蹴る騎士あれば拾うシスターあり
異世界転生のお約束、あれの登場です。まぁ既に一回出てるんですけど。
意識が覚醒すると、転生して目覚めてこんにちはした廃墟、ではないな、どこだここ?まさか俺がイケメンすぎて誘拐とかされた?まだ自分の顔まじまじと見たことないけど。えーと何してたんだっけ。
確かカタリナの遺体をパン分け姉さんに預けて、街まで行って馬車を見つけて……そうだ!!あの騎士に蹴り飛ばされて、その後ぶん投げられたんだ!って思い出すと急に胸の痛みがフェードインしてくる。いててて。でも蹴られてすぐよりもだいぶ痛みは無くなってるな。どんくらい時間が経ったんだ?
周りを見渡すと何かの動物の毛皮の上に寝ていた。毛皮の下には草が敷き詰められ、少しだけクッション性を感じる。これだけでもうカタリナと住んでた廃墟とは違うが、一つ言えるのはここは明らかに家と言って良いだろうということだ。なんせ四方はちゃんと石の壁に囲まれているし、扉や窓の代わりであろう小さな木の戸も確認できる。
窓から差し込む光は明るく、時刻が朝方から昼頃であろうということを教えてくれる。レイシスとして転生してなんやかんやしたのは昼過ぎだったから1日経ったと考えて良いかもしれない。
毛皮のベッドから起き上がり、背伸びをして外を見ようとするが……届かない。まだ幼児期真っ盛りのレイシス君の身長よりちょっとだけ高い位置に窓がある。でもこれくらいの高さなら……ふん!
窓枠の下の出っ張り部分に手をかけて身体をぐっと上に持ち上げる。鉄棒の前周りの時の姿勢だ。どうにか窓の外を見ると、庭のような開けた空間が見えた。いったいここはどこなのだろうか?騎士が蹴飛ばしたのを謝るためにハトネル子爵とやらが家まで連れてきて介抱してくれた?流石に楽観的すぎるかそれは。
にしてもあの騎士もわざわざ蹴ったり投げ飛ばすことなくね?口で言ってくれればよかったじゃん。まぁ口で言われてもはいそうですかと退ける余裕は胸が痛すぎて無かっただろうけど。
そうして思索に耽っていると、背後の扉が開く音がして振り返る。薄く開けた扉の向こうの俺と背丈の変わらない少女と目が合う。この子が俺をここまで運んでくれたのか?
「っ、シスターーー!!」
目が合った少女は少しビクッとしたかと思うと、扉から走り去りながら大声で誰かを呼んだ。
シスターってことはここ教会かなんかなのか?にしてはステンドグラスとか神様の像とかないけど。でもここ客室みたいな感じだしそんなとこにまで置かないか。
そんなことをつらつら考えていると、ゴスペルの映画で見たような修道女の格好をした、すらっとした40代くらいの穏やかそうな女性が部屋に入ってきた。
「どうやら目が覚めたようですね。気分はどうですか?貴族の兵士に蹴り飛ばされたと聞きましたが」
「まだ少し胸は痛いですがだいぶ良くなりました。あなたが気を失った俺を拾ってくれたんでしょうか?ありがとうございます」
この人は助けてくれたし良い人と信じたいが油断してるとまた蹴り飛ばされるかもしれない。そう思っていつでも逃げられるように気を張っていると、シスターが膝を折って視線を同じ高さにして微笑みかけてくる。
「まぁご丁寧にありがとう。自己紹介が遅れましたね。私はこの孤児院を運営しているヘレンです。あなたの名前も聞いても良いかしら?」
「レイシスです」
「レイシス君、良い名前ですね。それとあなたを拾ったのは私ではなくてキアラよ。あなたにパンを分けたことがあるらしいんですけど覚えていますか?」
「あー、覚えています。キアラさんと言うんですね」
パンを分けてくれるだけでなくてまた助けてくれたのか。近所の優しいお姉さんとか好きになっちゃいそう。今度会ったときにお礼言わなくちゃな。
「あの子ったら久しぶりに顔を出したと思ったら、『この子を助けてあげられない!?』なんていきなり言うもんだからびっくりしたわ。実際骨も折れていたみたいだからここに連れてきてくれてよかったけれど」
「え、俺骨折れてたんですか!?にしては今そんなに痛くないですけど…」
今はせいぜいどこかに強くぶつけたくらいだ。すごいよく効く鎮痛剤とかでもあるのか?いや待てよ、ここは地球とは全く違う異世界だ。もしかしてもしかするとーー
「私が治癒魔法を使って治療したのよ。完全に治すことはできなかったみたいだけど少しでも良くなったならよかったわ」
キターーーーーーー!!!魔法だーーーーー!!!
そういえばレイシス君も記憶の中で手から水出してたな。完全に忘れてたけど多分あれも魔法なんだろう。やばい、思い出したら早く使ってみたくなってきたどうしよう。
「ふふっ、そんなに魔法が気になるなら少し見せてあげましょうか?とはいえあなたみたいな怪我人がまた運ばれてくるかもしれないからこれくらいですけど」
どうやら魔法へのワクワクがありありと出ていたらしい。そう言うとヘレンの手のひらに何か透明の壁のようなものが生まれた。
「あの、この透明なのは何なんですか?」
「あら!これが見えるんですか?」
見えるのかと聞かれても目がよほど悪いわけでもないし、角度によっては光の反射で見えづらいかもしれないが大体の人は見えるだろう。
「まぁ見えますけどそれがどうしたんですか?」
「ふふ、では軽くその壁を叩いてみてください」
ヘレンが手のひらを上にするようにして俺の目の前に手を出してきた。言われた通りに拳を振り下ろすように軽く叩いてみると、およそ人に触れたとか思えない、壁を叩いたような硬質な感触と何とも言えない流れのようなもの
を感じる。
「うわ!なんですかこれ!」
「これは魔力で作った壁です。そしてこの壁、つまり魔力が見えると言うことはレイシス君はもしかしたら魔法が使えるのかもしれないわね」
うおおおお!やっぱ魔法使えるんだな俺!これはなんとかして魔法を極めるしかないだろう。衣食住を良くするのとは別に目標ができてしまったがこれは絶対に頑張ろう。
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