冬の宝さがしイベント
雪が降り積もるオルサポルタの港は、ノバアルビオンの雪が降る他の地域に比べて冬でも比較的暖かい海水温と、港の構造のおかげで、完全には凍らない。
年中船が港に停泊し、北風が港に吹きつけ、波しぶきが雪と混じり合い、かすかに虹色の光を放っていた。空は厚い雲に覆われ、港街の灯りが雪に反射して、ぼんやりと光る。
どれだけ雪が降ろうともこの地域は冬ごもりをせず、皆一生懸命に働く地域でもある。
完全に雪に閉ざされ冬の間は皆家にこもり、蓄えた食料で日々をしのぎ、冬の手仕事や合間の狩りで春を待つ地域も多くある中、オルサポルタは出稼ぎ労働者を受け入れ、冬も皆元気に働く。そして冬を楽しむ人々が多く住む経済的にも発展した地域である。
そんな冬の日に青空が顔出したある日、城塞の内側、お城のお庭にて皆が楽しみにしているイベントがある。
それは、冬の宝探し。
ワクワクと待ちきれないのは、城内に勤める大人とその家族や子供にアナスタシアの両親からプレゼントが振る舞われるのだ。
赤、青、緑、紫、ピンクなど目立つ色に塗ってある六角形の片手で収まる大きさの木箱が雪の中に埋まっている。
大人と子供で探す場所も区切られており、大人は一つ、子供は二つまで選ぶことが許されている。
その箱を宝探しの管理人に開けてもらい、出てきた中の物を貰えるのだ。
大人は最低でも銀貨1枚、その他には金貨やネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブローチ、髪飾り、チャーム、護り石、宝石、真珠、有名店のお菓子の引換券、歌劇場券など様々である。
子供にも、護り石、リボン、レース、ボタン、コマ、知恵の輪、木の玩具、ガラスの小瓶、カラフルな木のビーズ、方位磁石、ふわふわ毛玉、食堂お菓子引換券、キラキラ光る石、真珠、銅貨、銀貨などがある。
大人も子供も運試し。実は大人も子供も雪の中から堀当てるのを楽しみにしているのだ。
アナスタシアはピピロッテから今日のイベントをどれだけ楽しみにしているか何度も聞かされている。
めったに見ることのない幻のピピロッテの兄も帰ってくるらしい。
アナスタシアは主催者の子供なので皆が楽しめるように城の上から宝さがしを眺める。
やっと、ピピロッテ達家族の順番がまわってきたのかピッピが跳ねて外へ飛び出してきたのが見える。
雪の上を足跡をつけながら、城の庭を駆け回る。ピョンピョン飛んで大興奮しているのがよく分かる。
ピッピが雪をかき分けピンクの箱と青い箱を堀当てる。
箱を開けて貰って、嬉しかったのかピッピの跳ねる回数が無限になった。
ずっと跳ねてて元気だな~。よっぽど嬉しいのが入っていたんだなーと微笑ましく眺めている。
他にも、一緒に決めポーズ仲間の子供達とその親を眺め、あの子の父親があの人だったんだね!とこっそり人間観察も楽しむアナスタシアは皆が終わった最後に残り福を両親と下へ降りて、宝探しに参加をする。
私が当たったのは知恵の輪と食堂お菓子引換券。お父様とお母様は辞退。
私は子供なので、そして記憶としては今回は初回参加なので楽しませてもらいました!
わくわく、どきどきで楽しいね。
知恵の輪は頭があまり柔らかくないのか、全然解けない。正直もう飽きそうです。
遠い昔に知恵の輪が流行ったことがあったので買って貰ったりしたけど、一つしか解けなかったのを思い出したよ。
食いしん坊なので、心は既に食堂お菓子引換券へとシフトチェンジしつつ、なんとか知恵の輪をカチャカチャする。
唸れ、集中力!閃け、過去数十年の知恵!
「で、出来なーい」
「大丈夫よ。アナスタシアはまだ4歳なんだもの」
「そうだぞ、結構難しいからもう少し大きくなってから挑戦してもいいんだぞ」
と両親に慰められる。
閃かない数十年の知恵をもってしても駄目なら、今後数年で知恵の輪解けるようになるのでしょうか。
そんな実情を説明出来るはずもなくアナスタシアはソファーに突っ伏して項垂れる。
「もし、どうしても解けないなら、知恵の輪が好きな者へ渡せば喜ぶぞ」
「えぇ、そうよ人によって得手不得手というものがあります。無理する必要ないわ」
と慰められてちょっとだけ元気になったアナスタシアはもう一つの食堂お菓子引換券への交換に意識がそれたのを見た両親はお互いに見つめあい笑顔を交わす。
「アナスタシア、食堂でお菓子を交換してもらうのは楽しみのようで良かったわ」
「そうだな。美味しいお菓子だといいな」
両親がそんな会話をしていることすら耳に入らないほど交換券に集中しているのをみて、その集中力があれば知恵の輪が解けるかもしれない事は黙っている優しい人達である。
後日、食堂お菓子引換券で受け取ったお菓子は一人ではとても食べきれない量だったので、籠に詰めてもらい、ピピロッテや一緒に遊ぶ子供達と一緒に食べながら冬の宝探しの成果を聞くのであった。
ちなみにピッピは銀貨とフワフワの毛玉を手に入れたそうだ。
一緒に持ってきた知恵の輪はあっさりと他の子供に分解されてショックを受けるアナスタシアはそのまま欲しい子にあげてしまい、二度と知恵の輪を解くことは無かった。




