目覚め #4
人狩り
この姿で生まれて随分と経つが、体験するのは初めてのことだった。
すでにわり切っている部分もあり、ショックは大きくない。
数ヶ月に一回行われる、化け物たちにとっての大きなイベント。
失敗は許されず、目的遂行には時には一ヶ月近く時間を有するときもあった。
先導には幹部クラスが最低2人つき、かける人員数も相当だ。
それは戦闘面ではなく、探索面での過酷さゆえであった。
私たちの住処は基本的に森の奥にあり、人里までかなりの距離がある。
ボスは賢い。
人狩り、なんてことしていたら報復がいつかやってくることを知っている。
住処を都度変えるのもそれが理由だろう。
そんなわけで大きく時間を使うわけだが、当然行動食なんて概念はない。
食料、水は常に現地調達だ。
狩りと違い、そう簡単に見つかりはしないので大量の餓死者が出てくる。
下手すると共食いすら厭わない奴等だ。
この前の人狩りでは100近く動員されていたが、帰ってきたときには20を下回っていた。
道中では戦闘もあり得る。
あるいは、標的である人との戦闘もある。
膂力こそ上回っているだろうが、人の力は自分がよく知っている。
(文明レベルが分からないのが厄介だな・・・仮に銃器があった瞬間勝ち目なんてないが)
とはいえすでに何度も成功している狩りだ。
あっても精々剣や槍だろう。
勝手に作った部下に指示を出しつつ、出立の準備を整えていく。
もちろん現地調達なんて運に任せるつもりはない。
ひそかに蓄えていた保存食を取り出し、手製の革の鞄に詰め込む。
匂いで反応した奴を睨みつけることで黙らせ、部隊を整える。
集まったのは50程度。しかし、これ以上は統率が難しいだろう。
先導するのは幹部。私は後方でついて行く。
ちなみに私は幹部ではない。
幹部入りするためには進化する必要がある。
しかし、力量は十分に認められているだろう。勝手をしても文句を言われることはなかった。
しばらく行進し、休み、再度行進。
日が暮れたら思い思いの形で休みを取る。当然、見張りはいない。
一度、その役目を押し付けてみたが数分で寝ているところを見かけ諦めた。
そこそこ太い木の上に座り、腰を幹に縛り付けると横になる。
こうすれば落ちる心配はないし、他の奴等が犠牲になっている間に逃げることが出来る。
そのまま目を閉じ、夜が明けるのを待った。
更に進んでいく。
あてがあるのかが分からないが、先導する幹部の足取りに迷いはない。
あるいは何も考えていないだけなのかもしれないが。
そこで秘策だ。
この生活の中でチマチマ書き上げていた地図を取り出す。
動物の血で書いたうえ素人の手製のため非常に見辛かったが、無いよりましだ。
その地図によると、どうやら川下に向かっていることが読み取れた。
(それなりに人という種を知っているわけか)
必ずしもいるわけではないが確率は高い。
地図をしまい込み、群れの後ろをのんびりとついて行く。
(お!美味そうな果実発見!)
