零れ落ちた才能と魔法スティック 1
ある日のこと、お父様と一緒に馬車に乗り公式のお城の中で働く人たちを見学させてもらえる事になった。
お父様が現れると職場の人達も緊張してしまうので、若いが有能で一押しの秘書官の一人が今回の見学会で案内をしてくれる事になった。
淡い茶色の髪色の人のよさそうな二十代前半位の男性だ。
「本日はアナスタシア様の見学会の引率をさせていただきます、第三秘書官のコンラッド・エヴェレットと申します。
どうぞコンラッドとお呼びください」
と笑顔で迎えてくれた。
「コンラッド、よろしくね」
と挨拶を交わし早速、楽しみにしていた魔法に関する部署に案内してくれることになった。
王城の一角に、魔導具工房は静かに佇んでいる。
重厚な扉を開けると、広がるのは外界とは隔絶された魔法と技術が入り混じる異空間だ。
高い天井には、魔法の光を反射する不思議なライトが輝き、工房全体を明るく照らしている。壁際には、様々な素材や道具が整然と並べられ、壁に向かって机に座る魔導具技師と呼ばれる職人たちが熟練された手つきで黙々と作業を行っている。
中央には、巨大な魔法炉が鎮座している。燃え盛る炎は、まるで生きているかのように脈動し、工房全体を暖かく包み込む。炉の周りでは、人間とドワーフっぽい職人たちが、共同で作業を進めている。
ある人物は、力強い腕でハンマーを振るい、真っ赤に熱された金属を叩き、魔法の力を込めていく。また、別の人たちは、繊細な手つきで魔法文字を刻んだり、魔法薬を調合したりしている。
工房の奥には、完成した魔法道具が展示されている。煌びやかな装飾が施された杖や、不思議な力を秘めた宝飾品、そして、精巧な仕掛けが組み込まれた機械など、その種類は多岐にわたる。
「これらの魔導具は、わが国、ノバアルビオンの発展に貢献するだけでなく、人々の生活を豊かにするものでもあります。この城で働く職人たちは、魔導具を通して、オルサポルタの領民の生活の向上、そして安全を届けることを目指しております。」
とコンラッドが完成した魔導具や職人を見学しつつ何をしているかなど詳しく説明をしてくれる。
工房内は、活気が満ちていて職人たちの真剣な眼差し、道具がぶつかり合う音や魔法と思われる光など独特の雰囲気を醸し出している。
ここでは、魔法は決して特別なものではない。と感じることで本当に魔法の世界にいると思うとアナスタシアのワクワクが止まらない。
そんな魔導具工房の一角で、ドナは背中を丸めて作業台に向かっていた。
目の前には、複雑な魔法陣が描かれた魔法の杖。
彼女は、それを何度も見返し、ため息をついた。
「うぅ、また失敗……」
ドナは、優秀な成績で学校を卒業し憧れの城の魔導具技師として採用された将来有望な若者だった。
魔法の才能は人並み以上にあるものの、優秀な周りの職人達に圧倒されて集中力と根気が続かず、いつも中途半端な物しか作れない。今日もまた、新しい魔導具の試作品作りで壁にぶつかっていた。
その時、工房の主任技師であるアルフレッドが、ドナの背後から声をかけた。
「ドナ、進捗はどうだ?」
ドナは、肩をびくりと震わせた。
「まだ……全然です」
ドナは、目を伏せ小さな声で答えた。
アルフレッドは、ドナの作業台に目を向ける。
「また同じところで躓いているのか。おそらく、ここの魔法陣の配置に問題があるから、エネルギーがうまく流れないんだ」
アルフレッドは、静かな口調でアドバイスをするとドナは、肩を落とした。
「でも、どうすればいいのか……。いくら試しても、こればっかり出来てしまうんです……」
失敗した魔法の杖からはキラキラと砂時計の砂のように魔法の光が作業台の机から下へと零れ続けている。