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「アルフォンスって…」

「昨日求婚されてただろ?見たよ。」


突然のことに、魚のようにパクパクと口を動かすことしか出来ない。


「な、」

「ちょっとお忍びで街にいてね。見たんだ、君がアルフォンスを救うところを。」


昨日の夜、フェラルド様もあの場にいたっていうこと…?


「あんたは本物の聖女なんだろ? それなら、あんたを手に入れたものがこの国の権力を握ることになる」


すっと髪を撫でられる。その瞬間に、はっと私は顔を上げた。

そこには自信満々のフェラルド様の笑顔。

私が「落ちた」ことを疑いもしていない顔だ。


その顔に向かって私は、


「女遊びも大概にしてくださいフェラルド様!」


声を上げていた。


「え??」


フェラルド様、そして様子を見守っていた兵士ふたりから声が上がる。


「もー!ほんとに、恋煩いの治療ってすごく大変なんですよ! みんなアドバイスなんて聞いてくれないし! ただ話をしたいだけだし!

だいたい、みんな『そんなことないよ、まだ愛されてるよ』『今は忙しいだけだよ』って言って欲しいだけで、それを言うまでぜんっぜんどいてくれないし!

だいたい、フェラルド様の気持ちを元に戻す方法を教えて、とかもっと美人になる薬を出して、とか!!こちらがそんなものはないって言ったら偽の聖女よばわり!」


それだけじゃない。

この奔放な王子様を本気で好きになってしまった人は悲しくて泣いたり、ご飯が喉を通らなくなって痩せ細ってしまった人たちもいた。


そんな女の子たちの姿をみていると、いつかフェラルド様に会ったら言ってやろうと思っていた。


一気にまくし立てると、わたしはフェラルド様をびしっ!と指さした。


「とにかく、女の子たちが可哀想なのでこれ以上の女遊びはおやめ下さい!」


決まったーー


(雇われ聖女だからって、人を助けたいんだから!)


その時、


「あのー、シンシア様、そろそろよろしいですか…?」


兵士が呼びに来たらしい。


「生意気を申して、申し訳ありませんでした」


私はフェラルド様にそう言うと、部屋を出る。



そのフェラルド様が、私の後ろ姿を見ながら、「面白ぇ女」と呟いたことも知らずにーー


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