表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルサポルタから始まった  作者: 泰藤
寄宿学校生活の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/46

オリエンテーション

今日はオリエンテーションが行われる。


校舎の外壁は長い年月を経て味わい深い映画に出てきそうな色合いをしている。校舎から伸びている尖った塔の先は天を突き、そこにはこの学院の深緑色の旗がたなびいている。一見すると、中世の要塞のような、無骨で人を寄せ付けない雰囲気が漂っていた。


ただ、一歩足を踏み入れれば、その印象は鮮やかに裏切られる。


エントランスホールは、磨き上げられた淡いグレーの大理石が天井から差し込む柔らかな光を反射して明るい。床には重厚な石の冷たさを和らげるように、深く静かな森の色を思わせる草花をモチーフとした深緑の絨毯が、奥へと続く道筋を示して美しく敷き詰められている。


高い円天井の天窓からは、秋日射(あきひざし)の陽光が()しみなく降り注ぎ、空気中を舞う(ちり)さえも淡い金色の粒のように輝かせている。

壁一面を飾る歴代の学院長の肖像画や、精巧(せいこう)な装飾が施されたタペストリーも、不思議と威圧感を感じさせない自然をモチーフにしたもので、生徒たちの緊張を解きほぐすかのように明るくて優しい。


ひんやりとした空気と共に、ほのかに香る爽やかな柑橘と緑が混ざり合った香りが静かに漂ってくる。


それは、秋の澄んだ空気に溶け込んだ、少し苦みのある果実の皮のような爽やかさと、湿り気を帯びた深い森の葉のような匂い。

建物の中に満ちているその香りは、外の乾いた風とは対照的に、鼻の奥へしっとりと届く。


オリエンテーション会場へと続く回廊に並ぶ白い石柱の隙間から、秋の装いをまとった中庭の木々が目に飛び込んできて少しだけ歩調が緩くなる。




会場の大講義室では、教壇に立つ白いふわふわのお髭がチャームポイントの教頭先生から説明が行われる。



選択する授業のひとつひとつが将来の進学先を左右すること。そして何より、最終学歴を修めた者のみに授与される「指輪」が、この社会においていかに重要な意味を持つかということ。

教頭先生の「君たちのたゆまぬ努力を期待していますよ」という言葉に、まだ10歳の子供達には少しだけ緊張感が走った。




続いて、講習の議題はお金へと移る。 黒板に掲げられたのは、貨幣体系の図解だった。


「まずはアルギャド硬貨の種類の説明を致しましょう。鉄貨や穴鉄貨は、現在は国外の両替などで使われる程度で、皆さんが目にすることはないでしょう。基本は銅、銀、金。それぞれに大小があり、さらに『花硬貨』が存在します」




教師の解説を聞きながら、アナスタシアは露店で買ったカイリーテイルの値段と照らし合わせる。 (あれ、結構いい値段だったんだな。まぁ、かなり大きいもんね……)



小銅貨(10)を起点に、大銅貨(50)、波型の花銅貨(100)。

銀貨は、小銀貨(250)、大銀貨(1,000)、花銀貨(5,000)。

金貨は、小金貨(10,000)、大金貨(50,000)、そして最高額の花金貨(100,000)。




話が「小切手」の仕組みに及ぶと、周囲の子供たちは少し難しそうな顔をし始めた。


配られた小切手の見本を手に取る。美しい模様が入った紙は、いかにもこの世界における「信用」を具現化したものらしいデザインだ。銀行通帳の仕組みや、月に一度の照合についても説明が続く。執事や会計係がいない平民なら一人で管理しなければならないという話に、冷や汗をかいている子もいるが、そんな大金を使う事もないので、話を聞き流す。


ふと、アナスタシアは大昔の記憶で海外旅行で使ったトラベラーズチェックを思い出してちょっと懐かしい気持ちになった。その時の記憶につられて、アルバイト代を小切手で渡されて銀行へ友達と換金して貰いに窓口に並んだ事を思い出す。通帳がない国でびっくりしたことを鮮明に思い出した。



パッと急に思い出した記憶もオリエンテーションの説明の声が耳に入ると幻のように消えていく。


気が付けば、学校斡旋のアルバイトについて話が移っていた。




「では、最後に学内アルバイトについての説明を行います。希望者は、掲示板に掲示される募集要項を確認して申し込んでください」




先生はそう言って、いくつかのサンプルが書かれた紙を見せた。




「募集には、領内の公的機関から依頼される『常用雇用』と、学業以外の課外活動や趣味の場での一時的な助っ人を求める『不定期募集』二種類があります。どちらも学校の許可を得て掲示されるものですから、安心して励んでください」



「不定期募集に関しては裕福な生徒の皆さんは積極的に利用して頂く事を推奨しております。ここにはさまざまな事情の学生がいますので新しい発見や交流のきっかけにもなることがあります。」


アナスタシアは『こちらが求人を出す側として期待されているのか』と、心のメモ帳にその旨を書き留めた。丁度やってみたい事もあったのでこれはうまく利用できるかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