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「そもそも君は【聖女】というものを本当に理解してるのか?」


フェラルド様はそう言うと前髪をかきあげた。

かなりキザな仕草だけど、フェラルド様がやると様になる。


「【聖女】は、国に突然現れる、人の怪我を治したりできる力を持つ女性…」


この世界には時々、そういう治癒魔法を使えるものが生まれる。だけどそれ以外には魔法を使える人はいない。

なぜ聖女だけが使えるのか、どうして産まれてくるのか、謎は解明されていない。


ただ、その貴重な存在から【神の子】と言われることもある。


ただ、地域によっては呪いの子と呼ばれることもある。


知らない力を使うものなんてみんな嫌いだろう。



「そう。公にはそう言われているね」

「公には?」


思わず首を傾げる。


「【聖女】は、王子に嫁ぐことに決まっているんだ」

「え、ええええ?!」

「そうしたら、国が繁栄するからね。…まぁ、古いしきたりだけど」


確かに、もし怪我や病気を治せる聖女が近くにいたとしたら、国の重要人物がピンチの時も助けられるだろう。


「そして、聖女を探すために、国で雇って保護することにした。そしたら、自分から名乗り出てきてくれるからね」

「そ、そうだったんですか…?」


定時で帰れる、しかも能力を行かせると思って選んだ仕事だったけど、まさかそんな理由があったなんて!


「しかし、この数年はあまり力の強くない聖女しか出てこなかった。

君をライバル視してるメアリも、治癒の力があるんだよ。…とても弱いけどね。」


メアリ様のことを思い出す。


そうか、だからメアリ様はアルフォンス様の婚約者なんだ…。


「メアリは王家の遠縁だ。だからこそ治癒の力があるんだろう。このままメアリはアルフォンスと結婚する予定だった」


フェラルド様がぴっとこちらを指さした。


「そう、君が現れるまではね」

「私…?」

「君はこれまでの【雇われ聖女】と同じようにたまたま微弱な力がある聖女だと思われていた。…まぁ、」


くすっ、とフェラルド様が笑う。


「アルフォンスは何か感じるところがあったのか、それとも君が好みだったのか、それとも王家の血がそうさせたのかーーよく渡り廊下から君を見てたけどね」


「え、えええ?!」


さっきから驚いてばかりいるけど、本当に驚くしかできない。

いつから見られていたんだろう?!

ドキドキして顔が熱くなってくる。


「…」


フェラルド様は黙ってそんな私を見つめていたと思うと、


「…王家といえば、俺もそうだけど」


そういうと、フェラルド様の細長い指が私の髪に触れた。

弄ぶようにしてすぐに離れていく。


「フェラルド様、からかわないでください!」

「ふふ。からかってるだけじゃないけどね」


ちら、とフェラルド様の目の中に何か強い炎が見えた気がしたけど、それは直ぐに消えて、いつものように静かで冷静な瞳が私を見つめる。


「まぁ、とにかく。それで君があんな【奇跡】を起こしたものだから、城の中は大騒ぎだったんだよ」

「そうだったんですね…」


メアリ様は王子様との婚約が決まっていたのに、私が出てきたせいでそれが奪われてしまったんだ。


ーーお前なんか、いなければよかったのに!


かつて村の人に言われた言葉が頭の中にふと蘇る。


そんな思い出を振り払うように首を振る。



「そうですか…それなら、メアリ様とアルフォンス王子に元通り婚約者となってもらうにはどうしたらいいんでしょうか…」


フェラルド様が驚いたように私を見た。


「お前は女王の立場が欲しくないのか?

金も名誉も思いのままだぞ。

服も買えるし、宝石だって好きなだけ買える。毎日好きなものを好きなだけ食べて、世の中のあらゆる美酒を飲むことだってできる!」


「うーん…」


確かに、お金には困らなくなるだろう。

だけど、いきなり女王なんてできるわけもないし、何よりそういうのって家に帰ることは出来なくなるイメージがある。



そう、


アイラブ家!!!!!!



とにかく私は家にいられればそれでいい。

家にいる時間が増えれば増えるほどいい。

誰の目もなくぐうたらして、好きな時に好きなものを食べて、体に悪いものを食べて、寝たい時に寝る!!


そして好きなだけお裁縫をする!!!!



ああ!なんて素敵な生活!!!!



それに比べたら女王なんてなりたくない!!


「あまり興味が無いですね」


フェラルド様は、ぽかん、とした顔で私を見つめて。


そして笑った。


「ははは!お前、本当に変わってるな!

アルフォンスが興味を持つのもわかる」

「え?」

「宮廷の女ってのはメアリをはじめ、みんな腹に一物を抱えてるんだ。あの女は女王になって自分の母を宰相にすえて家の再興を狙ってるんだよ。そのためには、王子の婚約者候補はみんな蹴落としてきた。色んな手を使ってな」

「そ、そうだったんですね…」


アルフォンス王子と初めて謁見室で会った時に来たメアリ様の冷たい目を思い出す。


その時はアルフォンス王子のことがお好きなんだろうと思ったけど…。


(じゃあ独占欲ではなかったということ…?)


「そうじゃなかったらみんな、金金金。金の話ばかりさ。


あんたもそんな女だと思ってたけどな」


フェラルド様は私に思い切り顔をちかづけた。


ふわ、といい香りがする。


「あんたのこと、俺のものにしたくなった」

「え、えええええ?!」


驚く私にいたずらっぽく笑ったフェラルド様は、

ちゅ、と頬にキスをすると


「…とにかく、しばらく独り占めできるみたいだから、また来る」


そう言ってきた時と同じように窓から去っていった。



***


フェラルド様の話を聞いて、私はあの日のメアリ様の言動を思い出していたーー




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