を行って、王都で式を挙げよう。」
ぽうっとしたまま、私はうつむいた。
ふと、自分の左手にはめられた指輪に視線が落ちる。公爵家に古くから伝わるもので、以前ユリウスから贈られた大切な指輪だ。その指輪をそっと握りしめると、まるでそっと背中を押されているようにおもえて、勇気をもらえたような気がした。




