フィッシャーマンズワーフでランチ
屋台のお菓子カイリーテイルを機嫌よく食べ、その後馬車を走らせ到着したのは大きな港のある波止場町、所謂「フィッシャーマンズワーフ」だ。
潮風が頬を撫で、カモメの鳴き声が遠くから聞こえてくる。大きな貿易船も入港するオルサポルタのウォーターフロントは、まるで時間がゆっくりと流れる、美しくも賑やかな場所だった。
馬車から降りて木製のボードウォークをゆっくりと歩くと、足元からカツカツと心地よい音が響く。道の片側には、古い倉庫を改装したレストランやショップが立ち並び、それぞれが個性的な魅力を放っている。
今回はコンラッドがおすすめする趣のあるレンガ造りのレストランにて昼食である。
重厚な木の扉を開けてもらい中に入ると、人気店であろう人の賑わう素敵なレストラン。
大きな窓からは、外の光を取り込み明るい印象ながらもクラッシックな装いのお店だ。
テラス席もあるようで裕福そうな大人達がワインやビールなどと一緒に食事を楽しんでいる姿が見える。
「アナスタシア様、本日は窓際の席を用意させました。美しい景色を眺めながら、美味しい料理をご賞味ください。」
コンラッドは、いつものように穏やかな口調でそう言った。
案内された窓際のテーブルには、真っ白なテーブルクロスが敷かれ、銀食器が上品に並べられている。窓の外には、青く澄んだ海がキラキラと輝き、カモメが優雅に飛んでいた。
店内は、落ち着いた雰囲気で、上品な会話が静かに響いている。
「本日のスペシャリテは、オルサポルタ産のマッソー貝の白ワイン、香草蒸しでございます」
それまで美味しい料理を期待し、ご機嫌だったアナスタシアはレストランの従業員の掛け声と共に運ばれてきた白い大皿を見て、目を丸くした。貝殻の中身が、今まで見たことのない鮮やかなオレンジ色をしていたからだ。
心の中でひぃぃ!と悲鳴を上げながら貝を確かめる。
貝殻は茄子のような濃い紫から紺色をしており中の身が毒々しいビビットなオレンジ色をしている。
白ワインの芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、食欲を刺激するいい香りではあるが、アナスタシアは周りを確認し、小さい声で
「ねぇ、コンラッド。この貝の中の色大丈夫なの?ど…毒とか無いのよね?」
「ふふ、アナスタシア様はこの色を毒々しいと感じられるのですね。とても興味深い。大丈夫、問題ございませんよ。オルサポルタで取れるマッソー貝は全てこの色で名産品です。」
ご安心くださいと笑顔で促される。
アナスタシアは一先ず淡い琥珀色のリンゴジュースで喉を潤し心を落ち着かせる。
今まで食生活も問題ないと安心していたのに。
遂に、こんにちは異世界!と言いたくなるような見ただけで食わず嫌いになりそうな貝料理が出てきた。
震える手でフォークを持ち上げると恐る恐るマッソー貝の身にフォークを突き刺す。
プリンッと貝から身が取れ勇気をもって小さく齧る。
プリプリとした食感と共に、濃厚な旨味が口の中に広がる。白ワインとハーブとガーリックの風味が鼻に抜け、マッソー貝の甘みを引き立て、絶妙なハーモニーを奏でている。
「おぉ…美味しいのではないかしら」
と震える声で答える。
「お口に合ったようでようございました」
とコンラッドも淡い微笑みをのせて自分の皿のマッソー貝を食べ始める。
添えられたバゲットとの相性も大変良く、気がつけば、山盛りのマッソー貝も難なく美味しく食べる事ができた。
びっくりした。個人的にビビットなオレンジ色が慣れないが味は間違いなく美味しい。
最後にブルベリーソースたっぷりのチーズケーキを堪能しレストランを後にするのであった。




