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禁じられた破壊魔法使いの私は、呪われた辺境公爵へ嫁がされましたが、私には何が呪いなのかよくわかりません。  作者: 秋名はる
第一章:呪い解除編

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魔物の山の間欠泉

側近に言われるまま山を降り、開けた場所に出たとき、彼の言っていたその“異変”の正体が目に飛び込んできた。


山の中腹、先ほど魔物を討伐した洞窟の裏手あたりから、巨大な水柱が空高く立ち上っていた。


まるで天へと伸びる一本の塔のようで、周囲には細かな水しぶきが絶え間なく散っている。霧のように白く煙るその光景は、どこか幻想的でありながら、同時に不気味さも感じさせた。


「あれは……一体……?」


私は思わず息を呑んだ。こんな光景、今まで一度も見たことがない。ユリウスも険しい表情で目を細めていた。


「あれが発生したのはいつ頃だ?」


「はい。おそらく、魔物が討伐され、洞窟が自重によって崩落した直後と思われます。

 あの水柱はそれ以来、ずっとあのままの状態で……。」


「そうか。」


ユリウスは腕を組み、しばし考え込む。水柱は今は朝の陽光を受けてきらめいている。それは一見美しく見えるが、それが噴き上がっているのが他でもないこの魔物の住まう山の中なので、同時に言いようのない不穏さが潜んでいた。


「念のため、原因を調べておく必要があるな。

 後ほど私も調査に加わる。ひとまず、今は休息を取ろう」


そう言って、私たちは一旦村へ戻ることにした。

村にもどり、滞在先の宿へ無事に辿り着くと、戦闘の緊張がようやく解けたからか、途端に強い疲労が押し寄せてきた。


* * *


それから二日後。

魔物の復活や新たな被害の報告は一切なかったが、あの山の中腹で立ち昇る水柱は、いまだ止む気配がなかった。


私たちは村の宿舎で休息を取りながら、今後の方針を話し合っていた。


「フェンネル、私はこれからあの水柱の調査に向かう。君はこのまま屋敷に戻って、今度こそ、大人しくしているように。」


ユリウスは相変わらず不機嫌そうだったが、その声色には少しだけ心配が滲んでいた。


「いえ、私もご一緒させてください」


彼の言うことはもっともなのだが、だがしかし私は同意しかねた。先程の一件しかり、このまま、再び彼を一人にしては行けないような気がした。


「_だめだ。これ以上君を危険に晒すわけにはいかない」


「大丈夫です。魔物はもう倒されたはずです。

 それに、私は自分の身くらい守れますから。」


自信満々にそう言うと、ユリウスは黙りこくる。


「……まったく。君という人は本当に聞き分けがない」


しばらくして呆れたようにため息をつきながらも、ユリウスは渋々私の同行を許してくれた。そう言った意味では、彼も私の魔力をそこそこ分かってくれてきているのかもしれない。


* * *


数名の調査兵を伴い、私たちは再び山へと足を踏み入れた。


近づくにつれ、あたりは水しぶきに包まれ、霧が漂うように視界が霞んでいく。報告の通り、水柱の周囲からは魔物の気配も異様な魔力の反応も感じられなかった。


「……なんだか、このあたり、麓よりも暖かくありませんか?」


肌に触れる空気が、妙に柔らかい。私は不思議に思って問いかけた。


「はい、そうなのです」


先導していた兵が頷く。


「その理由は――この先をご覧になればすぐにお分かりになるかと」


そう言って、兵はさらに奥、音を立てて噴き上がる水源の方へと私たちを導いた。


しばらく森を歩いていくと、突然、視界がぱっと開けた。_ついに私たちは、水柱の源にたどり着いた。


轟々と唸る水の音とともに、あたり一面には、水圧により吹き飛ばされた瓦礫が散乱して、周囲の木々も根こそぎ倒れている。


その中央で吹き上がる水柱が、白い水飛沫を周囲に撒き散らしていた。もくもくと、先程の熱気みたいなものが更に強くなってこちらまで押し寄せてくる。


圧巻の光景に私が立ち尽くしていると、ふとユリウスが何かに気づいたように呟いた。


「……これは、温泉なのか。」



そう、水柱の正体は、山の地下深くに眠っていた広大な温泉脈だった。長らく魔物がこの地を根城としていたため、長い間その源は封印されていたのだろう。だが、魔物の討伐と洞窟崩落によって、その封印が解け、地中に溜まっていた熱水が一気に噴き出したようだ。


「温泉・・・?」


私はつぶやいた。自分の生まれた南側の地方には温泉はなかった。だから、その言葉自体に馴染みはない。でも何かの本で読んだことがある。温泉とは地下深くで火山活動などで温められた水源が、地上に噴き出したもので、水源の水質や地下鉱脈などの影響を受けて、さまざまな効能がある。人の怪我や疲労を治すこともあるのだそうだ。


ユリウスは、それを聞いて何かを確信したかのように水源の方まで進み出る。そのまま水源の近くにできた大きな湯溜まりの縁へと立った。


「……この呪いの石と、それを作り出した魔物について調べていたとき、この地に詳しい学者がこう言っていたんだ。

 “魔物は清き水を嫌う。ゆえに、この山にあった神聖な泉を封じ、その上に巣食った”と。」


そしておもむろに首元にかけていた呪いの石を手に取り、ゆっくりと掲げてみせた。掌の石を静かに温泉の中へと沈めた。


「魔物を倒した今、この泉によってこの石の呪いは完全に解かれるはず。」


すると確かに、先程まで石を覆っていた邪悪な気配が消え、まるで穢れが祓われたように、もとの透明な光沢を取り戻した。


私は思わず息を呑んだ。


「石に封じられていた魔力が完全に消えた。

 これで、私の呪いも消え――ようやく解けたようだ。」


ユリウスの顔を見上げれば、彼が纏っていた邪気もすっかり消え去ったようだ。今までの険しい表情が和らいでいた。


「フェンネル、これはすべて君のおかげだ。

 私のせいで、危険な目に遭わせてしまってすまない。

 だが、君がいなければこの呪いは解けなかった。……なんどお礼を言ったらよいか。」


そう言って、彼は私の手をそっと取ってそう言った。

ユリウスが今までにないくらいやさいい笑顔で微笑むので、私は思わず見とれそうになる。



「わ、私は何も……。

 でも……お役に立てて、よかったです……!」



今までにない真剣な眼差しでまっすぐに見つめられ、心臓が跳ね上がる。しどろもどろにそう答えると、ユリウスは静かに笑って、私の頬に触れた。



――その後。


この地は、再び湧き出した温泉によって姿を変えた。

各地から沢山の人が訪れる、有名なリゾート地に変貌したのだ。その評判は北の地域だけでなく、今や王都やその周辺にも広まっている。町は今までになく活気づいて栄えていった_。

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