行進中は暇なもので、私は食料集めに勤しんでいた。
周囲には既にバテ気味の奴もいたが、こちらは走り込みの成果が出ているのだろう。
特段疲れはなく、周囲を気にする余裕もあった。
人の気配はまだしない。
いつになったから帰れるのだろうか。
ぼんやりと考えつつ、果実を頬張る。
果実はとても渋かった。
◇◆◇
行進が始まり数日。
いや、すでに2週間が経つのだろうか。
道中で2度戦闘をした私たちだったが、ここまでで脱落者は0。
むしろ戦闘があったおかげで食料が得られたと言えるだろう。
最初にあった緊張はすでに消えていた。
苛つきも、実はまるでない。
逆にこれまで経験がなかった、旅をしているという感覚が思いのほか楽しいものであった。
同行者がこの化け物たちという不満があるのはさておき。
いつ帰れるか、よりいつまで楽しめるかと考えるようになった頃。
不意に、先頭にいた幹部が手を振り上げる。
待機の合図。
それを確認した私は素早く前の方まで移動する。
(あれは・・・)
街道だ。
雑に開かれ舗装もされていないが、それは明らかな人工物だった。
幹部と視線をかわした私は、街道へ飛び出しジッと地面を観察する。
薄っすらとだが確かにある痕跡。
長い線のようなものは恐らく、車輪の跡。
人がここを通っていることの証明だ。
幹部の元へ戻り、人がここを通ることを伝える。
幹部が後方へ振り返り、ここで待ち伏せすると指示を出す。
次いで私は離れて待機するように指示。
どうせこいつらのことだ。数日後には待ち伏せのことなんて忘れて騒ぎ出すだろう。
人を見つけたら呼び戻せばいい。
そう判断し、私は1人で待つことにする。
幹部は少し離れた場所で待機している。本当に来るのかは賭けだった。
3日経った。
6日経った。
10日経った。
干し肉を噛みちぎり、幹部の方へ向かう。
その顔を見ると明確な苛立ちが含まれていた。
渡した欲し肉を乱暴に受け取り噛みちぎる。それで少し気分が晴れたのか、再び街道の方へ視線を向けた。
部下たちもまたフラストレーションが溜まっていた。
それが噴出しないのは餌があること。あとは私という強者がいるからだろう。
とはいえ限度がある。
(あと5日)
持っている食料も潤沢とは言い難い。
現地調達もやぶさかではないが、不確定要素は出来るなら避けたいところだ。
5日待って見つからなければ移動しよう。そう誓った。
そこから更に3日が経過した。
依然動きはない。
無駄だったか、と落胆の息を吐いたその時だった。
───ガラガラ
遠くの音から何かを引きずるような音が聞こえる。
これは、間違いない。
(車輪の音───ッ!?)
そうでなくとも人工物であることは確定。
すぐさま後方の仲間への方へ向かい、標的が来たことを知らせる。
興奮し、騒めきだす奴等を人睨みで黙らせ、街道沿いの先で待っている幹部にも知らせる。
頷いた幹部は、流石というべきか。
騒ぐことなく合流し、部隊を引き連れて街道沿いで待機を促す。
待つことしばらく。
車輪の音がはっきりと聞こえるようになってきた。
更に少し経ち、人影が見えるようになる。
(馬車だ)
2頭の馬が馬車を引いている。
車じみたものが出てこなくてホッとした。
舗装された道路を見て感じたことでもあるが、恐らくこの世界の人間の技術力はさほど高くはない。
とはいえ未知の技術があっても不思議ではない。
どう攻めるべきか。
そんなことを考えつつ相手を観察する。
馬車の周りを数人の人間が囲んでいた。
人数は全部で9人。
内5人が馬に乗り、小綺麗な鎧に身を包み、腰に剣を刺している。
3人は雇われた傭兵的なものだろうか。同じように馬に乗っているものの格好が明らかに違っていた。
それぞれが武器を手にしており、1人は大剣、1人は長剣、そして残る1人は盾と短めの剣を腰に下げている。
あと1人は弓使いだ。先頭より少し下がったところにおり、常に周囲を警戒している素振りを見せていた。
