防御魔法
「ユ、ユリウス様!?」
にわかには信じられない思わず声を上げるが、言っている自分も訳がわからない。しかし、目の前で私を抱き抱えてこちらを見下ろしているのは確かにユリウスであった。
どうして彼がここにいるのか、なぜ私を抱えているのか_。頭がうまく追いつかなくて、まるで夢の中にでもいるようだった。私はユリウスの腕に抱かれたまま、ぼんやりと彼の顔を見上げる。
「全く、君ってやつは。どうしてこうも面倒事ばかりに首を突っ込むんだ」
彼はいつもの、不機嫌そうで切れ長の瞳をこちらに向けている。
「ど、どうしてあなたがここに。」
私が状況を把握できずにいると、ユリウスはため息交じりに続けた。
「君が危険を顧みず、洞窟に入り込んだと聞いて、慌てて追いかけてきたんだ。
全く、なんてことをしてくれたんだ。」
ユリウスはそう言って私をきっと睨みつけるが、
そう言いながらも私を抱えあげてその場に立たせてくれた。
改めて周囲を見渡すと、洞窟内は相変わらずで眼の前では先程の魔物が何度も前足を振り上げ、地を揺らして暴れている。
しかし、魔物の振りかざす攻撃は、いずれも私達に届くことはなかった。私たちの周囲には、まるで目に見えない障壁が張られていてるようで轟音と衝撃は確かに届いているのに、直接こちらを襲うことはなかった。
「ここに防御を張り巡らした。私の能力の一つだ」
ユリウスは淡々と説明した。
(彼には治癒の力だけでなく、防御を展開する力もあるのか――。)
あの巨大な魔物の全力の一撃をものともせず、見えない盾が攻撃を弾き返している。魔物は外側で暴れ、手足をばたつかせ、洞窟に響く地響きを立てているが、その攻撃は悉く防がれていた。
それは彼の魔力がそれほどまでに強大であることを示唆していた。治癒の能力に加えて、ここまで強力な防御魔法を繰り出せるとは_。
私はその光景を前に、自分の置かれていて状況など忘れて自然と感心してしまう。しかし、ユリウスもまたこんな危険な状況にもかかわらず、至って冷静に見えた。
「怪我はないか? とにかく、まずはここから退避しよう?」
ユリウスはそのまま私を抱き抱え、魔物のことなど気にも止めずに、出口の方へと避難しようとする。
「いいえ、だめです。」
私は咄嗟に彼の手を振り払って、そのまま彼の静止を振り切って地面に降り立つ。
「ここで魔物を放っておいたら、洞窟を抜け出して町を襲うかもしれません。そんなことはさせられません。私がここで食い止めなければ。」
私は先ほど、魔物の胴体の奥に見えた紫色に光る塊――あれが核だと直感した。あれを破壊すれば、この化け物は内側から崩れ、二度と動けなくなるかもしれない。
「ユリウス様は先に避難してください。」
私は、もう一度立ち上がって、魔物に狙いを定めた。
私は先ほど、魔物の胴体の奥に見えた紫色に光る塊――あれが核だと直感した。先程は相手の攻撃に対応できずに魔力を見誤ってしまったが、この防壁があれば今度こそやつの核を破壊できるかもしれない。
「だめだ、危険すぎる。
今は戻って体制を立て直すことが先決だ。」
ユリウスは食い下がったが、私は聞き入れなかった。
「大丈夫です、今度は外したりしませんから。」
私には自信があった。さっき攻撃を見誤ったのは、単純に力の加減が上手くいかなかっただけだ。一撃放ってみて感覚が掴めた。
(次は確実に仕留める_。)
もう一度魔物に狙いを定めて、大きく深呼吸して目を閉じてから見開くと、魔物の紫色の核はさっきと同じようにしっかりと輝いて見えた。
「…!」
ユリウスはフェンネルの物々しい様子に、彼女を制止する手を止めて言葉を失った。ただならぬ気配を察知した彼は少し考えたあと、彼女の後方に回って見守ることにした。
自分の能力の限界について、今まで試してみたことはなかったけれど。ここでは限界なんて考えずに一点集中で全力で魔物を破壊しようと心に決めた。私は再度気を引き締めた。
魔物もまた、いよいよ余裕がなくなって来たのだろう、洞窟の中をけたたましく暴れまわる。なりふり構わず手足や尻尾を振り回して、無理やり防壁を破壊しようと躍起になっていった。
ユリウスは、そんな魔物に負けじと魔力を込めて防壁を強化する。彼が私をサポートしてくれるのを感じて、私は心強く思った。
私は自分の持てる最大限の力を振り絞って、破壊の一撃を放った。ぼうっと手の先に力がこもって、フェンネルの魔力が、魔物の核を捉えた。
(ぎゅっとして、 ドッカーン!!)
バゴッ!! バキバキッ!!
けたたましい轟音と、地響きがなって洞窟内に衝撃が走った。魔物は恐ろしい悲鳴を挙げなから突然体制を崩してその場に倒れ込む。あまりの衝撃に、洞窟内自体が崩れて岩岩が天井から降り注いできた。
「フェンネル、危ないっ!」
さすがの防壁も、この洞窟全体を支えることは叶わず、ユリウスは咄嗟に防御を解くと、そばに立っているフェンネルを抱えあげて出口の方へ飛び退いた。




