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第二章(1)

第2章


(1)


「えぇーん、シンシア……またケガしちゃったよぉ……!」


記憶の中、故郷の村で仲良かったアマンダが泣きながらこちらにやってくる。


アマンダはお転婆な女の子で、よく怪我をしていた。


「大丈夫よ。私が治してあげるからね」


私は家事を手伝っていた手を止めて、アマンダを呼んだ。


近くまで来たアマンダは、ぎゅっと目を閉じている。


(かわいそうに……また腕を木に引っ掛けたのね)


アマンダの腕のケガに手をかざす。


目を閉じて祈ると、手のひらがぽうっと明るく光った。


みるみるうちに傷が塞がっていく。


完全に治ったのを確認して、声をかけた。


「ほら、もう痛くないでしょう?」


ぱっと目を開いたアマンダは、ケガのあった箇所をまじまじと見つめた。


「うん! 綺麗に治ってる!」


アマンダが喜ぶ。


私はそれだけでもとても嬉しかった。



その数日後ーー



村には台風が接近していた。

昨日の夕方から振り続けた雨は、昼になっても止むところを知らず、それどころか大きなつぶになって家や道に降り注いでいた。


「シンシア。今日はもう外に出なくていいわ。雨戸を閉めて。水が入ってこないようにね」

「はい」


お母さんはすっかり疲れた顔で私にそう言うと、自分は雨漏りを受け止めるためのバケツを床に置いて、大きく息を吐いた。


お父さんが出ていってしまってから長く経つ家は、お母さん一人で切り盛りをしているけれどいつも貧しい暮らしで、家の修繕も間に合っていなかった。



その時だった。



家のドアが乱暴に叩かれる。

お母さんと顔を見合せた。


こんな時にドアを叩くなんて、ろくな用事では無いーー


だけど、何か緊急事態でも起こったのかと、お母さんがドアを開けた。


その瞬間に、外の轟音と雨水がドアから殴り込んできた。


「アマンダを……!見ませんでしたか!」


それはアマンダのお母さんだった。


「いえ、見てませんけど……」


アマンダがこの天候の中で行方不明。

その意味を察したのかお母さんの顔色がさっと青ざめる。きっと私もおなじ顔をしていただろう。


お母さんの返事を聞いたアマンダのお母さんは、それよりもさらに絶望的な表情になった。


「母さん!アマンダが丘の上のばあさんの家に様子を見に行ったって……!」


遠くから男の人の怒鳴り声が微かに聞こえる。


たぶん、アマンダのお父さんだ。


それを聞いたアマンダのお母さんはふらふらとそちらの方に向かっていった。


***


雨がすっかりあがったあと、アマンダは遺体となって発見された。


丘の上のおばあさんの家に向かう途中で足を滑らせたらしい。


「アマンダ!!アマンダ……!!!!!」


アマンダの両親の号泣は聞いているだけで胸を潰されそうだった。

それに、アマンダのお婆さんは災害を免れたみたいだけど、まるで死んでしまったような顔で時折震える唇で祈りの言葉を囁いていた。


(アマンダ……)


怪我を治してあげた時の笑顔、お転婆をして転んで恥ずかしそうに笑うところ。

何より、貧しい私と仲良くしてくれたこと。


全てが脳裏に駆け巡る。


私は意を決すると、アマンダの遺体に近づいた。


しゃがみ、目を閉じ、

手のひらをアマンダの胸元にかざす。


(お願い、アマンダを助けたいの……!)


祈ると、手のひらから光が溢れてきた。



「な、なにを……!」


アマンダの死を悼んでいた村人たちの声が遠くに聞こえる。

アマンダの両親が息を飲む音。


「なんだこの光は……!」


(……っく、)


この力がどうしてあるのか、なぜ私が使えるのかわからない。でも、今この瞬間のためにあるのだと思った。


私は大きく深呼吸をして、


そしてもう一度祈った。


その瞬間ーー


「見ろ!息が……!」


アマンダの胸元がゆっくりと上下する。

その蒼白だった顔に徐々に血の色が戻ってくる。


(良かった……!生き返った……!)


「アマンダ……!ああ!アマンダ……!!」


慌てて抱きしめようとしたアマンダの母親だったが、それを父親が止めた。


「あ、あんた、何をするのさ」


アマンダの父親が、信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。


「あんた、なんの呪いを使ったんだ??死者が生き返ることなどあるわけがない!!」

「の、呪い……?」


アマンダの父親の言葉に思わずオウム返しをしてしまう。


(この力は、呪いなの……?)


「そうだ!呪いだ!」

「魔女め!!!この村に身を隠してやがった!!」

「はやく追放しろ!」

「アマンダもどんな魔術を施されたか分からない!!はやく隔離しろ!!」


思っていたのとは違う展開に言葉を失う。


「違う……違う、私は……!」


ガッと誰かに腕を掴まれる。


「早く村の外に出せ!!」

「二度とこの村に入らせるな!!」


「私は……私は……!」


「こんな気味の悪い力を……」

「なんか変だと思ってたんだよ……」


周囲から様子を見ていた村人たちがひそひそと囁き交わす。


腕を掴まれて無理やり引っ張られる。


そこに、騒ぎを聞いたのかお母さんがやってきた。


「お、お母さん!」


助けを求めようとした時だった。


「あんた、やっぱり魔女だったんだね。

あんたが生まれてから不幸になったからそうだと思ってたんだよ!

いなくなってせいせいするわ!」


お母さんはそう言うと、大声で笑いながら踵を返して歩き出した。


「おかあ……さん」


「ほら、歩けって!」


後ろからおじさんたちに小突かれて、歩き出す。


(どうして……こんなはずじゃなかったのに……)


***


はっ、っと目を覚ます。


(泣いてる……)


自分の頬を伝っている涙に気づいて、私はそっと目元を拭った。


夢を見ていた。

あの頃の夢だ。


「……おはよう」


一緒に寝ていたぬいぐるみを思わず抱きしめる。


ぬいぐるみはいつもどおり何も変わらず、だけどふわふわの感触で私を癒してくれた。





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