(さぁて)
元同族を確認した私は己に問いかける。
出来るか?と
答えは、身体に表れていた。
(ハッ───まるで緊張がない)
いつも通りの狩りだ。
ならばやるべきことは変わらない。
大きく息を吐く。
同時に幹部が咆え、化け物たちが一斉に草むらから飛び出す。
戦闘開始だ。
「「「GuuuooOOO!!」」」
「■■!?■■■■■■!!」
「■■■■!!■■■■!!」
突如街道から飛び出してきた化け物たちに、人間の戦士たち、傭兵たちが慌てたように構える。
混乱によるためか。その動きはまるでバラバラだった。
しかし奇襲は正面から行われた。対応は可能。
驚愕の表情を浮かべつつも、その構えはしっかりと様になっているものだった。
「Gyii!!」
1匹の化け物が飛び掛かり、先頭にいた戦士が応える。
馬の上だ。高低差があり、それ以上の追撃は出来ない。
しかし、その一撃はバランスを崩すのに十分なもので、
「■■■■!?」
「HoooUUU!!」
背中に乗っていた者の重心が出鱈目に動いたことを察知した馬が身をよじる。
間髪入れずに飛び掛かる化け物。
先頭にいた戦士が地面に引き倒される。
「■■■!」
しかし、彼等も黙って見ているだけではない。
危機を察した2人が馬から降りて、化け物目掛けて剣を振るう。
だが遅い。ヒラリとかわしてみせた化け物は返す刀で斬りかかる。
「■■■■■!■■■■■■■■!!」
「■■■!!■■■■■■■!!」
振るわれた棍棒は戦士の胴を叩く。鎧で覆われているものの衝撃波伝わるのだろう。
苦悶の表情を浮かべながら、再度剣を振るう。
一撃当てて安堵していた化け物の耳が斬り飛ばされた。
(アホだな)
更に他の人間の戦士や傭兵も戦いに加わる。
強さで言えば傭兵っぽい奴等>騎士っぽい奴等だろう。
中でもブオンと風を唸らせながら振るわれる大剣には確かな脅威が感じ取られた。
化け物たちもそれに敏感に気付いたのだろう。
「Hou!Goak!」
幹部が指示を飛ばす。
すぐさま大剣を振るう男の元へ数匹の化け物を送る。
当然、他を無視することはない。
この短期間で各個体の脅威度を計った幹部は、野性的に、しかし的確に相対する人数を割り振る。
(厄介なのは大剣使いと盾使いか。大剣の破壊力は凄まじいがかわせるだけの余裕はありそうだ。
対して盾使いは削れていない。体力負けしそうだな・・・)
盾使いを相手している化け物は5匹。
思い思いにそれぞれが武器を振るっているものの、盾使いは巧みな動きで攻撃をさばいており、時折反撃までしている。
すでに5匹とも浅からぬ傷がつけられており、直に死ぬことは明白だ。
何より、
「■■■■!■■■■!!」
ヒュン、と音が鳴り、戦場の中を一筋の矢が走る。
放たれたそれは真っ直ぐに化け物の脳天へと突き刺さった。
刺された化け物はビクンと身体を揺らし、勢いよく倒れ込む。
さらに別の場面では、戦士が化け物の首を切り飛ばす。
くるくると回りながら戦場を舞う首を見て、敵が湧く。
───頃合いだろう。
のそり
そんな擬音が付きそうなほど緩慢に立ち上がり、無造作に戦場へ近づいていく。
気付かない。気付かれない。
───殺気はない
武器はない。
極限まで手首から先に力を籠め、まるで剣のような鋭さを得た手刀を横一文字に薙ぐ。
完璧な不意打ち。
意識の外からの攻撃をかわせる術はない。
弓使いの頭部が宙を舞い、血しぶきを上げながら胴体が倒れる。
戦士と傭兵たちの動きが一瞬止まった。
たかが一瞬。されど一瞬。
動揺が起きたのは瞬きの間すらない時間。
形勢をひっくり返すには、余りある時間であった。
化け物が手斧を振るう。
石で出来たそれは頑強さだけが取り柄だったが、その頑強さ故鉄と打ち合っても強い。
鈍い音を響かせ、戦士の腕を砕く。
「~~~~ッ!?」
痛みに苦悶の声をあげ、滅茶苦茶に剣を振るう。
しかしそれでは当たらない。
