表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルサポルタから始まった  作者: 泰藤
新しい人生は突然に
37/40

冬のはじまり

この地域には日本と同じように秋の紅葉があり、木々が黄色から赤へと色を変える。

その木々が葉を落とす頃には雪がチラつき始め冬がやってくる。



窓の外は、まだ秋の湿った匂いが漂い、木々の葉は濡れた土の色を映している。城内の樹の葉もほとんど落ち、剥き出しになった枝が、寂しげに空へ向かって伸びていた。


空が、次第に重たげな鉛色に変わっていく。

最初に現れたのは、音のない白い粒だった。それは粉雪のように軽やかではなく、一つ一つがしっかりと水分を帯びた、大粒の雪。まるで空から降りてきた白い羽毛のように、静かに、そして重たげに舞い降りてくる。



雪が当たり前の地域では誰も「雪だ!」と騒がない。

前世の意識が色濃く残りつつも、子供の心も持つアナスタシアはワクワクしていた。

以前の記憶では雪がほとんど降らない地域で生まれ育ち、少しの積雪で交通機関が麻痺してしまうような場所だったのだ。


(ゆーきだ、ゆきだ!)


そう騒いでしまいたい心と周りの反応を(かんが)みて、まるで当たり前のようなふりをしてみた。




「あら、雪が降って来たわ」


「まぁ、本当ですね」




なんて、お上品に振舞ってみせた。

雪は積もるだろうか。



その日はピッピ達と別れ、機嫌よく夕食を終え、ベッドに入る頃にもう一度窓から外を眺める。

雪が土についた瞬間、溶けきらずに、土の上に白い影を落としていく。それは、まだ積雪とは言えない、まるで白い粉をまぶしたかのような、薄っすらとした跡だった。


城のモミの木の枝にも、雪がくっつき始めるが、すぐに水滴となって地面に落ちていく。

その水滴が、また新しい雪を溶かし、土の部分には小さな泥水ができていく。


あと少し。ほんのちょっと気温が下がれば、この雪は本格的に積もり始めるだろう。

今はまだ、冬と秋の、あいまいな境界線。


土の地面に積もるか積もらないか。そのギリギリの線で舞う牡丹雪(ぼたんゆき)は、この街の冬の始まりの、美しい瞬間だった。



どれくらい窓の外を眺めていたのか、窓辺からベッドに戻る。

明日の朝には積もっているかもしれない。

ワクワクしながらブランケットの端を持ち上げる。




翌朝、静寂を破るように、朝の光が徐々に強さを増してきた。

重厚なカーテンの隙間から漏れる光が、部屋の隅々をぼんやりと照らし出す。

目を覚ました私は、まだ眠気を含んだまま窓辺へと歩み寄った。



庭のモミの木は、あっという間に白いベレー帽をかぶったかのように、こんもりと雪を乗せていく。その重さに枝が少ししなり、やがてその雪が「パサッ」と音を立てて落ちる。



ほんの少しだけ雪が積もっている。



朝食の半熟ゆで卵にバターたっぷりのトーストとカボチャのスープをささっと食べると、服を着るのを手伝ってもらい、赤いコートにフワフワブーツを履いて外へ飛びだす。

小さい、ちーいさい声ではしゃぐ。



「ゆっっきだぁ~!」



雪だるまが作れるほどの積雪ではないので、小さいウサギを作るべく、アーモンド形に手のひらで雪を固めていく。

葉っぱの耳と赤い実の目が必要だけど、ちょうどよいところに葉っぱはあった。

赤い実はないけれど小ぶりの石で代用する。


もう、数十年ぶりの雪遊びだ。

手がとても冷たくなってしまったけど全く後悔はない。

初雪に城内の子供達も集まりだし銘々が好きなことを始め遊びに夢中になってしまった。


そのまま気がつけばお昼まで雪遊びをしてしまい、食事の時間ですよ~と窓から大人に声をかけられ子供達は慌てて昼食を摂りに戻るのであった。




「またね!」




と、皆と別れて昼食に戻る。

今日は、誕生日プレゼントで作って貰ったお店、「ソナーシャ」で秋冬商品を見に行く予定になっている。


冬なのでキラキラマジカルスティックも冬仕様のデザインが発売されるので、店舗での見学と気に入ったものがあれば自分でも使っていいと両親から教えて貰って大喜びした。


セレブの子供は半端ないな。いいのか、こんな夢の生活に慣れてしまって後から悪役令嬢でしたとかなったら立ち直れないよ!

真面目に勉強もしておこう。と大人の時の意識がアナスタシアにリスクヘッジを警鐘(けいしょう)を促す。


ウキウキルンルンで馬車に乗り込んで、「ソナーシャ」で秋冬の新作を見学すると、雪の結晶の商品がとても可愛い。

キラキラマジカルスティックも雪の結晶のデザインが付いたものや、ミトン、帽子、コートにブーツなど色々なアイテムがそろっている。


雪の結晶のキラキラマジカルスティックも欲しい気持ちが無いとは言えないが、自分が持つと他の子達も欲しいの大合唱が始まるのを予感して、大人の心の部分がストップをかける。


一先ず、指先が冷えない魔法のミトンと耳が冷たくならない魔法の帽子は買ってもらうことにした。

サイズもぴったりで問題なかったので、これからの雪遊びで活躍するに違いない。




「アナスタシア様、キラキラマジカルスティックもいかがですか」


「可愛いけど、ドナが作ってくれたものがあるから今は大丈夫!」




と健気に答えてみせる。


ま、雪の中だとキラキラマジカルスティックのキラキラが雪で見えにくくなるので、ワクワクミラクル感がちょっと足りない気がするんだよね。

そこらへんもなんとかしないとね……。


今は、雪遊びや、他のイベントが待ち遠しい。

異世界1年目のアナスタシアは冬には冬の摩訶不思議が楽しみなのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