幕間の物語:初恋
僕は……今日、運命の女性に出会った。
彼女はとても可憐だ。
透明感のあるホワイトブロンドの髪。
みずみずしく艶のある肌。
瞳はまるでアメシスト。
可愛らしく小さな唇。
小顔でまるでお人形さんみたいだ。
蝶よ花よと育てられた令嬢にしか見えないのに。
彼女は……僕を助けるために、男達に立ち向かってくれた。
武器なんてない。
身一つで。
聞いたところでは、自身の持ち物や身に着けていた物を残しながら、さらわれそうになる僕の後を追ってくれた。しかも壺にいれられそうになる僕を助けようと、石を投げてくれたのだ。
武術の経験なんてない、可憐な彼女が僕のために。
信じられなかった。
女性とは。
敬い、守るべき者と学んできた。
そしてそれが当然であると、僕は思っていた。
女性は、僕達男子に比べ、肉体的に弱い。
男子に比べ、細い手足に華奢な体をしているのだ。
そんな姿で戦闘なんて無理。
力のある男子が守る――それが最善だと思っていた。
それなのに彼女は……。
きっと。
トリコロール剣術祭のために、綺麗に髪を結い、美しいドレスを着ていたはずだ。それなのに髪はほつれ、間違いなくドレスはボロボロに……。
あの、美しい手。
ミルクのような肌にチェリーブロッサムの花びらのような爪。全ての指が細く、長く、でもその大きさはとても小さく。
その手が土で汚れていた。
僕を守ろうとしたために。
◇
男の一人が突然、「痛っ!」と叫んだ。
さらに「わからねぇ、何か背中に当たった」と言った時。
誰かが、僕がさらわれそうなことに気づき、男達に攻撃してくれていると思った。
でも男達はすぐに再び僕を壺にいれようと動き出した。
どうして? 助けるつもりなら、もっと男達に攻撃をして欲しい――そう思った。まさかあんなに可憐な女性が、僕を助けようとしているとは思わなくて。
「おい、幌馬車の影に女がいた。こっちを見ていたぞ」
「何? 女?」
「もしかしてあの女が俺に何か投げたのか?」
「かもしれないな。追うぞ」
女……?
女性が僕を助けようとしていたのか……!?
衝撃を受けたが、男が三人、この場から離れた。
逃げるなら、今だ。
そう思った僕はさらに暴れ、一人の男を頭突きで倒し、ひるんだ男達相手に、とにかく拘束された手足をばたつかせ、無我夢中で蹴りをいれた。
その時だった。
ビュンという風を切る音。
直後に聞こえる男の悲鳴。
声の方を見ると、男の腕に矢が刺さっている。
この矢のヴェインは……弓の騎士団のもの!
すぐに次の矢が飛んできて、男達は慌てて逃げ出した。
僕は壺が置かれた荷台に投げ出される。
騎士団が助けに来てくれたなら、もう大丈夫なはずだ。
しかし、僕を助けようとした女性は大丈夫なのだろうか……?
そう思った時。
「よお、坊主。よく頑張ったな。一人、のびているじゃないか。お前が倒したのか?」
トルコ石のような瞳に、その瞳の色を淡くしたような色合いの髪。よく日焼けした肌に、引き締まった体――槍の騎士団の団長、ヘクトル様!
「今、全部外してやるから」
ヘクトル様はそう言いながら、口の猿轡、手足を縛るロープを外してくれた。
「ヘクトル様、ありがとうございます。僕の名はリビオ・マダレーナ・バティア、騎士見習いをしています」
「ほう、騎士見習いか。これは将来有望だ。手足を拘束されているのに、敵を一人倒したのだからな」
ヘクトル様は僕の手をとり、荷台から降りるのを手伝ってくれた。
「どこも怪我はないか、リビオ?」
「大丈夫です。それより僕のことを」
「ヘクトル、森の中で倒れている男達の連行を頼む。私はクロードの様子を見てくる」
その声は弓の騎士団の団長、ロジェ様……!
それにクロード……剣の騎士団の団長、クロード様まで……!