ニタリと笑った化け物は剣をかわす。その真横を別の化け物が通り抜け、手にした石を戦士の顔面に叩き付ける。
バガンと割れたような音。砕けた歯が宙を舞い、戦士の身体が地面に倒れる。
容赦などない。
戦士の身体に馬乗りになった化け物は手にした石を振り下ろす。
何度も。何度も。
もう1匹。さらに1匹と加わり、攻撃する手を休めない。
やがて完全に潰したのだろう。
肩で息をしながら立ち上がった彼らは次の標的へ視線を移す。
この間、1人の戦士がやたら叫んでいたが、恐らく仲の良い同僚なのだろう。
だが無情かな。その彼も目の前の相手で手いっぱいで助けに行くことが出来なかった。
涙を流し、激情のまま剣を振るう。
しかし、知能は無くとも化け物の身体能力は高い。
振るわれる剣をかわし、代わりとばかりに手にした棍棒を戦士の拳に叩き込んだ。
拳の骨が砕けた痛みと伝わる衝撃で戦士は剣を取りこぼす。
慌てた表情を浮かべる戦士に、追撃の拳が飛んできた。
腹に吸い込まれるように放たれた一撃は戦士の身体をくの字に折り曲げる。後の結末は、もはや語るまでもないだろう。
次第に数を減らしていく人間側に焦りが見られる。
すると大剣使いが何かを叫ぶ。反応した傭兵組が下がり、戦士たちもつられて大剣使いから離れる。
好機と見た化け物たちが一斉に大剣使いへ飛び掛かる。
「■■■■■」
長く息を吐いた大剣使いが何かを呟く。そして勢いよく大剣を振るった。
「───ッ!?」
振るわれた一撃は先程とは比べ物にならない程の一撃だった。
瞬きの間に4体の化け物が屠られる。
倒れ込む死体の向こう側で傭兵が怒鳴り声をあげた。
(なんだ、あれは───)
跳ね上がった攻撃力。
突如大剣使いがムキムキになったとかではない。見た目に変化はなかった。
いや、
(白いモヤ?)
大剣使いの身体から蒸気のように立ち昇る白い煙。
火を使った素振りはなかった。では一体何か。
(考えられるのはこの世界特有の”力”。某漫画風に言うんだったら念能力とか気みたいなやつか?)
国民的漫画にあった似たような力が思いつく。
正体は不明だが、急激に力が増したのは確かだ。
ただでさえ脅威であった大剣使いが、更に脅威となった。
それだけだったらまだ救いだったか。
「───ッ!?」
見れば他の傭兵どもからも白いモヤが立ち昇っていた。
彼等は戦士の方に向かって下がるように仕草を取る。
構えた長剣使いが、付近にいた化け物に向けて剣を振るった。
これもまた先ほどまでとは比べ物にならない程速い一撃。
かわすことは叶わず、化け物の胴が2つに分かたれる。
「■■■■■!■■■■■■■■!」
「■■■■■■■■!■■■■■■■■■■■!」
(チッ───何言ってるのか分からねぇ)
相手の策が分かれば対処しやすいんだが。
そう思いつつ私も構える。構えざるを得ない。
長剣使いが更に1匹の化け物を切り伏せ、こちらに向かって駆けてきた。
(上等だ)
「Hooo───」
「ォオオオオオオオ!!」
それはハッキリと聞こえた。
雄叫びはどの世界でも共通なんだな、と。あまりにも場違いな感想を抱く。
振るわれる剣先。ぼんやりとした思考の中それを目で追い、
「───ッ!?」
手にした石斧の最小限の動きで弾く。
私にとってみれば軽く弾いただけなのだが、人にとってはそうではなかったのだろう。
驚愕に目を見開き、体勢を崩す。
(生憎───)
慈悲を与える意味もない。
バランスを崩した長剣使いに向けて石斧を振り下ろす。
咄嗟に投げ出された腕を引き千切り、勢いを殺すことなくそのまま胴へ。
着ていた革鎧ごと肩口から腹にかけて引き裂く。
───初めての殺人であったが、心が揺れることはなかった。
視界の端で盾使いがこちらに向けて手をかざしていた。
何だ?と思いそちらを向くと、
「■■■■■■■■!」
「───ッ!?」
突如現れた火の球がこちらへ向かって走ってくる。
(魔法かよ!?)
