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オルサポルタから始まった  作者: 泰藤
新しい人生は突然に
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オイシル貝のグラタン

秋の潮風が運んでくる、かすかに磯の香りが混ざった冷たい空気が頬を撫でる。賑やかな話し声と、時折響く軽快な音楽。


今日はオイシル貝の祭り、その名もオイシル・フェスティバルの開催初日。


アナスタシアはオイシル貝が何かピンとこなかったがイベントであれば行かねばならぬ!と朝から張り切っていた。フェスティバルが開催されている街におりれば、街にあふれているのは牡蠣(かき)だった!


もう一度言おう!牡蠣である!こっちの世界ではオイシル!美味しる!

と心の中ではぴょんぴょん跳ねてはしゃいている。


テーブルに並べられたのは、オルサポルタの冷たい海が育んだオイシル貝。湾の穏やかな潮で育った甘くて風味豊かなオイシル貝は、氷の上に美しく盛られている。



会場には、オイシル貝の早剥き競争に挑戦する人々の歓声や、オイシル貝料理の屋台から漂う香ばしい匂いが満ちている。皆、この素晴らしいオイシル貝を心ゆくまで堪能し、笑顔で語り合っている。



オイシル・フェスティバルの会場で、最も熱気に満ちた場所の一つが「オイシル貝むきコンテスト」のステージである。これは、単なる牡蠣の早剥きを競うだけでなく、職人たちの技術とプライドがぶつかり合う、まさに真剣勝負の場。今日は予選大会が開催されている。


このコンテストでは 最も早く規定数のオイシルを剥き終えるスピード、殻の中に残った小さな破片(殻欠け)がないか、身が傷ついていないか、そしてオイシルのヒモ(縁の部分)が美しく整っているかクオリティ、オイシルを並べた皿の見た目のプレゼンテーションの総合評価で競技を行う。


つまり、ただ速いだけではなく、技術と、オイシルを大切に扱う職人としての心が求められるのである。


そんな説明を聞きながら大量に剥かれていくオイシルはフェスティバルの屋台やレストランで消費するために運ばれて行くのを横目に眺める。



ノバアルビオンという国は寒さの厳しい場所ではあるけれど、知恵を絞り助けあい、とても豊かに暮らしているのがわかる。



ご機嫌な気持ちでお祭りを楽しんでいると、レストランの前にテラス席が出ていて、ここでこの季節の名物を食べるそうだ!



その名もオイシルリンゴグラタンである!

なに?!その組み合わせ!ビックリなんだけど!!!


焼きリンゴの器にグラタン!熱々のグラタンに木製のスプーンで少しだけ掬ってフーフーしながら、ドキドキと鼓動が波打つ胸を押さえつつ未知の一口をパクリ……。


うまー!意外な組み合わせなのに美味しいよ!!


半分に切ったリンゴをくりぬいて、ホワイトソースとリンゴとオイシル(牡蠣)を入れてチーズとパン粉をのせてカリッと焼いたもの。

最後に緑のハーブのようなものがパラパラとかけてある。


誰?!こんな勇気がいりそうな組み合わせが美味しくなるって思いついた人!?天才じゃない?!


うちの名産のリンゴとオイシル(牡蠣)をただ組み合わせただけなのかもしれないけど、思いつかないよー!

クリエイティビティが爆発してるよ!

昔誰かが芸術は爆発だー!って言ってたけど、美食も爆発だー!


こんな、お祭りで忙しい時なのに!シェフを呼んで!と叫んでこの感激を伝えたい!!!!


残念な点はここのリンゴはチビチビサイズなので直ぐに食べ終わってしまうの。日本のリンゴのサイズで食べたい。


私はセレブなお子様なので席についてお行儀よく食べてるけどよく見ると、テラスの大通りと所にも出店があって、お皿の代わりに薄くスライスしたラスクみたいなパンの上に乗せて販売してるよ。


既に並べてあるので程よい熱さになっているのを、大人達はお酒を片手に、二、三口でさっと食べてる。

くぅぅぅー!羨ましい!


絶対に美味しいよ!

他にも新鮮な生オイシルをトマトベースのチリソース、所謂(いわゆる)カクテルソースをかけて食べる。



「こっちも美味しいー!」


静かに食べるつもりが、ごめんあそばせ。

パッと大人達を見ると違う食べ方をしている。



「私も食べたい!」



「これは、大人の食べ方ですのでまだ早いですね!」



「えー!に、匂いだけでいいから嗅がせて!」



なんていつもなら怒られるのに、あまりの必死さに折れてちょっとだけ匂いを嗅がせてくれる。

透明な茶色っぽいソースはウイスキーだね!!


う、うわーん!自分からお願いしたのに知りたくなかった。

まだ子供なので食べられない。あ、あと何年待てば食べれるようになるの?!


あーん、バカバカ!と心の中で自分の頭をポカポカと叩く。

大人の記憶があるのは今だけは恨めしい。



「ね、美味しいそうな匂いしないでしょ?」


なんて、言われる。

無言で自分と葛藤していたので興味ないように思われたようだけど、反対だよ!興味アリアリ!



くぅ!

悔しいのでグラタンをお代わりして自分を慰めるアナスタシアでした。



結局開催されている3日間の最終日も決勝戦を見に行ったアナスタシアは他にも美味しいオイシル貝のフリットと激ウマソースを挟んだパンなどの料理を楽しんで、優勝者の喜びの挨拶と記念のメダルや賞金の授与などを見学し、今後も城のシェフにオイシル貝とリンゴのグラタンお城風を定番メニューに入れて貰うおねだりの算段をつける。


やっぱり、シェフには上目遣いにお祈りのポーズでお願いするのが良いだろう。


それとも、キラキラマジカルスティックを振り回して、


「シェフはとっても美味しいオイシルとリンゴのグラタン、お城風を作りたくな~る~♪」


と呪文を唱えてみるか…。



シェフなら魔法に掛かったフリをしてくれるだろうな~。

クフフ。





結局、キラキラマジカルスティックをフリフリしてシェフに魔法を掛けたアナスタシア。


シェフは唇をプルプルさせながら笑いを堪えて、


「あー!なんだかとってもオイシルとりんごのグラタンが作りたくなってきた~。何でだろ不思議だなー」


と魔法に掛かったフリをして、シェフのプライドにかけてお祭りよりも美味しいグラタンを作ってくれたのでした。

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