霊感
農場を管理しているアンドロイドの手に余る骨董品の農機具の修理のために、私が派遣されて来た。
農機具は農場の都会に住む所有者の亡くなった祖父が購入したもので、所有者にとっては祖父の遺品といえる品なので破棄せず修理を希望したため、アンドロイドと違い融通の利く人間の修理工が必要だった訳だ。
農場から泊まっている駅前の無人店舗のカプセルホテルへの帰り道、道沿いにある寺の広い境内で盆踊りが行なわれていた。
周辺住民の自主運営なのか屋台の類は出ていないが、明かりが煌々と輝く境内に櫓が組まれ、櫓の上で太鼓や笛が奏でられ櫓の周りで大勢の人たちが踊っている。
此処からなら駅前のカプセルホテルまで歩いて帰られる、だから乗っていた無人タクシーを停めここで下車した。
懐かしさから暫く櫓の上で奏でられる太鼓や笛の音を聞き、楽しげに踊る人たちを眺める。
50年以上昔の幼い頃、両親に連れられてその頃住んでいた市が主催した盆踊りに参加した事があった。
境内に流れている太鼓や笛の音は、朧気ながら覚えている幼い頃聞いた物と同じだし踊りも同じ物だと思う。
私は踊っている人たちに会釈し踊りの輪に入れて貰い一緒に踊る。
壇家が減り無住職寺となった真っ暗な寺の広い境内で、1人の男が踊っていた。
霊感がある男は、子孫が絶えたり都会に出て行ってしまったりしてお迎えしてくれる家が無い霊たちが自主的に運営している盆踊りに、そうとは知らずに参加して踊っているのだった。