(4)
(わぁ、こんな綺麗な部屋入ったことない…)
案内されたのは、普段私たちが出入りできないようなひときわ豪華な部屋だった。とても広くて、なんだか家具が眩しい…。
「こちらでお待ちください。順番にご案内しますので」
(え!ここ、待合室なの…??)
案内してくれた兵士たちがドアを閉めて去っていく。私は部屋の中を見回した。
高そうな生地に、ドレープのたっぷりついたカーテン。体ごと沈んでしまいそうなソファ。ソファには手触りのいいビロードがはられている。ソファの背もたれには見たこともない細さの銀細工がしつらえられている。
置かれている壺は、それだけで私の家が買えるような値段なのかもしれない。
(わぁ…すごく豪華だけど、触るのをちょっと躊躇っちゃう…)
もし割ってしまったら大変なことになりそう。
そんなことを考えながら壺をみていると、
ガチャッ
ドアが乱暴に開けられる。そこにいたのはーー
「フェラルドーー様!」
緩く伸びた黒髪、少し着崩した貴族服。
なにを考えているかわからない、いつも微笑んでいるような口元。
だけど目線は強く、その目でまっすぐ見つめられたらドキドキしない女性なんて居ないはずーー
ましてや、見つめられたまま甘い言葉を囁かれたらなびかない女性はいないだろう。
お兄さんーーアルフォンス王子とは似ても似つかない王子。
そう、第二王子、フェラルド様だった。
「王子、困ります!ここは王子のような身分のものが入ってくる場所ではーー」
兵士たちが止めるけど、フェラルド様は真っ直ぐこちらを見ている。
宮廷で色んな女性と色んな噂を流しては、すぐに捨てて女の人達に恨まれているというフェラルド様ーー
よく「仕事」でも、フェラルド様にふられた、という相談が来てたっけ。
とても身分の高い女性から村娘まで。
本当にいろんな女性と関係を持っているようだった。
たしかに、女性にはもてそうで、それですごく、女性からの視線になれているようだった。
フェラルド様は、まっすぐ私に向かって歩いてくる。そして、私の目の前にたつと、とても自然な動作で私の顎をすっと持ち上げた。
フェラルド様の紫色の瞳がじっとこちらを見つめている。
「へえ、明るいところで見ると結構可愛いんだね」
至近距離のフェラルド様の顔が、にっと微笑む。
「これは楽しめそうだ」
そして、そのまま、ちゅっと音を立てて頬に口付けられる。
「アルフォンスはやめて、俺にしときなよ。聖女サマ?」