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死闘 #2

 

 次の標的はあのデカブツ。

 あの、といったが正体は分からない。

 ただとにかくデカい。そして翼をもつ生き物だというのは分かる。


(思い当たる存在はいるが・・・)


 それはかつての世界でドラゴンと呼ばれた存在。

 架空でしか存在しないものだったが・・・この世界でいてもおかしくはない。

 とはいえ、その姿は自分が知るものとは違うだろうが。


(とりあえず仮称はドラゴンとして・・・問題はどう挑むかだな)


 影だけで分かるほどの巨体だ。正直攻撃が通る自信が全くない。

 鈍足であることも・・・期待は出来ないだろう。さきほどの木登りも、一瞬とまでは言わないがかなりの速度であった。

 それでも距離は随分と離れていた。地上での速度はともかく、空では間違いなく追いつけまい。


(というより飛ばれたら何も出来ないな)


 となると飛ぶ前に仕留める。

 あるいは相手がこちらに攻撃を加えようと降りてきたところと叩く。

 考えるほど無謀さが際立ってきた。


(仮に空の問題が解決したとして、最大の問題は攻撃が効くかどうかだ)


 アリが人を殺せないように、体の大きさの差というのはそれだけで大きなアドバンテージになる。得意なフィールドに持ってこれるならともかく、そんなものはない。


(このまま肉体強化をしてもしょうがない、か・・・)


 強者を食うと沸き立つ感覚。

 レベルアップと名付けたその現象も、最近では頻度も、上昇幅も落ちてきた気がする。

 無論あくまでも感覚的なものであり、数値にすると変わるかもしれない。


(さきの戦いでも実感したが、私の体は決して丈夫というわけではない)


 狼の攻撃で簡単に皮膚は千切れ、正面からかち合えば拳は簡単に砕けた。

 ボスはというと、思い返すにあの少女以外は傷つけることは出来ないのではないだろうか。


(あの不思議な力があればな)


 いや、恐らくは持っているのだろう。

 ただ使い方が分からないというだけで、はっきりとはしないもののそういった不思議な力が自分の中にもあるのは感じられる。

 ボスもそうだったのだろう。あの破壊力も単純な肉体の性能故ではないと今なら分かる。


(人間たちは自在に使えていた。ずっと前に襲い掛かった人間も。襲い掛かってきた人間たちも。程度の差はあれ、全員が使っていた)


 もしかしするとあの狼も使ってたのかもしれない。

 全員が使えるが、100%を引き出すためには特殊な何かが必要。

 そう考えると納得がいく。


(となると使えるように訓練する、っていうのは無駄だろうな。人間に聞けるなら話は早いが・・・出会った瞬間戦闘だろうな)


 髪の無い頭を掻きながら、次の手を考える。


(不思議パワーに頼るのは却下。なら筋トレとか素振りか・・・?

 いや、今までと何も変わらないし正解とは思えない。となると───)


 1つ、考えが浮かんだ。







 ◇◆◇







 武術の鍛錬などしたことがない。

 あっても学校の授業で習った程度。

 本格的な突きや蹴りなどはしたことがない。


 体格の差を埋めるには技術があればいける。

 そんな話を聞いたことがある。

 さて、その差というのがどれほどのものを指すかは分からないが、流石にアリが武術を極めても象に勝てることはないだろう。

 それでも万が一、億が一ということもある。


 しかし、重ねて言うがやったことがない。

 見よう見まねでも、ということもあるがそもそも見たことがない。

 いや、正確には一回だけ。


(思い起こすのはあの動き)


 鮮烈に、鮮明に覚えている動き。

 あらゆる攻撃を流し、相手を捉える動き。


(手の動き、足の動きだけじゃない)


 頭のてっぺんからつま先まで。

 ボスを圧倒し、最後に立っていたあの姿を。

 息遣いすら模倣してみせると。

 あの日見た一連の動きを完璧に再現してみせる。


 イメージトレーニングと呼ばれるもの。

 仮想敵はなく、あくまでも動きを再現して見せるだけにすぎない。

 武術の心得がない自分が見つけた解の1つ。

 食事を手に入れるための狩り。そして基礎的なトレーニングの後、これを取り入れることにした。


 剣はない。代わりに腕を剣に見立てる。

 脳と身体を酷使し、再現に没頭する。

 この身体にはそういった戦闘面に関しての才能があったのか、脳が作り出した画は現実のものと寸分たがわない動きを見せていた。


 そこまでの速度はない。

 慣れていない動きだ。しばらくは苦労するが問題ないだろう。

 必要なのは技術だけ、そんな考えの下始めたことだった。


 誤りであったと気付くには少しの時間もかからなかった。

 一振り二振り程度であればついていける。

 しかしそれだけ。

 続く三手目は、最早ギリギリだった。


(ッ!?)


