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エンジェリックガールズ  作者: 柚里カオリ
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第11話 これから

「そうでしょう? アリエル」


 振り返り、羽衣を見たのは輝星。袖がフリル状に広がった、大きめの白いブラウスのボタンを一番上だけ止め、濃い緑色の大きなリボンをつけて、淡い緑のフリルワンピースに白いかぼちゃパンツ、緑のストラップシューズを身に着けた輝星の背中からは翼が飛び出しているが、羽衣の背中にある大きな翼とは違い、輝星の翼は小さく、キューピットを思わせた。


 暗闇の中で、輝星の星の髪飾りがキラリと輝く。輝星は呆然とする羽衣に向かって微笑んだ。


「だから、助けてあげる」


「大天使チャミエル……出会いたくない天使に会ってしまったわぁ……」


 アザゼルが苦々しげな表情で言う。輝星は平然とした様子で、豹の姿をしたルックの頭を撫で始めた。


「堕天するのは勝手だけれど、それに私の友達を巻き込むのは止めて欲しいのだヨ。羽衣は、いま死なれては困るのダ」


「なぁに? そんなに重要なの? その子」


 輝星がアザゼルを見た。アザゼルが身構える。すると、輝星は不敵な笑みを浮かべた。


「君には関係ない」


 次の瞬間、アザゼルの後ろに、巨大な赤い鎧が現れた。


「⁈」


 アザゼルが振り返り、目を見開く。巨大な鎧は、暗闇の中で、手にした大きな剣を振り上げていた。


赫赤(かくせき)(よろい)


 鎧が剣を振り下ろした瞬間、アザゼルは咄嗟に飛んで逃げ、剣は地面に打ちつけられる。だが、後ろで響いた大きな音に、思わず振り返ったアザゼルの後ろには、輝星が立っていた。


 アザゼルがそれに気が付き、鞭を振る暇も与えず、輝星は両手で持っていた大剣でアザゼルを斬りつけた。


「いやああああっ‼」


 淡い赤色の光を放つ刀身に、緑色の柄を持つ輝星の大剣で身体を斬りつけられたアザゼルは、深い傷口から黒くザラザラした靄を噴き出しながら悲鳴を上げる。仰向けに倒れたアザゼルの瞳に映るのは、不敵な笑みを浮かべる輝星の姿だ。


「……あ……ああ……」


 靄が噴き出す傷口からアザゼルの身体が黒い粉になって散っていく。背中の黒い翼はボロボロと抜け落ち、地面に散らばった。その様子を、レオに支えられて立ち上がった羽衣は、呆然と見つめていた。


「ルシ……ファー……様……」


 アザゼルの掠れた声が聞こえた次の瞬間、羽衣はいつもの帰り道に立っていた。


「……え……」


 唐突に目に映ったいつもの景色に、羽衣が声を漏らす。そして、ようやく、自分の手を握っている、目の前の輝星に気が付いた。


 羽衣よりも背が低く、小柄な輝星は、羽衣を見上げ、大きな瞳で羽衣を見つめていた。そして、羽衣が自分に気が付いたことに気が付くと、パッと目を輝かせて笑った。


「羽衣!」


「え、あ、輝星ちゃん……」


「無事でよかったネ!」


 そう言うと、輝星はパッと羽衣の手を離した。羽衣は思わず自分の手を見る。鞭で腕を縛られた感覚は、はっきりと残っていた。


「チャミュ~」


 輝星の足元で、ぬいぐるみのような姿をしたルックが抱っこをせがむように両手を上げている。輝星はルックを抱き上げると、頭を撫でた。


「エンジェリックだから大丈夫だと思うけど、レオはしばらく安静にしていてネ」


 輝星の言葉に、羽衣がハッとして自分の足元を見る。ぬいぐるみの姿をしたレオは、羽衣の足元に隠れ、警戒するように輝星を見ていた。レオの身体には、鞭で打たれた痕が残っていて痛々しい。


