8:えっと、どうすればいいのでしょうか
クロード様は、自身のテールコートの胸ポケットから、封筒を取り出しました。そしてその封筒を、私に渡してくれました。シャンパンゴールドの封筒は、パール調に輝き、とても上質な紙で作られていると分かります。表面には秀麗な文字で、私の名前が書かれていました。裏面を見ると、リッシュモン家のシグネットリングの封蝋。
今すぐ開けたい衝動に駆られますが、片手であけるのは無理です。
「馬車に乗ってから、開けてもらえれば」
クロード様が、サファイアを思わせる瞳を細め、笑顔になります。本当にお美しい顔です。このように美しく、騎士団の花形である剣の騎士団で、団長をされているのですから……。当然、おモテになるでしょう。
そこで気づいてしまいました。
なぜクロード様と、あの部屋で会うことになったのかを。
私は壁の花になるぐらいなら、美味しいものをいただきたいと思い、軽食や飲み物が用意されているあの部屋に向かいました。でもクロード様は、私の逆なのでしょう。沢山の令嬢から、ダンスを請われると分かっていたので、あの部屋に逃げ込んだのだと思います。
でもそれならクロード様も、舞踏会へ来なければいいのに……?
いえ、そんなことはありませんでした。クロード様のような立場になると、自分の意志とは無関係に、社交のため、動く必要もでてきます。きっと今日も、顔を出すことが必要だったのでしょう。それなのにこの封筒のために、お屋敷に戻るなんて。
えっ……。
気づいてしまいました。とんでもないことに。
確認のため、クロード様に尋ねます。
「あの、クロード様。この封筒は馬車で開封させていただきますが……。まさか私にこれを渡すために、わざわざお屋敷まで……?」
そうなのです。
クロード様は、私宛のこの封筒を取りに行くために、わざわざトンボ返りでお屋敷へ戻り、再びこの舞踏会の会場へ戻ってきている可能性が……高い。
「いや、リラ、君はそんなことを、気にする必要はない。僕がしたいと思ってしたことだ。本当は……その、両親からもはっぱをかけられていて。例年だと妹に渡し、妹が対応してくれていたが……。妹も結婚して家を出てしまった。今年は母親に頼もうとしたら、断られてしまい……」
クロード様は、よっぽど困っているのでしょうか。
大きなため息をつかれました。
「副団長から『それなら舞踏会にでも顔を出し、そこで頼みこめばいい』と言われ、いざ舞踏会に来たものの……。端から乗り気ではなかった。だからこの封筒自体を、屋敷に置いてきていた。それに気づいて、ますますやる気がなくなってしまい……。もう諦めていたのだが。リラに会って、何かピンとくるものがあった。最初は明日にでも使いをやり、届けることも考えたが……。やはり僕の手で、君に渡したいと思ってしまった」
改めて封筒を見てみました。
今のクロード様の言葉を反芻し……。
「え!」
思わず立ち尽くしてしまいます。
大変、大変重要なことを忘れていました。
夢キスのヒロインさんと、クロード様の出会い。
それは舞踏会。
ヒロインさんと会話し、彼女を気に入ったクロード様は、ヒロインさんをトリコロール剣術祭に招待します。しかも招待状として渡すのは、剣術祭に出場する騎士に一席ずつ与えられた、特別な席――貴賓席。つまりそこに座れるのは、騎士が大切にする女性一人のみなのです。
大変なことになりました。
これはヒロインさんの一大イベント。
この招待状は、モブの私が受け取っていいものではありません。
「ク、クロード様、この特別な貴賓席は、私などに与えていいものではございません。確かに例年は妹さんが座り、そして今年はお母君にお座りいただくつもりだったのかもしれません。でも本来そこに座るのは、クロード様が大切に思う女性なのです。それは私などではなく……」
そう、私などではなく、ヒロインさんなのです。
それを伝えようとしたのですが、またまたここで気づいてしまいます。
……どうすればいいのでしょうか。
さっきの話しぶりですと、クロード様は、私とわかれた後、ほぼすぐにお屋敷へ戻られました。つまりヒロインさんとは、会っていない可能性が高いのです。
「あの、クロード様。舞踏会で、カナリア色のドレスの女性と、会話されましたか?」
「いや。リラとフランチェスカ様としか、会話していない。女性とは」
大変です。
でも、クロード様とヒロインさんが会話していないのは……あ、そうです。悪役令嬢さんとクロード様が話していたので、ヒロインさんは、クロード様と会話できなかったのですね。
でもクレマン様とは会話できたわけです。ヒロインさんが逆ハーを目指していないなら、今日、クロード様と接点を持たなくてもいいわけで……。
目指しているのでしょうか、逆ハーを? それは分かりません。
それよりも……。
う~ん。
どうしたらいいのでしょう。
貴賓席の招待状は、ヒロインさんに渡した方がいいはずです。でもクロード様は、まだヒロインさんと会っていません。それなのにヒロインさんに、招待状を渡した方がいいと提案するのは……。意味不明過ぎます。
困りました。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
このあと12時台に、もう1話公開します!
【予告】アズレーク視点第一弾公開
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
https://ncode.syosetu.com/n8030ib/
上記作品のアズレーク視点第一弾を
明日、3月26日(日)のお昼
公開します!
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