黒歴史か親馬鹿か
アナスタシアの父親であり、オルサポルタを統治する者の名をアラスデアという。
このアラスデアという男は愛妻家であり、愛娘を溺愛するパパである。(因みにパパと呼ばれたことは無い)
愛称はサンディ。
近頃、妻くらいにしかそう呼んで貰えなくなってちょっぴり寂しさを抱える男である。
最近は夫婦で忙しく娘のアナスタシアと朝食の時位しか会うことがなく、寂しい思いをさせているのではないかと気にしていたが、アナスタシアはいつもご機嫌と報告を受け、存在を忘れられているのでは?と最近思う今日この頃。
この頃、娘は玩具に夢中でとても可愛いが寂しい。
4歳の誕生日にプレゼントした子供用の魔道具の店は大変人気を博しており、愛娘の閃きで完成したキラキラ光る棒を振り回して遊ぶ姿はなんとも愛らしい。
この可愛さを残したい。
そんな、ことを考える日々。
偶然、馬車での移動中にアナスタシアと子供達が遊んでいる姿を見かけた。
何やら各々に統率の取れたポージングをしており、感心をしたアラスデアはハッと閃く!
あの扇のような形は素晴らしい!皆が手を取り形作り中心でポーズを決める我が娘。
最高に可愛い
これだ!この姿を残そう!
絵本だ!絵本にしてうちの娘の可愛さと統率力を世に知らしめねばならぬ!
と変なスイッチが入ったアラスデアは絵描きを呼び娘達のポージング絵をこっそり描かして絵本を作らせ、量産の手配を進めるよう部下に指示を出すのであった。
5歳の誕生日に娘の絵本を贈ろう!
アラスデアは娘へのプレゼントが決まり上機嫌になっていた。
不幸にもアナスタシアは戦隊ヒーローのキメポーズも皆がいくつか覚え、ネタ切れしてきた時に出来心で加えた組体操の扇形。
フラメンコの薔薇の如く、キラキラマジカルスティックを口に咥えて必死に形を維持しつつキラキラを降らせていた時の姿を父親達に見られていたのである。
絵本の為にこっそり隠れて絵描きに観察されていることを知らない子供達は今日も元気にキメポーズバトルに夢中だった。
後に発行される、キラキラマジカルスティックキメポーズ集と呼ばれる絵本は至る所に配られ、魔道具と共に大ヒットし、ロングセラー商品となり、黒歴史は長く愛され絶望するのであった。
この絵本を作る際に多色刷りの木版画が人気となり、その後、魔法玩具店ソナーシャの商品で遊ぶ絵本はシリーズ化し、絵本と同時に商品もよく売れた為、アナスタシアは恥ずかしさと売上の喜びで物凄く複雑な心境を抱えることになる。
ほぼ、アナスタシア担当となりつつある下っ端秘書官コンラッドは絵描きとの打ち合わせで、扇形のポーズは見開きページでの掲載がダイナミックで良いだろうと絵描きと話し合い、仮作成の絵本をアラスデアに提出するも、うちの可愛い娘が真ん中で折れている!線が入っている!とご不満の様子で満足頂けず、やり直しになる。
「俺、何やってるんだろ……」
と、コンラッドが呟いたとか、呟いていなかったとか。
とはいえ、アナスタシアが気に入って持ち歩いているキラキラマジカルスティックは費用対効果のとても良い商品である。
何よりも素晴らしいのが子供達が魔法を使った気になっている為、就学前から魔法を使おうとしたり、危険な行為をする子供が格段に減ったのだ。
大人達が便利に使っているものは子供達も使いたい。そのような心理が働くのはよくわかる。
その問題に関しても偶然ではあるが、子供達が満足する魔法であったのが幸いし、大変人気である。
「アラスデア様、今月のソナーシャの売上表です 」
「キラ魔棒が本当に良く売れるな」
「はい、驚くほどの売上です」
「そんなに安い物でもないのになぁ」
キラ魔棒とは、大人達がこっそり呼んでるキラキラマジカルスティックのことである。アナスタシアはこの名称を皆に覚えて貰うべく至る所で使っているが、大人達は名前長いな。
と、裏ではキラ魔棒と呼んでいる。
「他国の商人や貴族にも大変人気ですし、魔道具に馴染みのない国では奇術師が人寄せに使ったりしているようです」
「ほう……大人も使っているのか?」
「はい、魔力のない人間が多い国ではあれ1本で人気奇術師になれるそうで、下手な吟遊詩人よりよほど稼ぎも良いとか」
「はーん、不思議なものだな」
「我々からすれば本当に不思議なことですね」
「意外な所に我々が知らないだけで需要はあるのかもな」
「そうですね、今後の為にも聞き取りと情報は集めます」
「そうだな、宜しく頼む」
コンラッドはソナーシャの店員に今後もどのような顧客が、どんな商品をどのような用途に使っているかなどの情報を引き続き集めまとめるよう手配を進めるべく忙しく動きまわる。
その頃のアナスタシアといえばそんな会話が行われていることなど知らず、元気にヒーロー戦隊ポーズを考案したり、一緒に遊ぶ子供達と新たなカッコイイポーズの練習に忙しい毎日を過ごしているのであった。
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