アトレータ初探索と肉
うっしっしっしっ。
と、ぶりっ子ポーズの定番、両手をグーにして口元を隠しながらにやにやと笑うアナスタシア。
いけない、いけない、素が出てしまった。お嬢様でセレブで貴族なのでお澄まししないとね。
席でおしりをもぞもぞ動かし座りなおす。
さて、今日はどこへ行く?まずはランチよね。
アトレータランチについて来てくれたのはこれからランチで手が空いていた若い騎士だ。
安全な街だが、念のため護衛も兼ねているらしい。
「ねぇ!アトレータといえばこれ!という食べ物を食べたいわ。有名で皆が知っているものよ」
「おまかせください。アトレータと言えば、肉です。」
「肉……。肉が有名なの?」
「はい、アスポロスは海がなく、氷河の湖と川と草原の土地ですので肉が一番美味いですよ」
ちょと……。お兄さんが肉食べたいだけじゃないの?
ちょっと疑いの目で見つめてしまっていたのか若い騎士は焦ったように付け加える。
「アナスタシア様がおしゃれなお店がよいようでしたらそちらも、勿論案内できますよ!」
「あなたはそのお店がとっても美味しいというのね?」
「はい、庶民的な店ではありますが絶品ですよ」
「へぇー。楽しみね」
そんな話をしていると到着したのは庶民的な街にレンガ作りの店が立ち並ぶ一角。
三階建てのレンガ作りの建物の三階部分は水色のペンキで塗られている。
二階部分はレンガの色そのままの面白い建物である。白と赤の看板に黒い文字で店の名前が書かれている。とっても目立つ大き目の店がある。
「さぁ、着きましたよ。スワルト・デリという、デリカッセンです」
と言いながら、アナスタシアをひょいっと抱えて馬車からストンと降りてそのまま店内へとドアを開けて入っていく。
カランカランというベルの音と共に店の若いお姉さんが現れる。
「いらっしゃい!今カウンターしか空いてないけど大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
店内は、テーブル席とカウンター席で埋め尽くされ、客たちの熱気と店員の活気で溢れかえっている。壁に貼られた手書きのメニュー、使い込まれたテーブル、そして、忙しくも楽しげに働く店員たち。それら全てが、この店の歴史と伝統を物語っていた。
カウンター席に座ると、目の前で繰り広げられる光景に圧倒される。店員たちは、熟練した手つきでスモークミートを切り分け、パンに挟んでいく。
周りを見渡しても殆どの人が同じサンドイッチを食べている。
「注文は何にする?」
「スモークミートサンドイッチを二つ、一つダブルで。あと炭酸水とコケモモのジュースを」
「一つはダブルで了解!」
と店員は笑顔で去っていく。
「はい!おまたせ~。」
とドン、ドン!と置かれ、目に飛び込んでくるのは肉が山のように挟まれたサンドイッチ。
隣を見るとその倍はあるスモークミートが山のように挟んである。
そして、ずっしりと重みのあるカリカリに焼いたライ麦パン。その香ばしい風味が、期待感を高める。
大きい塊を両手で掴んで一口頬張れば、肉の凝縮された旨味と、複雑に絡み合うスパイスの芳醇な香り。噛みしめるたびに、肉汁がじゅわっと溢れ出し、ライ麦パンの風味と絶妙な味わい。
繊維に沿ってほろほろと崩れる肉の柔らかさは、まさに職人技。
さらに美味しさを引き立てるのが、アクセントとして塗られたイエローマスタード。そのピリッとした辛味が、濃厚なスモークミートの味わいをキリッと引き締め、後味を爽やかにしてくれる。
お子様な口にも刺激が強すぎずベストマッチ!
凄く大きいピクルス丸ごと1本も豪快だけど一緒に齧るとこれまた美味しい。
飽きずに食べられる。
夢中で食べているとカウンターの前で肉を切っていたムキムキ、髭モジャで白いTシャツに赤いエプロンをしたおじさんが声を掛けてきた。
「嬢ちゃん、旨いか?」
「うん!うんまい!」
全くお嬢様感の無い返事をしてしまったが、おじさんは満足のようだ。
ニッコリ笑って、このスモークミートがただの燻製肉ではない説明をしてくれる。
何日もかけて丁寧に塩漬けされ、秘伝のスパイスでじっくりとマリネされた牛肉のブリスケット。それを、これまた時間をかけてじっくりと燻製することで、外側は黒光りし、中は信じられないほどジューシーに仕上がるらしい。
そんな話を聞きながらサンドイッチとコケモモのジュースを味わう。
騎士のお兄さん、疑ってごめん。すんごい美味しい。
これだけでもアトレータに来た価値があると思ってしまうよ。
リピート確定だよ。
横を見るとお兄さんがいい笑顔でお肉ダブルのサンドイッチを美味しそうにかぶりついていた。




