ほろ酔い
ヴィクトリア夫人との会話のあと、私は少しだけ落ち込んでしまった。今も、公爵夫人の言ったことが心に引っかかっている。
(……私は、ユリウス様の婚約者失格なのかもしれない)
彼はああ言ってくれたけれど、確かにまだまだ自分には覚悟が足りない部分もあるのかもしれない。
(もっと、自分から積極的に行かなければいけないということなのなのかしら_。
……そんなこと、私にできるの?)
_そんなことを考えているうちに、夜会の夜は更けていく。
この時間になると、さすがに帰りの汽車はもうないので、今夜はこの屋敷に泊まる予定だった。
貴族たちの相手も済んでようやく落ち着いたところで、自分がひどく空腹であることに気づく。
会場には、立食形式でたくさんのご馳走や、お酒が用意されていた。ウェイターがお盆を片手にフィンガーフードや、オードブルを進めてくる。更に奥のテーブルには、バイキング形式で肉料理やパン、フルールなどが盛り合わさった色とりどりのお皿がたくさん並べられていた。
(……見ているだけでお腹が空いてきたわ)
私は手近なテーブルの軽食に手を伸ばした。
サーモン、クラッカー、クリームチーズを重ねた一口サイズのピンチョス。一口食べてみれば、オリーブオイルとペッパーがふわりと香った。
(おいしい……。さすが南部、食材が豊富なのね)
隣のお皿には、人の片腕程もあろうかという大きなロブスターの兜が鎮座していた。
下にはその切り身とともに、お米を使ったパエリアと言う料理と合わせて提供されている。これもまた絶品だった。
お酒も種類が豊富で、ワイン、蒸留酒、この地方特有の果実酒、それらをフレッシュジュースと組み合わせたカクテルなどが並んでいる。
(このカクテルはノンアルコールって書いてある……これなら大丈夫よね?)
私は、グレープフルーツとシロップを合わせた透明な飲み物を一口飲んでみた。
(甘くて、酸味もあって……おいしい)
空腹だった私は、先程の疲れを吹き飛ばすように、豪華な夜会の食事を満喫した。
* * *
飲食が進むにつれて、私は異変に気づいた。
(なんだか……意識がぼんやりする……?フラフラするし……すごく眠い……)
疲れのせいだと思い、会場の隅の椅子に腰掛けて休んでいると、異変に気がついたユリウスが駆け寄ってきてくれた。
「フェンネル、一体どうしたんだ。なんだか顔が赤いぞ」
「顔が……?」どうしてだろう。
「初めての場所で、疲れが出たのかもしれないです……」
そう答えたとき、ユリウスは私が持っていたグラスをうけとり、その香りを確認してみた。
「フェンネル……。君は飲み過ぎ。
これは“スピネル”という、この地域で最も強いお酒のカクテルだ
お酒が弱いと言っていたのに、どうしてこんなことを?」
「えつ!? これノンアルコールじゃないんですか!?」
私は飛び上がった。
「知らずに飲んでいたのか? まったく……」
呆れたように言いながらも、ユリウスは、ふらつく私の身体を支えるようにして、そのまま私を屋敷が用意した寝室まで連れて行ってくれた。
* * *
「_ご迷惑をおかけしてすみません。」
部屋に戻ってきてから、私はユリウス様に自分の失態を謝罪した。この夜会に来てから、私が不甲斐ないばかりにユリウス様に迷惑をかけ続けている気がする。夜会でもあまりあんなふうにうまく活躍できなかったし。
そんなことを考えていたらだんだん自暴自棄になってきた。
「気にしないでほしい。私も初めての場に君を連れ出して、無理をさせてしまったと思っている。」
「そんな事ありません。」
「それに、叔母様が言っていたことは気にすることはない。
いつもああやって手厳しい方なのだ。同時に有用で正しいことをおっしゃる。」
確かに私もその意見に賛同する。ヴィクトリア夫人は、まるで私の心を見透かしているようだった。
私は、彼女の言っていたように、覚悟を決めてユリウスと対峙することに決めた。
「そうですね、叔母様の言うように、私もそろそろ覚悟を決めたいと思います。」
勢いに乗って、私はユリウスの肩に抱きついた。
「!?」
「婚約者として、私も皆さんに恥じない行いをします!」
このとき、私はとても酔っ払っていた。自分でも何を言っているのかよくわからないけれど、私は、ユリウス様に対してこれからの自分の覚悟と決意を表明したつもりだった。そのつもりのハグだった。
「確かに、君の言う通りかもしれない。」
急に私に抱きつかれて驚いていたはずのユリウスも、いつの間にか笑って私を受け止める。
「実は私も、君に対して少し遠慮している部分があったんだ。
でも、君がそこまで言うなら、もう我慢したりしないで良いということなんだろう?」
そう言うユリウス様には意味深な笑みが込められている。
「_遠慮していた? 」
(ユリウス様が?一体何に?)
私は、あまり状況を理解できなくて首をかしげる。
そんなことをしているうちに、ユリウス様は不意に私を越し変えていたベットの上に押し倒した。
「ん?」
今度は私が状況を理解できなくて首をかしげる。
頭上ではユリウス様が意味深な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「君が覚悟を決めてくれて嬉しいよ。これで、もう君に遠慮をしないですむ。」
「か、覚悟!?」
(それは一体なんの覚悟?)
聞き返す間も与えられないまま、私はユリウス様に抱きしめられて、そのままベットの上沈んでいった_。




