かーちゃんは勉強しろって言う…
私は馬鹿だ。なかなかの馬鹿だ。私以上の馬鹿を見たことがない。たまにテストで名前を書き忘れるくらいの馬鹿だ。
それでも結構頑張って生きているつもりだ。かーちゃんは勉強しろってよく怒るんだけど、とーちゃんはいつも笑ってる。
「わたしはばかだよな」
なんとなく、思わず口に出た一言。かーちゃんが夜ご飯を作ってくれている時だった。
とーちゃんは「ばかでだれかになんかいわれたのか?」ってビール呑んでにこやかに私に聞いてくる。
「かーちゃんにべんきょうしなさいっていつもおこられるんだ」
「そうか、えりはそういわれてどうおもってるんだ?」とーちゃんは私が何を言っても怒らない。
「べんきょうはきらいだ、むずかしいから」怒られないから私はとーちゃんに素直に言う。
「べんきょうきらいか、むずかしいのかー。いやなことやりたくねえもんなあ」私の話に合わせてとーちゃんは結構大げさに身体を使って表現してくれる。とーちゃんは私の味方だ。だからとーちゃん大好きなんだ。
「なんでいやなことをやりなさいっておこるんだ?かーちゃんわたしがきらいなのか?」
馬鹿だけど私なりに考えてみた。馬鹿だからかーちゃんが怒るのか?勉強しないから怒るのか?答えが出ないからとーちゃんに教えてもらおう、とーちゃんは天才なので馬鹿な私はいつもとーちゃんに助けてもらってる。かーちゃんもご飯作る天才だ。ご飯だけじゃなく家の事はかーちゃんに絶対勝てない。でも私は馬鹿なので実はよくわかっていないんだ。なんとなくそう思ってるだけで。
「かーちゃんはえりのことだいすきだぞ。えりはかーちゃんすきか?」
難しい問題を出されてしまった。かーちゃんは大好きだけど怒ってるかーちゃんは嫌いなんだ。でもどう言えばいいんだろう?とーちゃんは天才だから私の言う事をわかってもらえるはずだ。馬鹿なので言葉を選ぶなんてできないからとーちゃんに任せよう。
「かーちゃんだいすきだけどおこってるかーちゃんはきらいだ」わかってくれとーちゃん。
「だいすきだけどきらい。つまりえりはかーちゃんだいすき、おこってるときはきらいなんだな、べんきょうすればおこられないかもしれないんだけど、えりはべんきょうがきらい…あってるか?」
「うーん…あって、るのか?」難しいからこう答えるので精一杯。
「べんきょうすればかーちゃんはおこらないかもしれないんだけどな?とーちゃんはいやいやべんきょうするいみなんてないとおもうんだ」…もっと難しい話になってきたぞ?私は理解できるんだろうか?
「べんきょうするいみがない…でもべんきょうしないとおこられるぞ?」こういう時とにかくとーちゃんにいっぱい聞くべきなのは馬鹿な私でもわかるからいっぱい聞く。私がいっぱい話すととーちゃんすっごい嬉しそうなんだ。とーちゃんは必ず私が欲しい答えを出してくれる。私が分かるように優しく、私が理解するまで何度でも。かーちゃんとこういう話できないんだよ、怒られそうで怖いから。
「えりはべんきょうってことばがきらいなんだ。とーちゃんもべんきょうはすきじゃないからなあ」
天才のとーちゃんが勉強好きじゃないだって?天才は勉強が好きだと思ってた…
「べんきょうすきじゃないのになんでとーちゃんはてんさいなんだ?」
「べんきょうってことばがすきじゃないだけだぞ、しりたいことをしる、これがべんきょうのいみなんだ」知りたいことを知る?うん、やっぱり難しい話だ。
「とーちゃん、ばかなわたしがわかるおはなしをしてくれ」
「よし。ではたとえばだが、えりはえほんはすきか?」絵本?
「すき…なんでえほんのはなしなんだ?」
「とりあえずきけ、えほんのことはおぼえてるか?」あれ?とーちゃん私を馬鹿扱いしてるか?
「なあとーちゃん、わたしはばかだけどそれはばかにしすぎだぞ」ちょっとムカッと来た。
「おおぅごめんよ、まあさいごまできけ。おぼえているか?くりかえしだけどえりのききたいことのこたえのためにおしえてくれ」
「おぼえてる…かーちゃんもとーちゃんもいっぱいよんでくれたしわたしもひとりでよんだ…」
「じつはそれがべんきょうなんだ、しらないあいだにえりはちゃんとべんきょうしてるんだよ」
勉強してた?絵本読んでもらったり読んでると勉強なのか?あれ?勉強ってなんだ?