まさか僕の救出のために、三つの騎士団の団長が駆け付けてくれるなんて。感動で胸が熱くなる。
この国の少年にとって、それぞれの騎士団の団長は英雄だ。特に剣の騎士団の団長は……憧れだ。騎士見習いの僕達が目指すのは、剣の騎士団の団長。そしてクロード様は史上最速で団長に就任された。その存在はまさに神のよう……。見習いの僕らであっても、めったに会える方ではない。
「それで、君の名は?」
森から戻ってきたがロジェ様が、すぐ近くまで歩み寄り、僕を優美な眼差しで見た。
束ねられたモーブシルバーの髪といい、透き通るような肌、ローズクォーツのような淡いピンク色の瞳。まるで女性のように美しい。祖先にエルフがいると噂されているが……きっとそうなのだろう。
思わずドキドキしながら名前を告げると、ロジェ様は少し考え込んだ。
「バティア……、もしや公爵家の?」
「あ、はい」
「おいおい、バティア公爵といえば、王太子様の婚約者様じゃないか?」
ヘクトル様が目を丸くしている。
「そうですね。フランチェスカお姉様は、リュシアン王太子様の婚約者です」
僕が答えると、ヘクトル様とロジェ様は驚きの声を挙げた。
二人の反応になんだかくすぐったい気持ちになったが、大切なことを思い出す。
僕を助け出そうとしてくれた女性のことを。
その女性について尋ねると……。
「クロードが追った男達が多分、その女性に手を出そうとしたのだろう。おそらく間に合ったはずだ。私が確認しておこう」
ロジェ様が駆け出し、僕とヘクトル様は。
森で倒れる男達を拘束する騎士達を手伝った。
◇
「僕のせいですね。雪のように美しい肌が、汚れてしまいました。本当に申し訳ないです」
差し出された美しい手についた土を、ハンカチで綺麗にふき取った。
すると美しい彼女は……リラ・アルダン伯爵令嬢は……。
「リビオ様、お気になさらないでください。私が運動不足で転んだだけですから」
僕のせいでこんな姿になったのに。
僕を助けようとして、この美しい手は汚れてしまったのに。
彼女の優しい心遣いに胸がいっぱいになる。
「……訓練を積み、立派な騎士になりますから。どうか、その時まで。待っていてください」
その手を取り、甲へと口づけをする。
彼女のことを一人の騎士として守りたい――。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
一応、オペラ仕立てで全体を構成しました。
ラストがオペラ観劇になっているのも
そのためです。
よって幕間もいれ、これにてフィナーレ☆
皆様、お楽しみいただけましたか?
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そして本作と同じ、ほんわか癒し、もふもふ時々事件、溺愛作品がございます!
『もふもふ悪役令嬢の断罪が
溺愛ルートなんて設定していません!』
https://ncode.syosetu.com/n1220ih/
こちらは自身が企画した乙女ゲームの世界に主人公が転生してしまい、そこで猫耳&尻尾を持つキャット族の悪役令嬢に転生してしまいます。しかしその乙女ゲー、まだ企画書段階。断罪内容は、断頭台送りも娼館送りもない、可愛いものばかり。が、唯一上司の命令でパンチのきいた断罪を入れており、それが「魔王への嫁入り!」。
この作品は、断罪終了後シリーズの第四弾ですので、主人公は自分がもふもふの悪役令嬢であると覚醒するのは、断罪終了後! つまりフラグ回避行動は一切できず、「魔王への嫁入り」が確定した後です。
世界で最も残忍・残虐・残酷で無慈悲な魔王と、結婚するしかないと気づいたのですが(ガタブル)……。
基本は癒し。
でも事件も勃発。
純愛。じれじれ。可愛い。
溺愛、勿論ハッピーエンド。
癒しが欲しいなぁ~とクスッと笑いたいなぁ。
そんな気持ちから書いた作品でもあります。
よかったらご覧くださいませ☆
さらにページ下部に多数の一番星キラリ作品のイラストリンクバナーがあります。
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それでは。
皆様にまたお会いできますようにヾ(≧▽≦)ノ
本当にありがとうございました.。.:*♡