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死闘 #5

 

 初手はこちらから。

 2番の連続技。

 地を這うような姿勢からの横なぎ。ドラゴンの動きは見た目相応でそこまで俊敏ではなかった。

 しかし硬い。想像とは違う手応えに小さく舌打ちをする。

 勢いのまま前転し、身体をひねりながら踵で相手のすねを叩く。


「───ッ!?」


 効いてはいないのだろう。ドラゴンはこちらをチラリと一瞥するだけで、苦悶の表情は浮かべていなかった。

 巨躯が動く。

 身体をひねる。それだけで風が唸り、鱗一つ一つがこちらを削るきる凶器と化す。

 更に拳による追い打ちの一撃。振り下ろされたそれは、かわすには十分な速度。

 しかし、


「Gu───」


 破壊の一撃は大地を容易く割る。砕かれ、放射状に広がって飛来する礫はそれだけで脅威となる。

 身体を丸め、被害を最小限に。腕や足はわずかに斬られたが、戦闘に支障はない。

 すぐさま再生を始めた傷を無視し、前へ。


(6番!7番!)


 縦横に滑らす斬撃を伸びた腕に。浅く切り付けられた皮膚からはわずかな出血もない。

 しかし、一瞬だけ動きに鈍さが混じる。

 そこに肩からのタックル。持ち上がった腕に斜め下からの切り上げ。


「OOOHHH!!!」


 裂帛の気合とともに、勢いよく剣を振り下ろす。ここで初めて肉を断った感触が手に伝わってきた。

 安堵する間もなく、その場から離脱する。直後、巨大な影がその場を通り抜けていった。

 身体を回転させた、巨大な尾による薙ぎ払い。喰らえば一瞬でミンチにされるだろうなと内心で冷や汗をかく。


 直後、巨大な牙が迫る。

 速く───はない。しかし、これだけの巨体だ。まるで瞬時に距離を詰められたように感じる。

 距離感を誤れば即、死につながる。


(17───番ッ!)


 身体を傾け、返す刀で切りつける。体を逃がしながらも、その威力は十分。

 迫るドラゴンの頬を切り裂き、血を噴きださせる。


 3つの目と視線が交差する。

 その瞳に、こちらを問う色はない。挑まれる理由なき戦いであっても、だ。

 知らず口角が持ち上がる。これまで幾度となく挑まれてきたであろう強者の自負。

 上等だと奥歯を噛み締め、足を踏み鳴らす。


(5番!6番!11番!)


 息継ぐ間もない3種の動き。幾重にも走る斬撃に、ドラゴンがたまらずといった様子で咆哮をあげる。

 しかし最後の一撃で誤算があった。

 背中側にある鱗。その一つに当たった瞬間。


「───ッ!?」


 およそ生物とは思えない硬質な手応え。

 鉄、ではない。ゴムに近いような感覚。

 しかし、到底切れるものとは思えない。


(上段からの振り下ろしは注意が必要か!

 ───ッ!?)


 硬直した一瞬の隙に差し込まれる即死級の一撃。それを咄嗟に伸びた腕で迎え撃つ。

 接触した瞬間、破裂したように砕ける腕。しかし、逃げるだけの準備を整える時間は与えられた。

 首だけは死守せんと大きく横へ。体を相手の攻撃にぶつけ大きく吹き飛ばされることで離脱を完了させる。


 抉られた肩から吹き出る血を、もう片方の手で抑えつつ様子を窺う。

 ダメージ量はさほどないだろう。少しの衰えを見せない殺気を瞳に乗せ、こちらを睨んでくる。

 突っ込んで来ないのは何かを予感しているからだろうか。


(当たりだぜ、その直感は)


 意識は背後へ。このポイント。ここに誘い込むことが出来れば・・・

 思考は一瞬。再生途中の腕をそのままへ、再び前へ。


(速度は足りてる。ここからは───威力重視だ)


 8番と16番。

 知る中で最も威力が出る組み合わせだ。

 豪と振るった剣が唸り声を響かせる。


 鈍い音を立て、ドラゴンの皮膚が切り裂かれる。

 それに怯むことなく振るわれる剛爪。離脱し損ねた足が捉えられ、腿下が抉られる。


(支障は、ない)


 一瞬だけ傷跡を確認し、更に前へ。

 2度、3度と絶えず振るう剣。刻む傷跡が増えていく。


 ドラゴンにはこちらと同じような異常な再生力はない。

 攻撃全てが芯にまで届いていないものの、着実にダメージは蓄積しているはず。

 それまでにこちらが致命傷を負うことなく押し切れるか。

 そして最大の問題は───


(体力切れ───まだ余力はあるが、いつまでもつか・・・)


 息が上がる感覚はまだない。

 しかしこれだけの運動量。それに加え一撃でも喰らえばアウトという緊張感。

 内心で流れる冷や汗を拭い、眼前の敵を注意深く観察する。


(的は大きい。振るえば当たる。しかし致命傷には遠い)


 欲しいのはクリティカルな一撃。

 心臓か。あるいは脳か。

 攻撃の手を止めることなく思考する。


 最後の一撃は既に決めてあった。


(あとはどう当てるかだが・・・)