「とーちゃん、べんきょうってなんだ?」
「かんたんにいうと、知る、ということだ」
「知る?」
「えりはいまいったとおりえほんをよんだことがあるだろ?そのえほんははじめからしってたものか?」
「きがついたらよんでた…はじめてのえほんもいっぱいあったな…」
「しらないえほんを知ることでしってるえほんにかわった、これを勉強というんだ。こうきくと勉強っておもったほどむずかしくないだろ?勉強ってことばをむずかしくかんがえちゃったんだ。だいじょうぶだぞ、えりはいま勉強っていういやなやつのしょうたいをみつけたんだからな」
…勉強ってすごいな!とーちゃんはもっと凄いな!馬鹿な私に勉強の正体をあばい…暴いたところで勉強は嫌いだな…難しいもんな学校の勉強は…宿題と先生は大嫌いだ。とーちゃんに言ってみるか。
「なあとーちゃん、わたしはやっぱり勉強はきらいだ…がっこうのせんせいとしゅくだいはだいきらいだ…」
「そうだなあ、とーちゃんもがっこうのしゅくだいはいやだったぞ。いやだけどとーちゃんはしゅくだいやったぞ。かーちゃんはとーちゃんよりもやったんじゃねえかな」…とーちゃんも嫌だったのか。かーちゃんも宿題やったのか…天才のとーちゃんよりもやったのか?
「てんさいのとーちゃんよりもしゅくだいやるかーちゃんはだいてんさいなのか?」
「えりのいうてんさいがどんなもんなのかわかんねえけどかーちゃんはとーちゃんよりもあたまいいぞ?あたまいいからえりもできる!っておもってるのかもなあ」かーちゃん勉強も天才だったのか!もしかして天才のとーちゃんと大天才のかーちゃんをもつ私は天才だけど馬鹿だから天才じゃないのか?訳が分からなくなってきたぞ?そんな時はとーちゃんに教えてもらうんだ!
「とーちゃん、てんさいになるほうほうをおしえてくれ!」叫んでしまった。かーちゃんがすごい顔で飛んできた。
「どうしたのえり!?ちょっとおとーさんえりになにいったの!?」かーちゃんがとーちゃんに怒ってる。とーちゃんは悪いこと言ったのか?言ってないと思う。だから私がとーちゃんを守らないと!
「かーちゃん!とーちゃんはわるいこといってない!わたしがばかなのがわるいんだ!」
かーちゃんもとーちゃんもびっくりな顔してる。私がこんな大声出したことないからかも。でも必死だから。
「えり、ありがとうなーとーちゃんかばってくれて、そういうしゅちょうだいじだぞ?とーちゃんはえりがばかであることをいままでいちどでもわるいといったか?」
「もうきゅうにどうしたのよえり?かーちゃんにいえるはなしかしら?」
うまく言葉が出ない。とーちゃん助けて…
「あー、かーちゃん、えりはいまたぶんことばがみつからないんだろう。おれがたすけぶねだすからきいててくれ」
「えりがあんなこえだすのはじめでだわ、たまってたのかしら?」
たまってたって何だろう?かーちゃん難しい言葉をいっぱい知ってる。大天才だからか。
「えり、かーちゃんに勉強しろっていわれたくないんだよな?」とーちゃんが私に言う。
「勉強きらいなんだ…だから勉強しろっていうかーちゃんとしゅくだいとせんせいはきらいだ…」怒られるかもしれないけど、とーちゃんは絶対私を助けてくれるから!
「そっかーかーちゃんがきらいなんじゃなくて勉強しろっていうかーちゃんがきらいなのかぁ、ならむりに勉強させることはよくないわね、そうだ!えり、いやな勉強のほかになにかいやなことはあるかしら?きらいなおかずとかあった?」あれ?怒られないしかーちゃんにっこにこだ!?怒られると思ったのになんで?
「かーちゃんおこらないのか…?」恐る恐る聞いてみた、やっぱり怖いものは怖いんだ。
「きらいなものをしょうじきにいうほうがいまのえりにとってだいじなことだからねえ、えりのほんねがきけてかーちゃんうれしいわよ!」難しい言葉でにっこにこだけどこれは褒められてるのか?
「えり、勉強のしょうたいはわかったよな?しゅくだいとせんせいのはなしをかーちゃんにきいてみるといいんじゃねえかな?」
天才のとーちゃんがそう言うなら大天才のかーちゃんはもっとわかるはず…たぶん。
「せんせいのはなしがむずかしくてわかんないんだ…」正直に言ってみる。
「せんせいのおはなしはどこからどこまでわからない?にほんごではなしてるなーくらいかしら?」
馬鹿にされてるな。さすがにそれくらいはわかる。
「かーちゃんもせんせいとおなじこというのか?」その一言でとーちゃんとかーちゃんの顔つきが変わった。笑ってるんだけど笑ってない。初めて見る顔だ。すごく怖い。これは危ないぞ。今のとーちゃんとかーちゃんはおまわりさんでも止められないんじゃないのか?
「えり、あしたがっこうおやすみしてとーちゃんとおでかけするぞ」へ?学校休んでどこ行くんだ?
「おとーさん、わたしはがっこうではなしきいてくるわ」おそらくかーちゃん一番怒ってる…やっぱりかーちゃんは怖い。もしかしてだといいけど、私に対して怒ってるんじゃないなこれは…
書いてて方向が変わったのでこの先どうなるのか…
できる限り早く続きを書きます。