「レオ‼ 大丈夫⁈」


 羽衣が慌ててレオを抱き上げるが、レオは答えようとせず、じっと輝星を見つめていた。


「じゃ、羽衣。また明日ネ!」


 輝星はそう言うと、羽衣に手を振り、ルックを抱きかかえたまま走って行った。羽衣はその背中をポカンと眺め、徐々に輝星の背中が小さくなっていく。


 輝星の背中が見えなくなると、ずっと黙っていたレオが口を開いた。


「思い出したぞ。大天使チャミエル。神を見る者。天使の中でも戦いに長けた、戦闘において絶対的な力を有する大天使」


「……輝星ちゃんって、そんなに強いの?」


「敵に回していいことは何もないと思うぞ。戦闘能力もさることながら、チャミエルの強さは未来視という、あまりにも秀でた能力にも所以する」


「なんだか、不思議な子」


 羽衣があっけらかんと呟き、レオがため息をついた。


「天使は羽衣以上になにを考えているのかわからない奴が多すぎる……」


「えぇ? そんなことないよ!」


 羽衣が頬を膨らませ、レオはさらに大きなため息をついた。


    ◇


 羽衣の元から去っていった輝星は、小さな公園のブランコに座り、ルックを膝に乗せたまま足をぶらつかせていた。夕焼けと夜の闇が混ざり合った空は不思議な色をしている。


「どこまで付いて来るのカナ? ハニエル」


 輝星がルックの頭を撫でながらそう言うと、公園の気の後ろから綺心が現れた。険しい表情をしている。


「やっぱり、バレていたんだね」


「もちろん! 最初からわかっていたヨ! ていうか、私が気づいていること、わかってたデショ?」


「ああ。大天使チャミエルは、すべてを見通す大天使」


 綺心が輝星に近づいて来る。綺心の後ろから、翼を生やしたグレイシスが一緒に飛んで来た。輝星の大きな瞳に綺心が映る。


「チャミエル。君の目的はなんだい?」


「それはもう話したはずだヨ?」


「これまで君は、高い戦闘能力を持つにもかかわらず、すべての者との衝突を意図的に避けて来た。天使はもちろん、堕天使も、さらには悪魔との衝突さえ避けて来た君が、他の天使と接触を図って、『面白そうだから』なんて理由で片付くはずがない」


 不敵な笑みを浮かべる輝星とは対照的に、綺心は険しい表情を浮かべている。輝星は「うーん」と少し考えるような素振りを見せた。


「だって、私が関わってしまうと、未来が変わってしまうデショ? 私が見るのは、『大天使チャミエルが干渉しない未来』。でも、このまま干渉し続けないと、ちょっとマズイことになると思ってネ」


「……マズイこと?」


「私は七大天使になるつもりなんてない」


 輝星が微笑み、膝の上のルックが輝星を見上げた。綺心が怪訝そうに眉をひそめる。


「それでは、七大天使が決まった時に君に残される道は消滅だけだ」


「そうなる未来を変えるために、私は干渉することを選んだのダヨ。ハニエル」


 綺心はしばらく怪訝そうな表情を浮かべていたが、なにかに気が付いたように目を見開いた。そして、苦笑いを浮かべる。


「……チャミエル。君は、どこまで見えている……?」


 綺心の問いかけに答えず、輝星は「フフン」と鼻を鳴らすと、自分を見上げているルックの頭を撫でた。ルックが嬉しそうに笑う。


「邪魔をするつもりなんてないヨ。君たちが巻き起こす『これから』を、近くで見てみたいと思ったダケ」


 輝星が「ネ?」と綺心に微笑みかける。引きつった笑みを浮かべる綺心を、グレイシスは不安そうに見つめていたが、綺心は意を決したように小さく息を吐くと、輝星に手を差し伸べ、握手を求めた。


「よろしく。チャミエル」


 輝星はパッと目を輝かせると「うん!」と嬉しそうに綺心の手を取った。

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