 必死に脳が作り出す虚影についていく。

 徐々に、徐々にずれが大きくなっていく。


 気付けば全身から汗が吹き出し、久しく感じていなかった疲労感が襲ってくる。


「───u」


 声が意図せず漏れる。

 一連の動きが終わると同時に私はその場で膝をついた。


(どうなっている───ッ)


 荒い息を吐きながら心中で声をあげる。

 この鍛錬を始めてすでに1週間が過ぎていた。

 当初あった計画は既に崩れており、ドラゴンに挑むどころの話ではない。


 最終とする標的。その動きに、たかが一回の戦闘で見せた動きにすらついていけていないという事実。

 悔しさは怒りに、やがて焦りに。

 短く息を吐いた私は再度立ち上がり、一連の動きをなぞる。


(ク───ッ)


 振るう。

 1つ目の動きが終わる。

 足を、手を。

 持てる力の全てを使って、虚影を追いかける。


(なぜ───ッ!?)


 またもズレが生じる。

 思考はなく、ただただ追いかけることに夢中になる。

 やがて力がつきた私は地面に身体を放り投げるように横たわった。


(動きは完璧に覚えた。最小の動きで追えているはず。

 速度も問題ない・・・はずだ)


 息を整えながら原因を探る。


(無駄な力みがある、んだろうな)


 動作の起こりを限りなく0にする。

 武術は知らなくとも、それぐらいは予想できる。

 予想は出来るが・・・


(すでに試してはいる。それでも届かないってことは、まだあるんだろうな)


 剣を振るう。足を運ぶ。

 恐らくはそれだけではないのだろう。

 動きにあるあらゆる無駄を省く。

 求められている力は、きっとそれなのだろう。


(って。考えるのは簡単なんだが)


 正直、自分が思う無駄な動きはすべて排除した。

 まだあると言われてもさっぱり思いつかなかった。


(あー・・・いや。5手目から6手目の足の向きとか。あとは9手目の手首の動きとか変えられそうだな・・・明日試すか)


 そんな考えを浮かべながら瞼を閉じる。

 最近ではこの反省会をしながら寝るのが日課になってきた。

 疲労を感じた身体はすぐに眠気に誘われる。


 この辺りで自分に挑んでくる獣はいない。

 安心を感じながら、ゆっくりと意識を闇の中へ溶かしていった。








 ◇◆◇







 更に1週間が経った。

 依然として動きに完全について行くことは出来ていない。

 それでも確かな成長を感じていた。


 そしてその成果はイメージトレーニングの中にだけではなく、実戦の場でも活かされていた。


(速くなっている・・・?)


 いや、違う。


(上手くなっているのか。体の使い方が)


 その事実を噛み締める。

 間違いなく強くなっている。そう感じさせるには十分な成果だった。

 とはいえ、


(それでも勝てる気がしねぇ・・・)


 ドラゴンにもあの少女にも。

 ドラゴンは、そもそも攻撃が通るかも怪しい。

 対策としてこんな練習を始めたわけだが・・・正直効果があるかと思うと


(いや!気にしないことにしよう。

 少なくとも、人間相手なら通用する・・・はず)


 あの少女は人間としてカウントしてないことにしよう。


 狩った獲物を貪り、いつもの鍛錬に戻る。

 これまで唸りを上げていた風は止み、代わりに風を切る音が増す。


(2手・・・3手・・・)


 まだだ。


(5手・・・6手・・・)


 ほんのわずかなズレ。

 しかし最早焦ることはない。


(10手・・・11手・・・)


 投影に没頭する。


 最近になって動作1つ1つを細かく見るのではなく、1連の動きを20手に切り分けて真似することを覚えた。

 やがて20手を終えた私は、息を整えながら先の動きの反省をする。

 そして模倣を繰り返す。

 倒れるまで繰り返す。


(しかしまぁ・・・)


 満天の星空が落とす僅かな明かりが森を照らす。

 浮かぶ月は淡い蒼を放っており、異世界感を高めてくれた。


(やればやるほど、やつの()()()が分かる)


 そこまでの速度を見せることなく、最低限の動きのみで敵の攻撃をかわす。

 繰り出す攻撃は最小限の力で、しかし的確に、最大限の効果を発揮する。

 繰り返すが、この1連の動きは戦いの中の一幕でしかない。

 何より彼女はこの動きをこともなく、息を切らすことすらなくやってみせる。


 戦いの場であの動きをするのは常なのだろう。

 歴然たる差を感じ、苦笑いを浮かべる。


(ま、それでもリベンジするんだが)


 逆恨みも良いところだろうが、単純に負けっぱなしは気に食わない。

 元来の性格がそうであったかはとうに記憶にないが、今の私はそう感じている。

 獣としての自分は・・・相手がメスであるという事から察せるだろう。


(そういえば最近はあの獣欲を感じなくなったな・・・性欲はあるが)


 視界を塗りつぶすほどの強烈な性欲───私は獣欲と言っているが───はここ最近は鳴りを潜めていた。

 理由は不明ではあるが有難いと感じる。


(アレは・・・多分メスなら何でも良いんだろうからな)


 この生物的には問題はないのだろうが・・・元人間としては避けたいところだ。

 いや生肉や草の根を食べている時点で今更かもしれないが。


 そんな下らないことを考えていると、気付けば瞼が閉じている。

 そのまま私は静かに意識を閉じていった。




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