(7)
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ピンクのフリフリレース。
豪華なドレープ。
ベルベットの滑らかな生地。
ちっちゃなボンネット帽子。
ピカピカのエナメルの靴。
貴族の女の子が身につけているそれらのお洋服は、とんでもなく可愛く見えたけれど、私にとっては無縁の世界の話だった。
羨ましいけど、家ではそんなの着れないし。
そもそも、一般家庭だったうちではそんなものを着たいなんて頼める環境ではなかった。
だいたい、家の事だって手伝わなくてはいけなかったし。
だけど、大人になって、小さなぬいぐるみにそういうお洋服を着せている人達の話を聞いた。
真似して始めてみたら、自分の好きな素材を好きなように作れるのは、とっても楽しくて。
わたしはぬいぐるみのお洋服作りに没入していった。
……行商や、村のお祭りでみれるような可愛いお洋服を作るセンスはあまりないけれど。
今は、生地屋に行ってどんな生地が入荷したのかとか、どんな服を作ろうか仕事の後に考えるのがとっても楽しみ。
(だから、定時で帰りたいのに……!)
***
「それで、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……」
数日後、バザーの日。
私はハンスの店の前で愚痴っていた。
あのあと、アルフォンスとメアリはなんだかよく分からない喧嘩を続けていた。
その話の流れを推測するに、どうやらメアリはアルフォンスの婚約者みたい。
(まぁ、そりゃ勝手に婚約者が別の女に求婚してたら怒るよね)
「で、結局何時に終わったの?」
「19時を過ぎてたのよ! ご飯を一緒に行かないかって言われて断ったけど」
ハンスはケラケラと笑った。
その目の前にはぬいぐるみが着るような洋服が並べられている。
どれもこれも可愛くて、素敵な装飾もついている。
(ハンスは相変わらず裁縫が上手ね……!)
ハンスはその優しそうな見た目と同じくらい優しくて、手先も起用。
バザーで洋服を出品してるところから声をかけて仲良くなった。
「これ、新作なんだけど、どう?」
ハンスが恥ずかしそうに出してくれたのは、フリフリの服装に綺麗な緑のブローチが着いている。
「わぁ……!素敵……」
「そうだろ? シンシアの目の色と同じだから、このブローチをつけてみたんだ。すごく……よくなっただろ?」
少しそばかすの浮いたハンスの頬が真っ赤になっている。
(ふふ。人に新作を見てもらうのってドキドキするわよね)
私はそっとスカートのレースを撫でた。
「あ……あの、シンシア!」
ハンスが大きな声で私を呼ぶ。
「え?」
顔を上げると、ハンスのタレ目がちの灰色の瞳が真剣にじっと私を見ている。
「そ、その……今度さ……」
「やっと見つけた」
しかし、ハンスの言葉を途中でさえぎり、誰かにぐいっと腕を引かれた。
その相手は……。