火の玉は拳ほどの大きさ。
迎え撃つか。いや、リスクが大きい。
そう判断した私は咄嗟に身体を捻る。
業、と唸る音がすぐそばを駆け抜けていく。
後方で爆音が響く。
それを見て内心で舌打ちした。
(まともに喰らうのは不味いな・・・だが)
ここまで温存してきた理由。
火の玉の一撃を見て、大剣使いが怒号を発した。私や他の化け物ではなく、盾使いに向かって。
その光景を見て合点がいった。
(あぁ───)
そういやそうだったな。
駆け出す私を見て、盾使いや大剣使いが血相を変える。それは戦士も同様だった。
攻撃の手が激しくなり、呼応するように化け物の攻めも苛烈になる。
その全てを無視して私は走り、やがて
(原因は、コレだろ?)
近くで見ると立派な馬車であることが分かる。
引いていた馬はすでにいない。滅茶苦茶に暴れ回った形跡があり、つなぎとめていた部分は破壊されていた。
その際に前輪も壊れたのか、僅かに前傾している馬車。
その扉に手をかけ、勢いよく開く。
「イヤァアアアア!!」
「───ッ!?」
その時、裂帛の声と共に1つの影が馬車から飛び出す。
勢いのまま手にした小型の剣を私の腹部に突き立てる。
咄嗟に反応できなかった私はその一撃を甘んじて受け入れるほかなかった。
ドン、と身体に伝わる鈍い音。
相手は綺麗な服を来た人間だった。男装こそしていたが、体つきからして女性だろう。執事とかいうやつだろうか。
冷や汗を流しながらも彼女は馬車の奥へ手を差し伸ばす。その手を取って現れたのは、まさしくお嬢様といった風貌の少女だった。
手をつないだ執事が安堵したような表情を浮かべ、馬車から出ようと私の身体を押す。
しかし動かない。疑念の表情を浮かべながら再度私の身体を押そうとし、
「───ッ!?」
手を掴み上げられ、声にならない叫びをあげる。
確かに刺したはず。表情がありありと語っていた。
だが、残念ながらその非力さでは私の筋肉を貫くには至らない。
刺さっていたと思い込んでいた短剣は私の身体の皮を突くだけに留まっており、地面に転がっていた。
キッと表情を変え、空いている拳で私を殴りつけてくる。
その胆力は大したものだろう。元人間であった部分の私が感嘆の声をあげる。
なんて、
(元人間・・・ハッ。人間としての感情があるんだったら、こんなことに参加しないだろう)
尚も殴りつけ、蹴ってくる執事。その後ろで涙を流しながら執事の服を掴む少女。
周囲の戦士たちも一層張り上げる声を大きくする。
だが覆らない。気合だけでは戦闘力差は変わらない。
傭兵たちの表情にも焦りが浮かんでいる。
最初こそ勢いのある攻めであったが、それも徐々に衰えていた。
はじめは濃く見えていた白いモヤも、薄くなっている。時間制限ありきの力なのだろうか。
さて、と執事の方へ向き直る。
必死の形相を浮かべ、放せとばかりに殴りかかってくる。
その懸命さを見て、私は、
───はぁ、と息を吐いた。
握っていた執事の手を無理矢理こじあける。
全力で握っていても化け物の膂力の前では無駄だ。開かれた手のひらにある指を1本掴み、
ペキン、と
小枝を折るように、本来曲がるはずのない方向へ向ける。
耳をつんざく絶叫。
何事かと振り向いた先生の頭部を化け物の手斧が砕いた。
執事はあまりの痛みに口をパクパクと開閉させる。
突如上がった悲鳴に少女はしりもちをついていた。
その表情は恐怖で塗りつぶされているのが明らかで、もはや逃げることは考えていないだろう。
念のため、と別の指を掴む。
何をされるのか理解した執事は我に返り、抵抗を激しくする。
(すまんな)
言葉だけだ。
再度指を、今度は横に曲げる。
乾いた音が鳴り、二度目の絶叫が戦場内に響き渡った。




