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オルサポルタから始まった  作者: 泰藤
新しい人生は突然に
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ミスターポムと橇

人気者のミスターポムが率いるポム(ぞり)に乗る日がやってきた!

屋根や木々には綿帽子のように雪が積もり、街のすべてが白く、静かな朝。

子供達の心は楽しみ半分、怖さ半分。


このポム橇に参加するにあたって子供達は色々な準備が必要になった。

とても寒いので防寒着はもちろん、帽子、手袋、顔を覆うスカーフ、マフラー、ブーツ。そしてゴーグルだ。

かなりのスピードで進むので必ずゴーグルが必要になる。

転んで落ちたり、飛ばされても頭を怪我しないように特別な付与魔法がかけてある。


白い革で作られたガラス部分が淡い緑色の一眼ゴーグルはリボンがつけてあって可愛い。

付け心地に問題がないか当日までに調整を行い確認する。



そうして迎えた当日、城内の子供達が広場に集まると堂々としたミスターポムが率いる真っ白なオオカミたちが、頑丈な(そり)の前に整然と並んでいた。


(そり)のそばに立っているのは、体格の良い人と細めで少し小さい軍人さんが二人。

厚手のカーキ色の軍服に身を包み、耳まで覆う毛皮の帽子、目の周りをぐるりと覆う大きなゴーグル、分厚い革の手袋、そして膝上まである重厚なブーツという完全装備だった。




「皆さんこんにちは!フィーア・コーマックです。私は陸軍の獣医士官、つまり軍の動物のお医者さんです!ポム(ぞり)のマッシャーも兼任しています。 コーマック大尉、またはフィーア大尉と呼んでくださいね」


「やあ、僕はガスリー軍曹、ダーヒー・ガスリーだ。僕の仕事はマッシャー、つまりミスターポム達と一緒に橇に乗って働く担当だよ! ガスリー軍曹と呼んでくれ。もし忘れたら軍曹と呼んでくれても大丈夫だよ」



「さぁ、何か質問はあるかな?」


「マッシャーって何ですか?」


「ここでのマッシャーはポム橇の操縦者の事をいうよ。ポム橇では冬の物資の運搬が昔は主な仕事だったが、列車が走るようになってアスポロスとの交易での使用が減り、現在は列車の通っていない地域への冬の物資運搬が中心に変わってきている。主に運ぶのは薬、血清、鉱石、手紙などが中心だ。時々怪我人を運ぶこともある。もちろん、ミスターポム達がいない地域では犬橇を操縦する人達もマッシャーと呼ぶよ」


「はい!ポム橇は何が違いますか?」


「いい質問だね。まずスピードが違う。彼らは(ちから)が強い。そして風魔法が使えるのでもの凄く速く走り抜けることが出来るんだ。走り出したら風圧で息が詰まるぞ。しっかりハンドルに掴まっていように!準備はいいか?」


「「「「はーい!」」」」


皆の返事が揃ったところで実際に橇に乗り込んでいく。


木製のフレームで組まれた、軽さ重視のかなり簡素な作りの橇は、使い込まれた木の肌合いがそのまま活かされた枠にロープで編み目の粗いとうのバスケットを横にしたような形状をしている。


橇の前方の簡易な籠のようなスカスカな部分に子供が縦に並んで座りこむ。籠の後方はスキー板のような部分が伸び、操縦士(マッシャー)が板の部分に左右の足をかけて立ち、腰の高さまで平行に伸びた棒の部分を握って操縦をする。


「ハイク!」


掛け声と共に進みだした橇はあっという間にスピードを上げて消えていく。


フィーア大尉にアナスタシアとピピロッテもどうぞと言われて乗り込む。


「ピッピ前と後ろどっちがいい?」


「前がいいです!」


「うん!ピッピ前に乗って!後ろで掴まってててもいい?」


「もちろんです!」


先に走り出した橇の速いこと。そして、想像していたよりも簡易な作りの橇を見て怖気づいたアナスタシアはピピロッテが前がいいと言ってくれた事に心の底から感謝していた。


前に掴まる所のないピッピロッテは器用にミトンで橇の左右を掴む。

ピピロッテの腰に掴まって後ろに座るアナスタシアは既に心臓がバクバクと鳴っている。

目の前には太い牽引ロープと、それに繋がるオオカミたちの力強い背中が間近に見える。白い毛並みの質感や、息遣い、そして、今にも飛び出しそうな彼らの躍動感が、直接肌に伝わってくる。


フィーア大尉のハイク!と短い号令が雪原に響き渡る。


その瞬間、橇は弾けるように走り出した。



「うわああああ!」

「ひぃぃぃぃぃ!」


喜ぶピピロッテとひきつった声をあげるアナスタシアは、風圧と加速の衝撃を全身に受け止めた。想像の何十倍もの速さでオオカミたちの力強い走りが繰り広げられる。彼らの足が雪を蹴り上げ、しなやかな体躯がうねる。土煙ならぬ「雪煙」が盛大に舞い上がり、二人の顔に白い粒となって降りかかる。


ピッピの肩越しから覗くアナスタシアのゴーグルの視界いっぱいに広がるのは、目まぐるしく流れていく雪原と、すぐ目の前で大地を切り裂くオオカミたちの姿だ。彼らの呼吸が聞こえ、筋肉の動きが見て取れる。その生命力溢れる躍動感は、凄いとしか言いようがない。



更に淡く青緑色の光が見えると更にスピードが上がり、周りの木々や山々が後ろへ後ろへと流れていき何も形が(とら)えられない。


「すごい!とっても速いです!」ピピロッテが叫ぶ。


私は怖すぎて声も出ないし、顔に風と雪が当たって凄く痛い。

口元にスカーフとマフラー巻いてるけど冷たい!!

ピピロッテのキャハー!とはしゃぐ声を聞いているうちに元の場所に戻り他の子達と交代していた。


雪原に膝と手をつきプルプルと震えるアナスタシアをピピロッテは心配して背中を擦ってくれる。



「大丈夫ですか?」


「う…うん。びっくりして、足に力が入らないだけ…」


これで、終わりかと思いきや、その後もう少しゆっくり走る組ともっと早く走る組で分かれて走り回ることになった。ゆっくり組に行ったことで、楽しむことも出来るようになったのは今日の成果だと思う。


これでも、全速力で走ってないっていうんだから、ポム達侮るなかれ。

ジェットコースターなんて比べ物にならないよ。



夕食時には両親に、ポム橇がどれだけ早くて怖かったかを一生懸命に話しても、そんなに怖いかな?という両親の反応に、この二人もピピロッテと同じスピード狂の一族に属する人達であると認識する。


ミスターポム達とは適度な距離で今後もお付き合いをして良い関係を築いていけるといいな。

そう思いながら、夕食の久しぶりのフライドポテトにグレイビーソースとチーズをのせたミシュマッシュをモリモリ食べるのであった。

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