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禁じられた破壊魔法使いの私は、呪われた辺境公爵へ嫁がされましたが、私には何が呪いなのかよくわかりません。  作者: 秋名はる
第2章:妹編

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29/50

エルミールの憂鬱

今日から後編(第二部)突入します。ここまで読んでいただきありがとうございます。

引き続き楽しんでもらえたら幸いです。

一方その頃、妹のエルミールは、

豪華な屋敷の庭先で優雅に午後のティータイムを過ごしていた。


「はあ……。お姉様が出ていってしまわれてから、なんだか退屈だわ。」


気だるげにため息を漏らすと、カップの中で琥珀色の紅茶が小さく揺れた。


姉が去ってからというもの、エルミールは献身的にエドワードの治療を続け、その甲斐あってか、めでたくエドワード伯爵との婚約が決まった。


そのまま彼の屋敷に転がり込み、こうして悠々自適な暮らしを手に入れたわけだが__この頃の彼女は、退屈に苛まれていた。


「なんというか、張り合いがないのよねえ。」


フェンネルが屋敷を去った当初は、邪魔者がいなくなって清々したと思っていた。けれど今になってみると、あんな出来損ないでも、退屈しのぎにはなっていたのだと気づく。


「エドワード様から引き離すところまでは良かったのよ。

でも……辺境の地に追いやるなんて、いくらお父様でもやりすぎだったんじゃなくて?」


紅茶のカップを指先でくるりと回しながら、エルミールは少し眉をひそめた。


エドワードは優しく、彼女の望むものを何でも与えてくれた。父もまた、有力貴族との縁談が決まった娘を祝福し、最初のうちはお祝いの品や贈り物を惜しみなく与えた。


その結果、エルミールの屋敷には数え切れないほどの装飾品やドレスが溢れかえっており、今では夫であるエドワードにたしなめられるほどになっていた。


「それに――」


エルミールはカップを唇に寄せ、紅茶をひと口含んだ。


「お姉様がいないと、私の魔力の調子もあまり良くないのよね。」


彼女が持つのは、治癒の能力。しかしその力には、誰にも知られていない“秘密”があった。


エルミールの魔力は、もともとそれほど大きくはない。そこで彼女は、家庭教師から密かに指南を受け、他人から魔力を奪って利用する術を身につけていたのだ。


近くにいる者は、自分の魔力が少しずつ吸い取られていることに気づかない。だが、相手の魔力が強ければ強いほど、エルミールの治癒の力も比例して増す。フェンネルが近くにいた頃、彼女の治癒が異様に冴えていたのも、そのためだった。


だからこそ、体よく厄介払いができたはずの姉の不在を、心から喜べない自分がいることに、エルミールは薄々気づいていた。


「お姉様は、今頃どうしているかしら……。」


あれ以来、姉からの連絡は一度もない。どんくさい彼女のことだ、どうせうまくいかずに、すぐに屋敷を追い出されて戻ってくると思っていたのに――なんの音沙汰もないのだ。


近頃、北の地では“温泉”という不思議な泉が湧き出し、そのおかげで辺境が観光地として栄え始めているという噂を耳にした。


少し前までは呪われた地として、誰も近づこうとしなかった場所なのに。それが今では“奇跡の泉”などと呼ばれているらしい。


「……なんだか、姉の株が上がっているみたいで、面白くないわ。」


カップをソーサーに戻し、エルミールは唇を尖らせた。


それに、あの“呪われた公爵”の噂も、近頃はほとんど聞かなくなっている。まるで、何もかもが好転しているようではないか。


「なんだか私、急にお姉様のことが心配になってきましたわ。

私がいないと、きっと彼女も心細いでしょうし……」


エルミールは立ち上がり、風に揺れる髪を指で払った。その瞳には、何やら企んでいるような表情が読み取れる。


「ここはひとつ、私が様子を見に行って……お姉様を励まして差し上げなくては。」


* * *


ある日、いつものように屋敷で余暇を過ごしていると、執事が珍しく私のもとへやってきた。


「お嬢様、お手紙でございます。

 エドワード伯爵夫人、あなたの妹エルミール様からのようです」


「エルミールから手紙……?」


この地へ来てから、祖国からの連絡は一度もなかったので、私は首をかしげた。受け取って手紙を開くと、たしかにそれは妹のエルミールからのようだった。


中身は、大半はエドワード伯爵との婚約の話や順風満帆な結婚生活の戯言が綴られていたが、最後にこう付け加えられていた。


『家のことも落ち着いてきましたし、

 ふと、遠い異国の地へ行ってしまったお姉様のことが心配になりましたの。

 近々ご機嫌伺いにまいりますね』


「え、エルミールがここへ来るって!?」


読み終わって、私は思わず声を上げた。

すると隣で様子を窺っていたユリウスが口を開く。


「良いじゃないか。

近頃は公務も落ち着いて、暇を持て余していたところだ。」


「よ、よろしいのですか? 妹がこちらにお世話になっても……」


「何か問題でもあるのか、 君の妹なのだろう?

 屋敷に客人が何人来ようと、こちらは別に困ることはない。」


そう、のんびりと言ってのける。


「それに、私も一度エドワード伯とは会ってみたかった。

 彼は私と同年代だと聞いている」


「_確かに。ユリウス様がおっしゃるなら」


そう言いながらも、私は胸の奥に拭いきれない不安を抱えていた。


「_何か、心配事でもあるのか。

 妹と会えることが、君にはあまり嬉しくないように見えるが」


そう言って心配そうに顔を覗き込んでくる彼に、私の不安を正直に伝えられるはずもなかった。


確かに、はたから見れば近しい妹が遥々会いに来てくれるのに、それを喜べないなんて不自然だ。

でも、私はエルミールとエドワード伯での悲惨な婚約破棄の出来事が今も心に残ってトラウマのように燻っている。


エルミールを始め、私の周りの人はそもそも私や私の持つ能力を嫌煙して、忌避してきた。

私がこの北の地で家族の言いつけを破って魔力を使っていることはもちろん

魔物を倒したり、自由に魔力を使って色々やっていることを知ったら、彼らはどんな反応をするだろう。


_想像に容易く、とても恐ろしかった。


それに、と私は最も恐ろしい考えが頭をよぎって青さめる。

もし、彼らの私への評判を、ユリウス様が耳にしたら。彼らがユリウス様に、自分は不本意ながら本当は危険な破壊能力使いであることを知ってしまったら。


きっと、彼らのように私を嫌煙して、今度こそ本当に屋敷を追い出されてしまうかもしれない。

考えただけで泣きそうになった。でも、彼もまた私の過去を知る権利がある。彼らを私は拒むことはできないのだ。


「確かに、私もユリウス様に妹を紹介して差し上げたいです。

 せっかく遥々来ていただけるのであれば、精一杯歓迎いたしましょう。」


半ば悲壮感漂いながらも、私はそう決心して、妹へ返事の手紙を書き始めた。

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