攻撃士の魔力
自室へと戻ると、フェンネルは早速ユリウスから借りた本を広げて読んでみた。
破壊魔法――その能力者は攻撃士と呼ばれる。
古来において、彼らは魔物の討伐や国境警備などの戦闘要員として重宝されてきた。
アタッカーの能力の主体は“攻撃”であるが、その手法にはいくつかの種類がある。
まず、フェンネルのように外部へ衝撃波を放ち、物理的に破壊するタイプ。
衝撃波以外にも、剣でものを切るときのように、殺陣の一撃を発して対象を切り裂く者もいる。
さらに高度な使い方では、任意の場所に衝撃波を伴う“爆弾”のような魔力を出現させ、それを起動させて破壊する――といった手法も存在する。
能力者の潜在能力や才能によって、これらの威力や扱える種類は異なる。
はるか昔、まだこの国に魔物や大型の魔獣がはびこっていた頃、
アタッカーたちはその能力を駆使して魔物を討伐し、国境を守り、秩序の維持に大いに貢献していた。
しかし中には、その力を誤って使う者もいた。
破壊魔法は強大であるがゆえに、使い方を誤れば危険を伴う。自分の欲のために力を振るい、人を傷つけたり、国に災厄をもたらした者もいたという。
そういった歴史や魔力の性質も相まって、破壊魔力使いたちはしばしば忌避され、迫害される歴史を辿った。それでも、志の高い攻撃士たちの活躍によって、この国の治安は保たれ、彼らの活躍により国の平和が保たれているのだ。
ここまで読み進めて、フェンネルは顔を上げた。
――やはり、私の思っていた通りだった。
破壊魔法使いは、必ずしも危険な存在ではない。父や妹たちが私を忌み嫌ったのは、ただ無知だっただけなのだ。そう思うと、胸の奥に小さな誇りのようなものが灯った。
けれど、この本に書かれているように、破壊魔法は扱いを誤れば危険を伴う。慎重に使いこなさなければならない。
――そもそも、貴族の令嬢でありながら破壊能力に目覚める者など、ほとんどいない。
魔力の多くは血糖により受け継がれている。攻撃師の多くは騎士の家系存在していて、代々の騎士達がその力を継ぐのが普通なのだ。
また、そんな攻撃したちにも弱点がある。
それは、破壊能力者たちは攻撃には優れていても、自分の身を守る術を持たないことだった。攻撃を繰り出す前にやられてしまえば元も子もない。そうした背景から攻撃したちが魔物討伐を行う際には、防御使いや回復など、他の役割を持つ能力者とチームを組んで行動するのが一般的だった。
(……確かに、私のように訓練を積んでいない者が、独りで戦うのは危険ね。)
フェンネルは小さく息をついた。
貴族の娘である自分は、体力にも乏しい。攻撃を放つことはできても、敵からの反撃を防ぐ手段はない。彼の言っていた魔物を討伐するのは一筋縄ではいかないように思えた。
さらに読み進めていくと、破壊魔法の“特殊な応用”についての記述が目に留まった。
破壊魔法は、通常は対象の外側に作用し、外部から破壊をもたらすものがほとんどである。しかし稀に、対象の“内部”に直接干渉し、内側から崩壊を引き起こすことができる者が存在するという。
森羅万象、この世のすべての物質には、その中心に「核」と呼ばれるものがある。そして、この核を破壊されたものは、いかなる物質であっても内部から崩れ落ち、二度と再生することはない。
攻撃士の中には、この“核”を感知できる特異な能力を持つ者がいる。彼らはこの力を駆使し、どれほど硬い鱗を持つ魔獣であっても、どんな強靭な物質であっても、その核を一点突破で破壊することで、完全に沈黙させてしまうのだ。
(……まさに、最強の破壊魔法ね。)
フェンネルは小さく息を呑んだ。
もしこの力を自分が扱うことができたなら、どんな敵でも打ち砕くことができるだろう。ユリウスを苦しめているという“呪いの魔物”も、この力を使うことができれば、討ち滅ぼすことができるかもしれない。
(とはいえ……今の私には、とても及ばない力だわ。)
私は小さくため息を付いた。
自分が持つ力の本質さえ、まだ完全には理解できていない。幼い頃から能力を抑え込まれていたこともあるが、破壊魔法は、所詮攻撃に用いられるものであるため、発動させる機会もほとんどなかったのだ。
有事の際などで敵から身を守ることが求められる時代だったら、もっと活躍できたのかもしれないけれど。幸いにもこの世界の人々は平和を享受して豊かに暮らしている。
(まずは……小さなことから、コツコツ始めてみましょう。)
本に書いてあったように、攻撃魔法にもいくつか種類があることを学んだ。まずはそれらを実際に発動してみて、自分にも扱えるのかを試した見たかった。
治癒や支援の能力者たちのように、人の役に立つ場面は少ないかもしれない。
けれど――破壊の力もまた、正しく使えば誰かを守るための武器になり得るはず。
そう心に決めて、フェンネルは机の上の本をそっと閉じた。




