(2)
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夢見は悪かったけど、また朝はやってくる。
あのアルフォンス王子とのデートから3日以上が経っていた。
日付けが経ってしまうとまるであの日のことは夢だったかのように思えてくる。
あの日もらったドレスは家に持って帰る訳にもいかないので、職場のクローゼットに入れてる。
……それでも入り切らなかった服はまだまだあって、それらは箱に入ったままとりあえず置いてある。
(よし、とにかく仕事頑張ろ!)
気合いを入れ直す。
予約表を確認すると、今日の予定は……。
なんと誰も入っていない。
「アン、これはどうしたの?」
慌てて受付のアンに声をかけると、アンは顔を青くして首を横に振った。
「そ、それが皆さん予約をキャンセルしてしまって……」
「そんな……」
ふと思いついて、翌日以降の予約表をめくる。
白紙……
白紙……
白紙……
なんと、予約表がある1ヶ月先まで、すべての予約が取り消されていたのだった。
(ど、どうして……)
これまでは、予約が埋まりきらなくてもちょこちょこ予約が入っていたのに。
(あ!
アーサーは……)
いつも毎月1回は予約を入れてくれているアーサーの予約もない。
「す、すみません、シンシア様……!
私、断れなくて……」
「アン、何があったの?謝ってるだけじゃわからないわ」
「偽物の聖女に浄化を頼む人なんかいないってことよ!」
その時、ドアからそんな声が聞こえる。
そちらを見るとーー
そこにはメアリ様がいた。
メアリ様はつかつかと私の方に来ると、勝ち誇ったように見た。アンは怯えたようにその姿を見る。
(もしかして……予約をすべて取り消させたのは、メアリ様……??)
「予約も取れない聖女様なんて、ここでは雇って貰えないかもね」
「う…」
たしかにメアリ様の言うことはその通り。
いくらなんでも、王室だってふらふらしてる人を遊ばせておく予定なんてないはず。
(定時で帰れるのは嬉しいけど、このままじゃ仕事そのものがなくなっちゃう!)
そうしたら路頭に迷うことが確定してしまう。
(ど、どうしよう……)
「ふふふ。これでわかったかしら。私とアルフォンス様の間に入ろうなんて100年早いのよ!」
そういうと、メアリ様は高笑いをしながら部屋から立ち去っていった。
***
後にはアンと私だけが残された。
「あ、あの私は仕事に戻ります…」
「え?仕事はここのお手伝いじゃ」
「それが、今日から王宮に戻るように言われていて……」
(それもメアリ様が手を回したってこと?)
可哀想な程にビクビクしているアンには何も言えなかった。
私は、頷いて見せた。
「そうなのね。それなら、こっちは大丈夫だから。頑張っていってらっしゃい」
「は、はい……!」
アンは何度も私を振り向きながら走り去っていく。
(さて、これからどうしようか……)
さすがに、予約が全くないからと言ってすぐにはクビにならないと思うけど。
だけど、問題を解決しない限りはメアリ様からの嫌がらせは続くだろう。
「うーん……」
頭を悩ませているその時だった。
コンコン
窓が叩かれるような音がする。
(なんだろう?)
木の枝でも当たったんだろうか。
窓側に向かうとそこには……
「フェ、フェラルド様?!」
窓の外、木の枝に乗るフェラルド様は、指先を唇に押し当てた。
そして、窓を開けるようにジェスチャーする。
慌てて私は窓を開けた。
「よっ、と」
フェラルド様はとても身軽な動作で部屋の中に滑り込んでくる。
「ど、どうして……」
「いや、君が困ってると思ってね。今助けたら君の僕への評価があがるだろ?」
確かに、もし今助けてくれたらフェラルド様への評価は上がるかもしれないけど……。
(で、でも今は評価がどうとか言ってる場合じゃ……)
悩んでる私をよそに、フェラルド様はどっかと診察用のソファに腰かけた。
「僕が全て教えてあげるよ。何が起こってるかを含めてね」
フェラルド様は不敵にニヤリと笑う。
「さあ、哀れで可愛らしいシンシア。
【⠀診察⠀】を始めようか」