エドワードの心情
新作、「後宮の亀仙女 -怪異解決簿- 」を
数日前から連載開始しました‼︎
中華謎解きファンタジーです!よろしければそちらも覗いてみてください
フェンネルは屋敷のバルコニーに出て、一人夜風に当たっていた。先ほど、エルミールがユリウス様の部屋へ入っていくのを――偶然、目にしてしまっていたのだ。
妹のエルミールが現れると、あまり良いことが起こらない。せっかく姉妹が再会できたというのに、なんだか胸がざわついて心の底から喜べない自分がいる。
ため息をつき、気分を変えようと手すりにもたれて夜空を仰いていると、不意に背後から物音がして
振り返れば、そこには意外な人物が現れた。
「エ、エドワード様……? どうされたのですか?」
現れたのは、妹の夫――エドワードだった。
いつもは必ずエルミールが傍にいるのに、今夜は一人きりのようだった。
_それもそのはずだ、エルミールは今、ユリウス様の部屋にいて話し込んでいるのだもの。
彼はそれを知ってか知らずか、当たり障りない話題を振る。
「いや、君が外へ出ていくのが見えたから、少し寄ってみただけだ。
どうだ、北の新天地での暮らしは?
エルミールは君のことをずいぶん心配していたようだが。ここでの君の様子を見ていると――案外うまくやっているようで、安心したよ」
エドワードは気さくにそういった。
「はい。確かに最初はなれないことも多くありましたが、ユリウス様は、私にとても親切にしてくださいます。」
「それもそのはずだろう。ユリウス様は幼いころから逸材として知られていた立派な方だ。」
「だが。」とエドワードは更に言葉を続けた。
「その裏で、彼には良くない噂も聞く。
北の地平定に尽力するあまり、魔物による呪いを受けたとか_。
そのせいで今まで何人もの婚約者候補が現れたそうだが、いづれも破談になったそうだ。
……君が、同じ運命を辿らなければよいが」
エドワードは表情を曇らせた。
彼が私を案じてくれるなんて、少し意外だった。
けれど、ユリウス様がすでにその呪いを解かれたことを、彼はまだ知らないようだったので、私は彼にその心配はもう必要なくなったことを伝えた。
「どうかご安心ください。
私はうまくやっていけるような気がします」
そう言ったところ、エドワードはなぜか顔を曇らせた。
「本当に大丈夫なのか?」
「それに呪いといえば、君自身はどうなんだ。
君はあれから、自分の力をちゃんと制御できているのか? いつまた力が暴走して――」
「それはっ……!」
思い出したくない話題を投げかけられ、思わず声を荒げてしまった。
「あれは、何度も説明したはずです。
私はあなたに危害を加えたことなど、一度もありません」
胸の奥が痛んだ。家族や周囲の反応は、いつも同じだった。向こうで受けてきた非情な扱いが、思い出されて、私は思わずムキになってしまった。
「僕は……どうも同感できないな」
エドワードの声音が低くなる。
「公爵との婚約だって、うまくいくはずがない」
「あなたには関係のないことです。余計なお世話ではありませんか」
私はそう強く反論したが、エドワードは引き下がらなかった。
「フェンネル、考え直してくれ。
悪いことは言わない。僕と一緒に南部へ戻ろう」
エドワードは、なぜか必死に言いすがってきた。
どうしてそこまで必死になるのだろうと、フェンネルは不安がよぎった。ここでの暮らしも、ユリウス様との関係も――彼には関係のないことのはずなのに。
「一体……どうされたのですか?」
私が訝しむと、エドワードは不意に私の手を取った。
その手の熱があまりに唐突で、思わず身を引きそうになる。
「実は……ずっと君に心惹かれていたんだ。
エルミールに君の“呪い”のことを打ち明けられたとき、怖くなって突き放してしまった。
けれど――君のことが、どうしても忘れられなかった。」
「は、はあ……!?」
「こんな怪しげな公爵のもとになどいないで……一緒に逃げよう」
一体何を言い出すかと思えば_突拍子もない発言に私は一瞬言葉を失う。
「エドワード様、あなた……一体何をおっしゃっているのですか!
あなたには、エルミールという伴侶がすでにいらっしゃるはずです!」
一瞬思考が停止したが、私はすぐに気を取り直してピシャリと反論した。
「エルミール? ああ、確かに彼女は最初こそ愛らしく、魅力的だった。
けれど、彼女は最近浪費ばかりで、わがままが過ぎるんだ。……こんなはずじゃなかった」
(――ああ、そういうことだったのね)
私は妙に納得してしまった。
「とにかく、お気を確かに。
私のことは心配せずとも大丈夫なので、もう放っておいてください」
きっぱりとそう告げると、エドワードは黙り込んだ。
なんとか、窮地を逃れたように思い、私がほっと胸を撫で下ろそうとした――その瞬間。
背後から、聞き覚えのある低い声が響いた。
「フェンネル、エドワード……そこで一体、何をしているんだ」
恐る恐る振り返る。
そこには、怒りを押し殺したような表情のユリウス様が立っていた。




