(8)
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声をかけてきたのはアルフォンスだった。
「って、えええ?! アルフォンス王子ーー」
「しっ、黙って!」
言いかけた言葉をアルフォンス王子の手のひらで塞がれてしまう。
「今日はお忍びで来ているんだ」
見れば王子は、昨日見たのとは全然違う、庶民のような服を着ていた。
(で、でも髪も明らかにさらさらだしそれに、それに!!!)
頭がぐるぐるして何も言えない。
「は、ハンス……っ」
助けを求めて後ろにいるはずのハンスを振り返ると。
なぜか、ハンスは忽然と姿を消していた。
「は、ハンス?!」
「君はずっと1人だったけど?」
「え……え?!」
アルフォンス王子の言葉に声を上げてしまう。
(ど、どういうこと……?)
「それより、君もこういう服が好きなんだね」
王子が指さしたのは、ぬいぐるみ用のキラキラしたドレス。
「うーん……なるほど……」
アルフォンス王子はなにかを考え込むと。
「よし、いこう!」
「え、ええええ!!!??」
私の手をひいて走り出した!
***
「シンシア、どれがいい?」
王子が連れてきたのはすごく高そうな洋服屋だった……!
普段ぬいぐるみに着せているような洋服がところせましと並んでいる。
ううん、私たちが作るようなものよりももっともっと高そうな……!
「ずっと思ってたんだけど、シンシアにはこの、水色のドレスが似合うと思うんだけど」
「あ、あああの……」
ドレスはキラキラと光る生地でできていて、繊細な刺繍が施されている。
(こんなの、治療に来る貴族たちだって着てるのを見たことがない……!)
「こっちのピンクも捨てがたいな。
どう思う?」
「あ、あのあのあの……!」
「これと同じタイプでブルーのものはありますか?」
王子に見とれていたらしい妙齢の女性店員が、話しかけられた瞬間はっとした。
「た、ただいま……!」
去っていく店員を見ずに、アルフォンス王子はまた服選びに戻ってしまう。
ちらっと服の値段を見ると、そこには私の月収の2倍くらいの値段がかかれていた……!
「こ、こんな服買えません!」
「え? 大丈夫だよ、僕が買ってあげる。」
「で、でででもそれは国民の税金では??」
ダラダラダラと汗が背中を伝う。
このご時世、贅沢なんかしてたら大変なことになる……!
しかしアルフォンス王子はにっこりと笑った。
「え? 違うよ。僕は貿易を営んでてね。それが最近すごく儲けているんだ。だから心配しないで」
(なんてしっかりしてる王子様……じゃなくて!!)
「そ、それでももらえません……!
それにどこに着ていけばいいか……」
「いいんだ。君が望むことをしてあげたいんだよ」
王子はそういうと、にっこりと微笑んだ。
(ず、ずるい……この笑顔を見せられて落ちない女はいない……)
(で、でもアルフォンス王子からの求婚はなんとしても断らないと……)
(王子は、婚約者がいながら他の女に手を出すような女なんだから……!)
「で、でもこんな高価なものもらえません!」
「そうか……じゃあ、このあとの時間をくれない? そのお礼として受け取るって言うのはどう?」