 薙ぎ払われた尾を上空へ跳ぶことで回避。

 落下の勢いをそのまま拳に乗せる。

 脳天へ直撃。堅い衝撃とともに、拳が砕ける感覚が伝わる。


「───ッ!」


 着地と同時に型へ移行。繰り出す連撃が、ドラゴンへ更に傷を負わせる。

 それでも巨体は止まらない。雄叫びを上げ、その巨体でこちらを轢き潰さんと迫る。

 舌打ちと同時にその場から離脱。地を砕くほどの勢いだったが僅かに遅く、残った足が砕かれ、衝撃で身体が錐もみしながら宙を舞う。


「Ga───go───」


 衝撃とともに大地を転がる。

 痛みには鈍い身体だ。すぐさま立ち上がり、ドラゴンへと向かい合う。

 敵は───すぐそこまで迫っていた。


「~~~ッ!?」


 開かれた口。並んだ巨大で鋭利な牙。

 噛み砕かれれば終わる。判断は一瞬だった。

 跳躍し、牙の一本へ足の裏を合わせる。

 その勢いで大きく身体をたわませ、最大限の威力で身体を思い切り伸ばす。

 斜め下方向へ跳躍したような格好になった私は、その勢いで地面に激突し、転がりながら身体が削られる。

 しかし、後方で鈍い音とともに閉じられた顎を見れば、その判断が正しかったことが分かるだろう。


 口に入った土を吐き出し立ち上がる。と同時に駆ける。

 獲物を仕留め損ねたその姿は、まさに隙だらけであった。


「Shi───ッ!」


 一閃。

 真横に振り抜かれた剣はドラゴンの鼻先を容易に切り裂く。

 血しぶきが舞う。


 それでも、だ。


(嘘だろ───)


 動物であれば、顔面に傷を負えば本能的に怯むはず。

 なのに目の前のドラゴンにはその様子が微塵も感じられない。

 再度視線が交差する。読み取れるのは確かな殺意のみ。

 怒りではない。敵を潰さんとする、純然たる殺意だ。


「GOOOOOOOO!!!」


 至近距離で放たれた咆哮は物理的な圧力を孕ませ、私の体を叩く。

 吹き飛ばされまいと姿勢を低くした刹那、巨躯が駆け出す。

 四肢を唸らせ、牙をむきだす。負けじと咆哮し、私も剣を構えた。


 歯を食いしばり本能からくる恐怖を消す。

 振り下ろされる拳をかわし、さらに迫ってくる1つ1つが巨木を思わせる四肢を縫うようにステップ。そのうちの1つへ肩から思い切りぶつかる。

 バランスを崩すことは出来ない。しかし予想外の一撃だったのか、ドラゴンの進行がわずかに止まる。


「Shi───ッ!」


 短く息を吐く。

 14番から16番への連撃。血しぶきが舞う。


「Ooooooo───」


 ブワリと。

 巨大な脚が宙へ。それだけで突風が吹き荒れ、動きを制限される。

 直後。巨大な地響きが鳴り、大地が文字通り割れていく。


 間一髪直撃は逃れたものの、その衝撃波からは逃れることは出来なかった。

 吹き荒れる礫が肉体を抉り、その勢いのまま身体が遠くへ吹き飛ばされる。


 時間にしておよそ10秒ほど宙を舞った身体はそのまま地面に叩きつけられる。

 想像以上の衝撃に視界がぐらついた。まだだを歯を鳴らし、顔を上げる。


 超然とした佇まいだった。

 漆黒の肌は陽光を浴び、輝きを宿したまま。傷を微塵も感じさせない。

 視線は確かにこちらを捉えている。まだ出来るだろう?とどこか挑戦的な光を宿しているように、ドラゴンはこちらを睨みつけていた。


「GYYYAAAAAAA!!!」


「OoooOOOOOO!!!」


 両者が猛りのまま咆える。

 地面が爆ぜ、同時に私の身体は前へ。迎え撃つドラゴンは大きく体を捻る。

 振りかぶられた巨大な拳は狙いなど無いように───否、狙う必要がなく、前へ突き出される。

 当たれば即死。当たらなくとも、その衝撃だけで身体は引き裂かれるだろう。

 ならば、


「───ッ!」


 跳躍。拳の軌道に乗るように足を前へ。

 慣性のまま動く拳を、まるで道のように駆けていく。

 ドラゴンの瞳に、僅かに驚愕の色が宿った───気がした。


「GAAAAAA!!」


 握っていた剣を突き出す。

 ゾブリと鈍い手応え。狙いは外れることなく、突き出した剣先はドラゴンの瞳を抉る。


「AAAAAAAA!?!?!?」


 流石にダメージがあったのか。ドラゴンは巨体を大きく震わせ、身体をのけぞらせる。

 剣を奪われまいと突き刺した剣を素早く抜き、着地へ。間髪入れず駆け出し、更に空いた腹に一閃。

 確かな手応え。これまでの比ではない鮮血が舞う。


 これならば、と顔を上げたその先。

 ドラゴンの視線とこちらの視線が交差する。

 明確な敵意。そして敬意。

 ドラゴンから感じたのはその2つ。


 戸惑いは一瞬。直後には驚愕、そして焦燥。

 気付けばドラゴンの口元で怪しげな光が集まっていた。


(んな───!?)


 なりふり構わず後方へ振り返る。

 持てる力を脚力へ。今は離脱を最優先に。

 地を蹴るその刹那、ドラゴンが大きく口を開く。


(耐え───)


 閃光が私の身体を包み込んだ。


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